第46回

 そしていよいよ128日、朝の5時半に新宿・京王プラザ前に集合、始発のリムジンバスにFカメラマンにヘアメイク&スタイリストのK、黒木、堤、オレの5人が乗り込んだ。オレは、5時半には自宅の最寄り駅からでは始発に乗っても間に合わないので、前日から会社に荷物を持ち込み、泊まり込んで駆け付けた。緊張のためか、前夜はいくら酒を飲んでも眠くならず、なかなか寝付けなかったので、寝坊こそしなかったものの半分寝ているような状態だった。そのため、バスに乗り込む前に、全員のパスポートを確認して、バスに乗り込むや否やぐっすりと寝てしまい、気がつくと成田空港に着いていた。

 バスが成田に着いたのは、7時半、飛行機の出発は945分なので、約2時間前きっちりの予定通りだ。大荷物を抱えて空港をうろうろするのも何なので、とりあえずチェックインを済ませて、荷物を預ける。しかし、もし万が一荷物が届かなかったら大変なので、預けられるのは自分たちの着替えとかのなくなってしまっても撮影に支障がない物のみ、カメラなどの撮影機材はもとより、フィルムなどの感材、衣装、メイク道具などは手荷物で持ち込むのでたいして荷物は減らなかった。

 通り一辺の手続きが済んだところで、まだ8時。搭乗まではまだ1時間も残っている(飛行機のタイムテーブルを支障なく進めたいためだろうが、手続きを出発より早め早めにさせようとするのは本当に困ったものだ。こちらがキチンとやっていても、整備の不良で出発時間が平気で1、2時間遅れるのはよくあることだというのに...)。

「まあ、朝飯でも食おうや」

 Fカメラマンの言葉にそういえば朝飯を食っていないことに気がついた。他のメンバーも同様だったらしく、すぐ同意、和食も洋食もあるレストランに少しだけ減った大荷物と共に窓際の席を陣取った。

 窓の外は滑走路で何台もの飛行機が止まっている。

 注文した和定食をガツガツと食い終えたオレは、離陸したり、着陸したりする飛行機をぼんやり眺めながら、(ブラジルから帰って、こんなに早くまた海外に行くことになるんだなぁ)と妙な感慨を覚えていた。

 9時過ぎまでレストランで時間をつぶし、出国手続きを済ましてデューティーフリーでタバコを買い込む。オレの吸っているハイライトは海外ではほとんど売られていないからだ(その後、10カ国以上仕事とプライベート含めて訪れているが、ハイライトを見かけたのは香港でだけ)。帰国の時はともかく、入国時は荷物チェックが甘いので、グアムに持ち込める免税量は無視して、現地で吸う分と帰国時の持ち込み分と合わせて4カートンほど購入した。他の銘柄は日本と同じパッケージなのに、なぜかハイライトは、ハードパックで色も水色の地ではなく、ピースと同じ紺色をしていた(理由は分からないが、味も国内で買うものより微妙に軽い)。

 まだ、喫煙に関して甘い時代だったので、待合室で堂々とタバコをふかしていると予定通りの時間に登場の案内のアナウンスが流れてきた。

「じゃ、行きますか」

 他のメンバーに声を掛け、撮影機材の入った重いカバンを持って飛行機に乗り込む。シーズンオフのせいか客は少なく、機体の奥の方の喫煙席まで、易々とたどり着けた。荷物を棚に入れ、他のメンバーが搭乗したのを確認して、指定の席に腰を下ろす。

(ここまでくれば、飛行機が落ちない限り大丈夫、後はグアムに着いてから)

 もちろん、ロケはこれからなのだが、撮影自体は日本でするのと大差はない。全員無事に飛行機に乗れて安心したせいか、再び睡魔が襲ってきた。ジェットエンジンの轟音もテイクオフの加速でかかるGも心地よい子守唄のように思えてくる。ドリンクサービスを飲み終えるとオレは深い眠りに落ちて行った。