第1回

「投稿写真」という雑誌をご存じだろうか?
 30代後半の男性読者なら「あぁ、あの雑誌ね」と思い浮かぶ方も多かろうが、それより若い世代や女性読者にはピンと来ないと思うので、まずは紹介させていただく。
「投稿写真」は、'84の8月(10月号)に考友社出版(後にサン出版に版元変更)より創刊。
 当時のアダルト雑誌業界は、サブカル&アングラ的ノリの「写真時代」(白夜書房)が一世を風靡していた頃で、「柳の下にはドジョウが3匹はいる」を旨とする業界故に「××写真」という雑誌が氾濫していた時期でもあった。

「投稿写真」はそうしたマネ本ではない。

 そのルーツは、'81年にK.Kベストセラーズが出した『アクション・カメラ術―盗み撮りのエロチズム』(馬場憲治・著)にさかのぼる。この本の出現は、パンチラ、胸チラ写真に代表されるアクション写真の一大ブームを巻き起こし、当然のことながらそれはアダルト雑誌業界にも波及して、アクション写真の掲載を軸とした企画や雑誌が数多く生まれた。
 その中の一誌「セクシーアクション」は『アクション・カメラ術』が発刊された'81年に創刊、『アクション・カメラ術』の提唱する「遊び心で写真を撮るのが大事」という定義を大きく拡大解釈し、トイレや銭湯、海の家の脱衣所等、犯罪すれすれというよりも、"本物だったら確実に犯罪"な盗撮写真、甲子園やイベントでのチアガールの写真、'83年の「FOCUS」に掲載された高部知子がベッドでタバコを吸っているスクープ写真から生まれたニャンニャン写真(現在では"ハメ撮り"と呼ばれる性行為中の写真)なども取り込んで、大きく部数を伸ばした。「アダルトで10万部を超えることはありえない」といわれていた当時の業界の定説をあっさりと覆した伝説の雑誌だ。
「セクシーアクション」を創刊したのは、アダルト本業界の昭和の怪物・現在の会長率いるサン出版グループの風雲児・堀川徳光。その彼が「セクシーアクション」のエッセンスに芸能アイドル色を強めた形で創刊したのが、"カメラBOYの悪漢マガジン"「投稿写真」だ。

 創刊当初の芸能界は、まだおニャン子ブームが席巻する直前で、小泉今日子、中森明菜、松本伊代などいわゆる"花の82年組"が台頭していた時代。アイドルオタクなどという言葉もまだ生まれておらず、大多数のフツーのアイドルファンと一部のマニアが、芸能界を支えていた。
 そして、ダン池田書くところの「後ろから見ると下着が丸見え」な衣装に身を包んだアイドル達は、アクション写真の格好の標的となっていた。パンチラ写真が雑誌の誌面を飾るようになってから、それまで生パン(普通の下着のこと)でステージに上がっていたアイドル達がこぞってテニスで使うアンダースコートを着用するようになったという逸話もある。
 アイドルをプロデュース的、商業主義的に分析したりするオタクたちは、おニャン子ブームあたりから全盛となるのだが、82年組の活躍でどこの大学にもアイドル研なるものが存在し、折からのミニコミブームに乗って、同人誌を出しているサークルも多かった。「投稿写真」は、そんなアイドル研の大学生たちをライターとして抱え、単なるアイドルパンチラ雑誌ではなく、サブカル的な要素も巧みに取り入れていた。今ではほとんど絶滅してしまったアイドルライターの生き残り(といっては大御所に失礼だが)、高倉文紀もそんな学生ライターの一人だ。

 読み物の内容もさることながら、「投稿」雑誌を「投稿」で成り立たせるためには、当然、多くの質のいい投稿者が存在しなければならない。今でこそ、携帯電話についているカメラでさえ、誰でもプロ並みの写真が気軽に撮れるようになったが、'80年代の頃の一眼レフカメラは、専門知識を持っているプロかマニアの使う高価な機材で、一般人の使うカメラといえばコンパクトカメラが主流。しかし、コンパクトカメラで撮った画像では、大伸ばし(ちなみに「セクシーアクション」はA4判、「投稿写真」はA5判)に耐えるだけの解像度が足りなかった。
 コンパクトカメラを使ってネガフィルムで撮られた写真は、せいぜいキャビネ判までが限界で、見開き大で使用するには、一眼レフで撮った画像でなくてはならない。幸い、アクション写真を撮る投稿者達は、セミプロ並みのマニアもいて、一眼レフで撮った作品を投稿してくれていた。(今だから書けるが、犯罪的な盗撮写真のほとんどは実はヤラセで、プロのカメラマンが撮っていた。1ページ大、もしくは見開きで掲載されるスクープ的盗撮写真は、99.9%プロの作品だ。残りの0.1%が本物だったことでいろいろなトラブルも起きるのだが、それは本題に譲る)
 だが、写真を送ってくる投稿者の多くがアイドルファンもしくはマニアであるアイドル写真ともなるとそうそう簡単にはいかない。彼らが好きなのはアイドルであって、写真を撮ることではないのだ。投稿料目当てで、通常のアクション写真よりアイドルを被写体にした方が掲載率が高くなるからと、鞍替えするセミプロの投稿者もいるにはいたが、アイドルマニア達は、カメラ技術となるとシロウト並みがほとんどだった。