ビールのつまみになる本~『ビール・イノべーション 』
- 『ビール・イノべーション (朝日新書)』
- 橋本 直樹
- 朝日新聞出版
- 840円(税込)
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先進国においては、酒の需要はすでに飽和状態で減っているそうだ。30年前にくらべれば1人あたりの年間アルコール摂取量はドイツが12.5リットルから10.3リットルに、イギリスが8.8リットルから7リットルに、アメリカは7.5リットルから6.6リットルに減少している。日本でも15年前の6.6リットルから6リットルに下降した。
なぜ、アルコール摂取量が減ったのか? 高齢化社会になって飲酒量が減った、健康に注意して強い蒸留酒を敬遠するようになったなど様々な理由が挙げられる。しかし、日本の若い世代においては人間関係を円滑にし、コミュニケーションを取りやすくする媒介だった酒が、携帯電話やパソコンにとって代わったことがもっとも大きい理由のようだ。ケータイでメールや通話することで手軽に気分転換でき、その上若者には楽しい娯楽がいくらでもある。そのせいか20代の飲酒率はこの10年で10%も減っている。特にアルコール濃度の高いウイスキー、ブランデー、日本酒などの需要が減り、カクテルやチューハイなど炭酸を含んだソフトドリンクに近い酒が人気を集めている。
朝日新聞の『be』調査(2005年)によると、「家族との外食時」「風呂上がり」「休日にテレビを見ながら」「行楽地で」「スポーツジムやプールで」「スポーツ観戦をしながら」「音楽を聴きながら」ビールを楽しむ人が増えている。スポーツの後に喉の渇きを癒すスポーツドリンクの感覚で、また仕事の合間の気分転換に缶コーヒーや紅茶を飲むような感覚でビールが飲まれるようになった。アルコール分0.00%の「キリンフリー」が売れているのも、そのような日本人の生活行動の変化が関係しているようだ。
ビールは消費者の生活行動の変化とともに新しいものが開発される。元キリンビール工場長の橋本直樹さんは「ビールは酒としての役割のほかに"ポーズドリンク"(息抜き飲料)という新しい役割を獲得し、生活を楽しむためのアクセサリー的存在に変わった」と指摘する。ゆえに、ビールはファッション性が求められるようになり、売れ行きはネーミングや広告・宣伝で大きく左右され、またそのライフサイクルも短くなった。
ビールは、メソポタミアやエジプトなど5000年前の文献にも登場する。パンとビールが給料になっていた時代もあった。そんな世界各地のビール史をひも解き、最新のビール事情をまとめた新書『ビール・イノベーション』は、本を読みながらビールを飲みたい時の一冊にぴったりだ。