第17回

 「似な顔絵塾」の塾長(日本で最も多い名字なのでこう呼んでいた)にも、投稿されてきた似顔絵を渡しがてら挨拶に行った。塾長とは、歳も同じで、大学も同じな上、無類の酒好きと共通点が多く、すぐに意気投合した。 
 どういうツテかはわからないが、この頃の「投稿写真」には、早稲田のマン研出身者が多かった。「業界ちゃん物語」のよこいなおと、「被写体の時代」「世間流行mono通信」のほりいけんいちろう、「世間流行mono通信」「耳からIDOL」「B級アイドル尋ね人」「CAMERAなんでもゼミナール」「Super Column」「TVトリップ」「フレッシュ・アイドル突撃インタビュー」と何でもこなす林明美こと吉岡平、後になるが見開きのマンガや目次のマンガを描いていたけらえいこ等々、早稲田のマン研出身者がいなければ、雑誌ができないほどだ。ただ、ほりいけんいちろうを除くと皆、大学を出たばかり、新卒のオレと大体が同じ歳の駆け出しだった。
 
 塾長もその例にもれず、絵の方は他社でも描いていて"プロ"だったが、文章の方は、やはり素人で、最初に原稿を受け取った時、びっくりしてしまった。句読点をすべて半角に指定して書いてあったのだ。そうしては、いけないという決まりがあるわけではないが、基本的には句読点は一角、文字数の関係で文頭に来てしまうのを避けるために、半角にして調整するのだ。
 最初から句読点をすべて半角にしてしまっては、その調整もできないし、ましてや、写植屋はそんな指定は無視するので、既定の行数をはみ出してしまう場合もある。そのことを塾長に指摘すると、
「へえ、そうだったんだ。今まで誰からも言われたことなかったけど、今度からそうするよ」」
 素直に受け入れてくれたが、
「でも、こうした方が、いっぱい書けるじゃん」
 納得がいってないようだった。
 
 この塾長、なかなか変わった人物で、
「投稿コーナーを担当しているのに、自分は投稿したことがない。投稿者がどんな気持ちで投稿しているのか知りたい」
 と言って、学研の「BOMB」の似顔絵コーナーに、「自分はある雑誌で似顔絵のコーナーを担当している者ですが、投稿者の気持ちが知りたくて投稿してみました」の一文を添えて本当に作品を送ってしまった。

 「BOMB」の似顔絵担当者は、ろりた健作というペンネームを使っていた石川誠壱。彼も変わった男で、フツーならそんな添え書き無視するだろうに、わざわざ掲載し、「どうせ語りだろ、本当だったらその雑誌を送ってこい」と紙面で挑発してきた。そこで塾長は、その挑発に乗り、「投稿写真」と連絡先を「BOMB」に送付。驚いた石川から塾長に電話が来て、石川と塾長の付き合いが始まった...なんてこともあった。