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2007年12月

佐々木克雄の勝手に目利き

『渋谷に里帰り』 山本幸久/NHK出版

 デビュー時からの山本作品ファンなのだが、何故そんなに好きなのかを考えてみるに、どこでもいそうな、それでいて心に残るキャラたちが魅力なのだなと。それと計算ずくでないユーモアと、飄々とした文体もしっくりくるのだな、とも。
「はあ」が口癖の冴えないサラリーマン君が、寿退社する女性から業務を引き継ぐことになり、振り回されるてな、どこでもありそうなお話。彼が少年時代を過ごした渋谷の街を営業マンとして歩き回ることで過去と対峙し、前を向くようになる。
 気がつくと「ガンバレ」って言っている自分がいた。まもなく自分が彼となって山本ワールドのキャラたちに囲まれていた。そう、この作品の主役は自分だったのだ。
 落ち込んでいるときに読んだ分、滋味溢れるストーリーが心に染みまくった。評価は間違いなく★×5、今年読んだ本の中でもベスト5に入ると思う。

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『本当は恐ろしい漢字』 小林朝夫/彩図社

 私事で恐縮ですが、遙か昔に学習塾で働いておりまして、この本の著者が当時の上司、小林先生でした。受験界では「国語の神様」と呼ばれる方なのですが、その経歴もかなりユニークでして、興味のある方はウィキペディアあたりで調べてみてください。
 しばらくご無沙汰していたら、こんな本を出されていたのですね。普段、何気なく使っている漢字は、古代中国の恐ろしい話から成っているとのコト。たとえば、
「棄」:生まれたばかりの我が子を木片に乗せ、川に流す様。
「民」:針で刺されて右目が白くなった奴隷、それを右側から見ている図。
「祭」:月(肉のこと←人の場合もアリ)を神に捧げている(又と示)様。
 などなど、飲みの席で使えそうな俗説と思いきや、漢和辞典などで調べると結構載ってるんですよ……。ひゃー、怖いよぉー。夜中に読んだら夢に出てきそう、ブルブル。

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松井ゆかりの勝手に目利き

『心臓と左手 座間味くんの推理』 石持浅海/光文社

 2か月続けて石持作品のご紹介である。「どんだけ好きやねん」と思われそうだが、まだ“信者”の域までは達していない。この人の書く“罪を犯した人間を独断で見逃す”感じがいまひとつ好きになれない。大岡越前ファンの私としては、“罪は罪と認めた上で、情状酌量の余地を与える”「大岡裁きを見習えや」という気がする。
 とはいえ、座間味くんなら許す。同じ著者の第2長編「月の扉」で大活躍した探偵役。抜群の推理力を備えしかもツンデレという、私の萌えポイントを見事に押さえたキャラ。
 この短編集において、座間味くんは7つのケースについて鮮やかな謎解きをしてみせる。最終話以外はけっこう血なまぐさい事件も出てくるのだが、あまりおどろおどろしさを感じさせないのも石持さんの力量だろう。よって純粋に推理小説としての醍醐味を味わえる1冊(もちろんキャラ萌え小説として読むこともできます。むしろそちらの方がメインかも>私)。

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