[前月へ][来月へ]

2008年1月

佐々木克雄の勝手に目利き

『ブラック・ジャック・キッド』 久保寺健彦/新潮社

 というワケで、今月の課題図書『みなさん、さようなら』(第一回パピルス新人賞受賞作)がよかったので、同著者が第19回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞に輝いたこの作品も読んでみることに──うん、これもいい。かなりいい。
 思春期の回想で、手塚治虫センセの『ブラック・ジャック』に憧れる少年の物語。団地に住む彼の環境ってば──オヤジはだらしなく、母親は失踪、それでも彼はストイックに生きていく。その情景が個人的にツーンとくるのですよ。著者と年代が近いせいもあって、昭和の香りがジンワリ漂ってて、懐かしくて、こっ恥ずかしくて……。豊島ミホ作品を「乙女系キュン」と表するなら、久保寺作品は「少年系チクッ」てな感じ。(←何じゃ、それ)
 余談ですけど、ファンタジーノベル大賞っていい作家を輩出しますよね(自分の好きなところでは池上永一、森見登美彦)。流行りに迎合してない選考がいいのかな。

▲TOPへ戻る

『鉄子の部屋』 神田 ぱん/交通新聞社

 タイトルがナイス!
 鉄子と言っても「トットちゃん」(のちのタマネギおばさん)ではなくて、鉄道好きの女子を指す言葉だそうです。『タモリ倶楽部』の鉄道ネタが盛り上がりを見せ、酒井順子『女子と鉄道』や漫画『鉄子の旅』が注目されている昨今、鉄道好きを公言する女子が台頭している模様。
 本著は、そんな鉄子たちが「鉄分の濃さ」アピールすべく日本中を駆け巡り、女子目線で鉄道の魅力をマニアックに案内するてな、オシャレ系女性誌にはまずない企画。青春18きっぷの使用、ミステリトレイン乗車はアタリマエ。スイッチバックに胸躍らせ、吉岡海底駅で興奮するのめり込みっぷりには、鉄男をもビビらせるオーラが溢れ出ています。眩しいぜ、鉄子。
 女子でなくても、この面白可笑しいルポを読んでいるうちに旅愁にそそられますよ。今週末あたり、時刻表片手にふらっと鉄道に乗ってみようかな──そんな本です。

▲TOPへ戻る

松井ゆかりの勝手に目利き

『悶絶スパイラル』 三浦しをん/太田出版

 読んで損はありません。だって悶絶がスパイラルするんですよ! (←意味不明)
 本書は三浦さんが週一でホームページに掲載されていたエッセイをまとめたもの。現在更新が中断している状態なので、この本を逃したらしばらく新刊という形では読めないだろう。
 三浦しをんという作家の魅力をあげたらきりがないが、小説の凛とした素晴らしさとエッセイのはちゃめちゃなおもしろさのギャップも間違いなくそのひとつに数えられるだろう。そう、ギャップの妙は侮れない。Gacktはあの美貌で歌を歌うときにはこぶしをきかせたりガンダムおたくだったりするのがいいのだ。チュートリアルは徳井のような二枚目がボケているのがいいのだ。スキマスイッチはアフロと小太り気味の人が歌っているのがいいのだ。
 話がそれましたが、おもしろさは保証します。だって衝撃はインペリアル並みですから! (←意味不明継続中)

▲TOPへ戻る

『Rのつく月には気をつけよう』 石持浅海/祥伝社

 俺が悪かった、あさみ、嫌いだなんて言って。俺おまえのこと誤解してたんだよ。ほんとにごめん。だからこれからもずっと……。
 はっ、ちょっと妄想(?)がふくらみ過ぎてしまいました。上の部分は石持浅海さんへの私からのラブコールです。
 初めて読んだ石持さんの作品は「扉は閉ざされたまま」でした。「文春」や「このミス」などのミステリー・ベストテンで軒並み2位の高評価を獲得しているのを見てものすごーく期待していたのですが……なんじゃこの動機はー!!!
 それ以来ちょっとこの作家の小説には先入観があったのですが、ここ最近出版された短編集はどれも大当たり。この「Rのつく月には気をつけよう」もそのひとつ。いわゆる日常の謎系ミステリーなのだが、その洒落たこと! 個人的には石持さんの描く飄々としていながら並外れて明晰な頭脳を持つ探偵役がツボ。
 ……だからこれからもずっと、おもしろいミステリー書いてくれないか、あさみ。

▲TOPへ戻る