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2008年11月

佐々木康彦の勝手に目利き

『本当はちがうんだ日記』 穂村弘/集英社

 「今はまだ人生のリハーサルだ」と思うことで今のみじめさに耐えている、「芋虫が蝶に変わるように、或る日、私は本当の私になる」って、十代、二十代ならまだしも四十代のおじさんの言葉じゃない。このどうしようもなさが面白いのですが、全部読むと著者が努力せずにこういうことを言っているんじゃないことがわかり、面白いだけじゃなく、自分も頑張ろうと思える良い読み物でした。
「友達への道」や「夜の散歩者」で書かれている、人との相容れなさは、よくわかるけれど、客観的に読まされると笑えてしょうがない。「あだ名」も笑えて笑えて、笑いすぎてなんだか最後は泣けてきた。この辛さを外に向けるのではなく「あれこれと気を遣って、しょっちゅうもう駄目だと思いながら、びくびく暮らしている」ってところが、共感を呼ぶのではないでしょうか。
 雑誌の対談とかだけだと真面目な人のイメージでしたが、印象が変わりました。面白い人だったのですねえ。

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