アップルvs.グーグルの広告戦争~『アップルvs.グーグル 』

アップルvs.グーグル (ソフトバンク新書)
『アップルvs.グーグル (ソフトバンク新書)』
小川 浩,林 信行
ソフトバンククリエイティブ
767円(税込)
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 常に革新的な製品・サービスを提供し、世界を変え続けるアップルとグーグル。これまで、異なる哲学を持ちながらも協調し、それぞれに目覚しい成長を遂げてきた両社が最近、あらゆる局面で対立を深めるようになっている。スマートフォン、タブレット、電子書籍、クラウド、広告ビジネス......。

 その局面の一つに、「モバイル広告」がある。グーグルが買収したアドモブの広告がグーグルのアドワーズ/アドセンスの流れを汲む広告民主化のサービスであるのに対し、アップルが展開するiAdは1~10億の広告費用を取ってコンテンツとしても楽しい上質な広告を展開し、売り上げをiPhone/iPadアプリケーションの開発者に還元し、アプリケーション開発文化を発展させようという狙いがある。

 グーグルのアドワーズは、まさにインターネット広告の民主化を行った。それまでのインターネット広告は、巨大有名サイトに表示されるバナー広告が中心で、広告一つ当たりの出稿料もそれなりのお金がかかった。しかし、アドワーズはわずか数千円から広告を出せるサービスに仕上がっている。文字中心の簡単な広告にして(現在は画像や動画にも対応)、一回当たりの露出やクリックに対して支払う額を自由に設定できるのがアドワーズの魅力だ。

 グーグルは広告を出す仕組みだけでなく、露出する仕組みも開発した。アドワーズは元々何かしらの情報を集めている人が多く、広告クリック率が高い検索結果のページに表示されるものが基本だった。しかし、その後、グーグルはブログなどの記事の中身を言語分析し、その内容にもっともマッチした広告を表示するアドセンスという技術も開発した。これにより無名の個人が営んでいるブログであっても広告を掲載し収益をあげることが可能になり、検索結果のページだけでなく、その先にあるブログ記事にも広告を出せるようになった。

 アドセンスは、広告という収益モデルの民主化を行った画期的な発明だった。現在、デジタル広告で一番熱いのは、iPhoneやアンドロイドといった新世代モバイル広告だが、グーグルはこの分野にしばらくアドセンスなどの自社サービスの展開を試みた後、結局は自社のライバルでもあったアドモブを買収した。

 実はアップルも同じ時期にアドモブに買収話を持ちかけていた。しかし、袖を振られてしまい、代わりにライバルのクアトロ・ワイヤレスを買収した。そうして生み出したのがiAdだ。

 アップル社のスティーブン・ジョブズは語る。「インターネット上のインタラクティブ広告は確かに面白い。しかし、そんな時代になっても、これまでの広告料金のほとんどはテレビCMに費やされていた。なぜか。それはテレビCMが人々の感情に訴えかける力があるからだ。iAdでは、インタラクティブ広告の楽しさやよさを実現しつつ、そこにテレビ並みのエモーショナルな表現も加えている」

 ジョブズがそう言ってみせたディズニー、ナイキ、日産自動車などの広告は、そのつくり込まれたクリエイティブが素晴らしく、広告が表示されるアプリケーションのことを忘れて、広告の中身に没頭してしまいそうになるくらいにクオリティの高いインタラクティブコンテンツに仕上がっていた。

 しかし、それでいてユーザー行動の本質をわかっていて、見終わった後に広告を閉じると、ちゃんとユーザーがそれまで使っていた画面に戻ることができる。知らないホームページが表示されて、そのまま放置されることなく、見終わったら戻ってこられるという安心感があることが、ユーザーにより気軽に広告をクリックさせる仕組みになっている。

 一方で、質の高い広告を提供することで、しっかり出稿社からはお金を取る。iAdへの平均出稿料は1億円といわれており、2010年7月1日のサービススタート時点で、広告を出す会社からは10億円を徴収しているとも報道されている。高額なだけになかなか出稿する企業がないと思いきやAT&T、Citiグループ、キャンベルスープ、日産自動車、シャネルといったビッグネームが名前を重ねていた。

 ジョブズは、iAdがこれから爆発的に成長するモバイル広告市場で5割近いシェアを獲得できると自信をのぞかせた。iAdが2010年後半の半年間で8億ドルを売り上げ、今後も年率25億ドルで成長すると見るアナリストもいる。

 対立を続けるグーグルとアップル。その他の企業やユーザーがより幸せになるためには、どちらが提示する未来についていけばいいのか。興味が尽きない話である。

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