WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年6月の勝手に目利き
その人にとっての“神様”がいると思います。野球ならイチロー、ROCKなら永ちゃん、格闘技なら猪木などなど……。自分の神様は宮脇先生でした。小6の時、K先生から『最長片道切符の旅』を紹介してもらわなかったら、今の自分はないと断言できるほどです。
鉄道紀行文学を確立した著者は生前「メモはほとんどとらない」と語っていましたが、『最長〜』は、長女・宮脇灯子さん曰く「鉄道紀行作家としての一冊目のノートであり、相当気合いが入っていた」らしく、一冊の本になるくらい克明なメモが残っていたのです。
30年の歳月を経て届けられたメモには、廃線となった懐かしい路線名、「××まずし」てな率直なコメント、病気の娘を気遣う言葉など、“神様”の素顔にまた一歩近づける内容が。「そんなものを見せおって」と泉下の著者はご立腹とは思いますが、ファンにとっては感涙モノの資料ですよ、先生。素敵なメモを遺していただき、ありがとうございます。
日曜の午後6時半、あの国民的アニメを楽しむ一方で、月曜を迎える憂鬱を感じる人、多いのではないでしょうか。私事ですが、違う意味であのアニメは苦痛なんです。だって自分と同じ名前が叫ばれて、波平さんに「バカモ〜ン!」って怒られるんだもん。
『サザエさん』関連では、作者の長谷川町子先生や「マー姉ちゃん」など、生み出した方々のエピソードも有名ですが、この本は妹さんの手記。「町子姉は家の中では『お山の大将』で傍若無人……」など想像と違うイメージ。でも「猫に魚を盗まれる」「出発ロビーにお金を置き忘れ、飛行機が飛び立って、アッ」など、どこかで聞いたようなエピソードも。
でも、そういった逸話よりも、一家の主を早くに失い、母と娘で奮戦する話の数々は、漫画や朝ドラを超える女性達のたくましい姿そのもの。また、姉たちと袂を分かった洋子さんの決心は、一人の女性としての強さを感じる次第。読みごたえあります。
夫と私の過去に影を落とすひとりの男がいる。彼の話題を出せばお互いに気まずくなるのがわかっているので、あえてその名を口にすることはない。その男とは…貴志祐介その人だ。
もう4年前になるか、夫に「何かおもしろい本ない?」と問われた私は、読み終えたばかりの「硝子のハンマー」をそのまま手渡した。そして数日。「何これ?」と能面のような無表情で本を返して寄こした夫の姿を私は忘れないだろう。
私の主張→「多少強引なところがあってもいいじゃない、本格ミステリーへの愛があれば!」
夫の主張→「いろんな意味でありえない。以上」
その貴志氏がこの春上梓した本書は、またもあのコンビが主役で、またも密室もの。懲りな…いや、それほどまでに本格ミステリーへの意欲に燃える氏に、私は喝采を送りたい。そんなわけで、夫に読ませるのはかなり難しいんですが、本欄をお読みのみなさまにはぜひ。