1月31日(水)

某路線を営業。

 1件目の書店。商店街の駅前路面店。

「単行本はともかく、雑誌の売れ行きも悪いよね。みんな家計が苦しいのか3冊買っていたものを1冊に抑えるって感じかなあ。特集の内容を吟味して、どうしても欲しい物を買っていくよ。ほんとお客さんの目が厳しくなってきているよね。でも、自分のことを考えてみても一緒だよ。子供がふたりいて、家も狭くて、昔みたいに片っ端から欲しい本や雑誌を買っていたら、生活にならないんだよね。だから今はどうしても絶対欲しい本と雑誌だけ買って、あとは学生時代に買って読んでなかった本を棚から取り出してる。ハハハ。
 お店の方ももっともっと棚を変えて、活気づけていかないといけないんだろうけど、時間がなくて。言い訳だけど、バイトも従業員も減らしているから、日常業務で精一杯になっちゃうんだ。すごく悔しいし、恥ずかしいし、もうジレンマだよ。文庫の棚なんか面白くないでしょう?ほんとはいっぱい触りたいんだよなあ。」

 2件目の書店。こちらも商店街の路面店。

「この人なら売れるって作家がいなくなっちゃったね。そのとき話題になったもんだけ売れていくよ。読み聞かせ運動とか朝の10分読書なんてやっているけど、まず親が読まなきゃ子供は読まないよ。親の背中を見て子供は真似をするっていうけど、ほんとだと思うよ。ここは古いお店だからお客さんとの繋がりがあるけど、親がいっぱい本を買う家は、子供も買うんだよ。ハリー・ポッターの2巻目がでたときうれしそうに買っていった子供がいて、うれしかったなあ。無理矢理読ませようとしないで、もっと親が本に近づかないとなあ。あっ、出版社はもっと面白い本作らなきゃダメだよ。」

 ある出版社営業マンが集まる飲み会でアンケートが配られ、その1問に「出版業界を斜陽産業だと思うか?」というのがあった。この現状を見れば、自ずと答えが出てきているような気がする。

 そして、前に一度書いたことのある、変則2フロアのP書店。売上が落ち込み、今後の心配をしていたお店だ。

 ここ数ヶ月お店を伺っても、H店長は不在でお会いすることができなかった。今日もダメかなあ…と思いつつお店をのぞきこむと、レジに座っていた。しかし顔色が悪い。話を聞いてみると、H店長は心労と無理が祟ったのか、2ヶ月ほど前から身体に力が入らなくなったとのこと。顔や手足が異常にむくみ、咳が止まらなかったそうだ。あわてて、病院に行き、検査と治療の日々。まだ、最終的な検査が終わっていないので、詳しい病名はわからないそうだ。それでも、薬のおかげでむくみはとれたらしい。
 僕は、とにかく身体が資本なんだから無理せずしっかり治して欲しいと伝える。しかし、それでも無理をしてしまうのがH店長なんだ…。

 病気の話がひと段落したので棚を見てみると、何だかガタガタ隙間が開いている。僕は一瞬にして膝から力が抜ける。もしかして……。
「違うんだ、とにかく2階の単行本の売上が悪いから、1階だけで営業することにしたんだ。雑誌が主になっちゃうけど、単行本も置いていくよ。でも瞬間的に売れればいいみたいな本は置かないよ、面白い本、読んで欲しい本を厳選して売っていくよ。そんなこと言ったら取次店の人に怒られたけど、絶対お客さんはいるよ。信じてるんだ。」

 H店長のお店は、ついに生き残るための限界まで来たのだ。具合の悪い身体をひきづりながら、返品する本とこれからも売り続けていく本をセレクトしていた。最後の勝負が始まるようだ。

 前回同様、僕にできること…というのを考えそうになったけれど、それはある意味H店長への冒涜になるような気がしたので心の底に押し込んだ。H店長は僕よりもこの業界に長くいるし、経験だって比べものにならない。僕に出来ることは、訪問して、いろんな情報を渡すこと。うちの本なんて売れなくてもいいんだ。そして、H店長が元気になることを祈ること。

「H店長、絶対無理をしないで下さい。身体を壊したら元も子もないですよ。来月も僕は来ますからね、入院なんてことにならないで下さいよ。」と声をかけ、お店を後にした。


 営業なんて、つらくて淋しいことばっかりだ…。

 でも…、営業マンでなければ、こんなに素晴らしい人達と出会えることはなかったはずだ。そして僕は、営業が大好きだ。

1月30日(火)

先日、助っ人の学生から出版社に入りたいと相談を受けた。彼女は来年卒業予定で、これから就職活動が始まるらしい。そう言われても、どこぞの出版社にコネがあるわけでもなく、個人的にもまともな就職活動というものを経験したことがないので、よくわからない。役立たずな言葉しか返せなかった。

「なかなか決まらないと思うんですけど、あきらめないでしつこくやろうと思うんです。」と真剣な面もちで言われたけれど、そのことについてもうまく返答できなかった。出版業界への憧れというのはわかるけれど、僕はそのなかで現実に働いてしまっているわけで、余計なことを言えば冷や水をぶっかけるような気がした。また出版業界の先行きを考えると安易に「頑張りなよ」とも言えなかった。

 そして彼女は、経験として僕の営業に一日ついて廻りたいと、またまた真剣な表情で申し入れをしてきた。その気持ちはわかるけれど、僕としては少々荷が重いので断る。

 直納(問屋を通さず本を直接書店さんへ納品すること)で人出が足りないなら一緒に書店さんへ行くことも可能かもしれないが、通常の営業時に連れ歩くのにはちょっと無理がある。
 売場はお客さんのためにあるわけで、例え営業マンとはいえ、棚の前にいれば邪魔者でしかない。買いたい本、見たい棚をふさぐわけにはいかないと、いつも気をつけている。そこへ二人で行けば、その邪魔が増えるだけだし、書店さんも見たことがない人がいることで話しづらくなるだろう。正直言って僕もやりづらい。

 僕の営業を見ても何の役に立たないだろうとも思った。実力はもちろん、彼女が夢見る大手出版社の仕事は、ある種、僕とは対極的な仕事なのだ。


 何だかこのことが妙に頭に残っていて気が重かった。
 その年代の頃の自分を思い出すと、もう少し親身になる必要があった気もするし、なんだか自分が嫌な大人になってしまったような重たい気分だ。今日も青山通りの書店さんを営業しながら、ぼんやり考えてしまう。

 でも、やっぱり仕方がない…。
 僕は、単なる一出版社の営業マンでしかないし、それもまだまだ経験不足のヘボ営業マン。一番大切にするのは、書店さんと本を買ってくれる読者なのだ。僕は、大学の先生でもなけば、進路相談の係りでもない。もちろん就職セミナーの講師でもない。それはそちらのプロに任せた方がきっと彼女の役に立つだろう。

 ごめんね、役に立てなくて…。

1月29日(月)

会社に着いて早々、椎名誠事務所の大西さんから「男手が必要なんで、杉江さんお願い!」と言われる。いったい何が始まるのかとあわてて外に出てみると、いきなりスコップを手渡される。おぉ、雪かきなのだ。僕は雪とか台風とか雷とか、とにかくそういう天変地異的なことに逆上してしまうアホな性格なので、いつもの営業以上に、ガリガリ、ゴリゴリ、精を出す。
 しばらくすると、本の雑誌社、椎名誠事務所の面々が一丸となって雪かき作業となった。事務の浜田はお湯を運び、経理の小林はうれしそうにホースで水をまいている。うーん、こんな夢中に雪かきをしていていいのだろうか?いったいこの間に社内にかかってきた電話はどうするんだろう?と一瞬だけ社会人の頭になって疑問を持つ。しかし社会人とはいえ、その前に人間だから仕方ない。みんなで楽しい雪かきを続ける。

 30分ほどして、やっとアスファルトが顔を出し、一段落。本の雑誌社は坂道に建っているため、凍りついた雪は、会社の前を歩く歩行者にとって非常に危険だったのだ。良かった、良かったと腰を押さえつつ、日常業務に戻る。

 今日から発行人の浜本が入院。
 病気というような病気ではないけれど、一応手術をするので2週間は現場復帰をできない。これは困った。

 もしこのようなときに、狂眼男が社内に乱入し、「責任者よ、出て来い!」と怒鳴られた場合いったいどうしたらいいのだろうか?運良く(狂眼男にとっては非常に運悪く)編集長の椎名がいれば、そのまま格闘方面へ連れ出してもらえるから良いけれど、取材や旅の多い仕事のためそうそうタイミング良くいるわけもない。
 
 本の雑誌社には発行人と編集長しか社内的な階級がなく、年次でいくと単行本編集の金子が一番上。しかしその金子も狂眼だけど、それはただ仕事の撲殺されているだけで、文字通りの狂った眼をしているだけ。性格はいたって温厚。続く僕にしても、編集補助の渡辺にしても、争いごとは好まない。うーん、困った。

 そうだ、顧問となった目黒さんがいたのだ!
 もし、狂眼男が乱入してきたら「まあまあ」と言いつつ、とにかく4階に連れ込み、目黒さんを紹介すればいいんだ。きっとぐっすり寝息を立てているであろうけど、「すごい新刊が出ましたよ!」と一声かければ目を覚ますはずだ。その後のことは、目黒さんに任せよう。

 社内にそのことを通達し、安心して営業に飛び出す。J出版社のTさんと会い、有意義な話を聞く。ありがたい限り。

1月26日(金)

午前中会社にいて、電話に出たら
「目黒さんはいますか?」と言われる。最近セールスの電話が多く、目黒さんにわかるわけもない株を薦めたりするので、「失礼ですが、お名前を…」と聞き返した。一瞬沈黙があり、またかと思ったら、
「笹塚のGパン屋マヤです。もし不在なら、お頼みになられた商品が入荷しましたので…とお伝え下さい。」とのことだった。すみません、疑って。

 それにしても、Gパン屋に頼み物って何でしょうか?普通わざわざ取り寄せるような物があるか?まさか目黒さんがビンテージ物のGパンを履くとは思えないし…。うーん。もしかするとアレですか?ロングサイズのベルトとか、ちょっと普通じゃ売ってないウエストサイズのGパンなのか…。目黒さんが来たら聞いてみよう。

 さて、顔見知りの営業マン、ケイブンシャのOさんが、僕がチョコエッグに凝っていることを知って、なんと自社の新刊『チョコエッグハンドブック』を送ってくれたのである。うーんうれしい。本の雑誌社の不文律で、身内誉めは禁止というのが、あるけれど、この本の素晴らしさに思わず禁を破らせてもらいたい。

 マニアやファンの多いものを扱った本というのは、実は作るのが難しい。それは中途半端な内容では読者の方が詳しいし、その物に対する興味がなければ、良さが伝わらない。
 そこへいくとこの『チョコエッグハンドブック』は、すごい。どう考えてもこれを作っている人が相当なマニアか趣味人としか思えない。主な写真は全点同方向から写していてわかりやすいし、細かなバージョン違いも詳細に解説されている。おまけにコレクション用のシールなんて物までついている。そして、なんと言っても一番うれしいのは、原型製作者の松村しのぶさんの一体一体への想いが書き込まれているのである。それも動物ごとに個別で。仕事もそこそこに思わず読みふける。松本さんの物作りに対する愛が伝わってきて感動する。

 うーん。これでますますチョコエッグにはまりそうだ。Oさんに感謝しつつ、ちょっとだけ恨む。

追記*なんと全国のパルコ(一部店舗を除いて)でバレンタインにあわせて、チョコエッグ第5弾が先行発売されるそうだ。パルコオリジナルフィギアというのが出るそうで、そのヒメネズミが、かわいい。うーん、営業で訪問する時期を考えよう。

1月25日(木)

午前中、元J出版社のTさんから電話。いろいろな事情があって、この「元」が取れたとのこと。Tさんは僕が尊敬している出版営業マンのひとりで、その人柄や知識もさることながら、毎月何日の何時ときっちりルートを廻っていた伝説を持っている。書店さんも、この日になるとTさんがやってくるんだよなあ…と心待ちにしていたのを僕は知っている。僕のような無計画な人間にはとてもできない…。

 そんな風に反省しつつ、横浜へ行くと、M書店のYさんに「今日来ると思っていたんで待っていたんですよ。」と言われる。はて、何でこんな無計画な営業マンが、今日来るなんて予想できるんだろうと聞いてみると、「杉江さんはだいたい毎月木曜日来るでしょ。まだ今月は来てなかったし。」と言われる。そうか、横浜だけは、ひと駅で5件も書店さんがあり、笹塚から遠いため、全書店の担当者が、いそうな日を選んでいたのだ。実はこれが結構難しくて、毎週月・金休みの書店員さんや火・金休みの人とかがいて、まさにパズル。ひとつ狂うと大変なことになるけれど、まあ、そしたらまた伺えばいいだ…。

 次に行ったS書店さんのHさんにも同じ様なことを言われ、何だかとても幸せな気分になってしまった。どこかで僕に会うのを楽しみにしてくれている人がいると思っただけでうれしい。別にそういうわけでもないか…。

 横浜を訪問していつも思うのは、ここはどこの書店さんも非常にやる気があるということ。5件もお店があるのに、その立地によってお客さんの層が違うようで、平積みも売れ筋も変わってくる。担当者の方もそれを意識して一生懸命棚を作っているのが手に取るようにわかる。横浜に行くと勉強になるし、担当者の方々との会話も非常に楽しい。僕は、横浜で、注文の他に元気をもらって帰ってくる。

1月24日(水)

初めて大江戸線に乗車。テレビや新聞の報道で車両が小さいと言われていたけれど、チビの僕には関係ない。天井だって、椅子だってまだまだ余裕がある。それよりも気になったのは、この大江戸線は、深過ぎるんじゃないかということ。新宿駅の案内表示によるとホーム「地下7階」なんて書いてあって、この階層表示に何の意味があるのかわからないけれど、ホームに着くまでエスカレータを3つも乗り継いだ。こんなところで地震にでもあったら、と怖ろしいことを想像したいたけれど、「国立競技場」という駅名を見つけて我を忘れる。ああ、我が浦和レッズも早くここに立ちたいもんだ。

 大江戸線に乗車したのは何も個人的な興味があったからではなく、実は六本木に行くため。本の雑誌社は京王線の笹塚駅にあって、どこへ行くにも基本的に新宿駅に出ることになる。しかし、この六本木は日比谷線にあり、新宿からは非常にアクセスしづらい場所だったのだ。それを言い訳に、なかなか六本木のA書店を訪問することができなかった。

 久しぶりにA書店を訪問したら文庫担当のMさんが店内にパネルを貼っていた。
「こんにちは、それ何ですか?」と聞いてみると、なんと沢木耕太郎の『天涯』の写真だという。ファンの僕は思わず興奮していると、なんと沢木さんの展覧会があるという。もしかすると当欄を読んでいる方で沢木ファンがいるかもしれないので、告知しておきます。

「沢木耕太郎の旅展」
日時:2001年2月24日(土)~4月8日(日)
場所:世田谷文学館(03-5374-9111)

 Mさんに、僕が顔を見せていない間に文芸担当になったTさんを紹介してもらう。
「Tさ~ん、本の雑誌の杉江さんが大江戸線開通記念で久しぶりにやってきたよ~。」
Mさん勘弁して下さい…。

 その後は、恵比寿、目黒、田町、浜松町、新橋と移動。途中、田町のT書店でKさんに笑われながらも探していたサッカー本を発見し購入。

 それにしても今日の書店さんはやけに新刊が多い…。
 疑問に思い、日にちを確かめると給料日前だった。各出版社は、給料日にあわせて新刊を配本するけれど、それが逆に返品を作っていることに気付いた方がいいんじゃないだろうか。いや、気付いているのにやっているのか…。通常なら数週間並べてもらえそうな本も、こんな時期だと即返品(店頭に一度も並ばない)になるものも多いと聞く。

 ちなみに本の雑誌社の単行本も、給料日前後に搬入されることがあるのは、戦略でもなんでもなく単行本編集者金子の限界を超えたときである。

1月23日(火)

 先日、府中のK書店に行ったら、文芸担当のAさんが新宿店に移動になったと聞いたので早速の訪問。このAさんは出版営業マンの間ではかなり有名な書店員さんで、企画の段階でAさんに相談している出版社も多い。もちろん僕も尊敬している書店員さんのひとりで、独特の棚造り、フェア展開、平積みはいつ見ても勉強になる。新宿店でどんな展開をしていくのか、非常に楽しみ。

 続いてK書店本店(別のチェーン)に行き、Mさんと会い、お話。SF担当のMさんによると『ハイペリオン』ダン・シモンズ(早川書房)が文庫になって以来、その続編の単行本3点が売れているそうだ。やっぱり次が文庫になるまで我慢できないよなあ…。実は僕も文庫になった『ハイペリオン』を購入しているけれど、それが怖くて読み始めていないのだ。噂によると年内中にあと2点文庫になると言うけれど…。読む我慢と読まない我慢の戦い。

 その後は、総武線に乗り込み、千葉へ移動。

 千葉のK書店を訪問し、S書店に向かう道すがら、前の会社で同僚男性社員から大人気だったTさんとすれ違う。あわてて「Tさ~ん」と声をかけるが、振り返ってもらえず、やっぱり違うのかと一瞬あきらめる。が、どう見ても後ろ姿、歩き方がTさんだったので、再び勇気を出して、声をかける。やっとこちらに顔を向けてくれ、口に手をあてビックリ。

 当欄が田中康夫の『PG日記』だったら、偶然を必然に結びつけ、ここからただならぬランデブーが始まるけれど、僕に魅力がないのか、それとも『PG日記』がフィクションを織りまぜた日記なのかわからないけれど(間違いなく前者だと思う)、そのまま数分の立ち話で終わってしまった。現実なんてこんなもんだ。

 千葉から津田沼と移動し、最後は某駅。
 『本の雑誌』誌上はもちろん、今では20万アクセスを記録した有名ホームページ『銀河通信』(http//www2s.biglobe.ne.jp/`yasumama/)の製作者安田ママに会う。安田ママは、別に飲み屋のママさんではなく、現役書店員で、日々の仕事も多忙を極めるなか、子供の面倒をみ、なおかつ、本の話をしたい、もっと本を楽しんで欲しいと個人的に『銀河通信』を作っている、すごい人。それだけで尊敬してしまうのに、安田ママの棚は管理が行き届いていて、いつ行っても楽しめる。ファンにはたまらないフェアなんか組んでいて目が離せない書店さんなのだ。

 今日もそんな安田ママに会えるのを楽しみにしていたので、思わず仕事の邪魔をして長話。いろんなアイデアが飛び出して面白いことこの上ない。安田ママ提案の「大きな活字の時代小説」は僕も売れると思う。どこか出版社の方、この企画やりませんか?あっ、僕も出版社員だった……。

(とここまで書いて、銀河通信をのぞいたら、安田ママの日記にも同じことを書かれていた。うーん、安田ママの日記は逐次更新なので、かなわない。僕も見習わないと…。)

1月22日(月)

 吉祥寺のR書店に行ったら、見慣れない本が売れ行きベスト3にランクインしていてビックリ。早速担当者のSさんに話を聞くと、「企画の段階で出版社から話があって、これはもしかするといけるんじゃないかと、ドーンと勝負してみたんだよね。新刊台、雑誌台と陳列して、ポップも立てて。そしたらすごい勢いで売れていって、うちのベストセラーになっちゃった。」とのこと。

 この本は、いわゆる文芸書じゃないけれど、普通にそのジャンルの棚に置いていたら、きっと20冊程度の売れ部数で終わりだったのではないかと思う。それをこのようにしかけた結果、約1ヶ月で数百冊の売れ行きを示し、なおかつ、一時期は、只今大ベストセラーの『チーズはどこへ消えた?』(扶桑社)と『金持ち父さん貧乏父さん』を抑えての週間第1位も記録したそうである。

 うーん、すごいもんだなあと思わず感心。本が売れない時代と言うのは確かに事実だけれど、こうやって何気ないものを拾い上げ、ドーンと売っていく書店さんの力は、まさに職人技である。

 僕も何の気なしにその本を手に取り、思わず帰りがけに買ってしまった。あっ、そうか、僕もしかけにはまってしまった一人なのか。まあ、でも、面白そうな本なのでじっくり読もう。

1月19日(金)

渋谷を廻る。渋谷を歩いていると、こちらの勝手な思い込みだけど、いつ襲われるかわからないような気がして非常に怖い。花火にバットにナイフ。何でもありの街か…。営業でうろつく足どりも重く、やたらに身体をこわばらせている自分がわかる。海外旅行をしているときの緊張感に似ている。まあ、気にし過ぎなんだろうけど…。

 1月も半ばを過ぎて、「あけましておめでとうございます」と言っている自分がおかしい。営業マンただひとりのチビ会社だと、どうしても月に1度か2ヶ月に1度くらいしか訪問できない。だから、今年初めて訪問する書店さんが、まだまだいっぱいあって、どうしても、いまだに「あけましておめでとう」から抜け出せないのだ。まあ、仕方ない。書店さんと互いに笑いながらどこか間抜けな新年の挨拶を繰り返す。

 P書店の独特なベスト10を楽しみ、続いて最近『本の雑誌』の誌面でもお世話になっているH書店Hさんを訪問。Hさんは近々結婚する予定で、幸せいっぱいなのだが、僕の方は気がかりなことがあった。それは結婚を機に退職なんて淋しいことにならないかということ。どうもこの業界は女性にとって労働環境が厳しいようで、労働時間も不規則な上、長く、休みも不定期なことが多いために、結婚退職ということが結構多いのだ。それはそれで、仕方がないのかもしれないけれど、出版社としては、人材の流出がとても残念だ。もちろん個人的にも関わりのある書店員さんがいなくなるのはとても淋しい。

 Hさんにそのことを確認すると、「もちろん仕事も続けますよ。」と言われたので一安心。良かった。でもHさん、身体は壊さないように気をつけて下さいね。

1月18日(木)

直行で、武蔵野線~常磐線を営業。
 南越谷のV書店に初めて顔を出す。初めて伺うお店というのは、何年営業マンをやっていても緊張するもので、どんな人が担当者なんだろうとか、今まで来なかったことを怒られるんじゃないかとか、お店の前を行ったり来たりしながら、いろいろと考えてしまう。しかし、そんなことでウジウジしていても意味がなく、会ってみなければ何もわからないから、最後は「えーい、どうにかなるさ」と半ばヤケクソになりながら、気合いを高め、お店に飛び込むことになる。そして書店さんとの新たな出会いが待っている。

 今日初訪問のV書店は一風変わったお店で、本と雑貨を一緒に並べた面白本屋さん。ここ数年急成長のお店で、全国各地にフランチャイズ展開をしている。南越谷の店長さんに会いたいと思ったのは、出版業界新聞『新文化』に連載を持っていて、その話が非常に面白かったからだ。駅前の書店さんから数年前にこのフランチャイズに加盟して、かなりの凄腕書店員のようだった。もちろん雑貨を置くからといって、書店の心を捨てたわけでなく、本を売るための雑貨展開でもある。

 天井からいろんなものが吊るされ、ところ狭しと輸入雑貨が並べられている店内に入る。赤や黄色といった原色が目立ち、普通のいわゆる本屋さんとは趣が違う。スーツを来ている僕がお店に入るには、いささか場違いな気がするけれど、仕方がない。店内の棚をしばらく見てから、レジにいる人に話しかけた。
「初めまして、本の雑誌の杉江と申します。アポイントも取らずに申し訳ないんですが、店長さんはいっらしゃいますでしょうか。」
レジの奧にいた男性がぼそりと「僕が店長です」と言った。

 それから名刺交換をして、どうにか少しでも話ができれば…と思った。ところが、いきなり店長さんが思いもかけない言葉を発する。
「『本の雑誌』好きなんだよねえ。いっぱい話たいこともあるし、上の喫茶店に行こうよ。」

 それから1時間。忙しい身にも関わらず、「本の雑誌」のことはもちろん、お店のこと、書店のこと、店長さんのこと、お金じゃとても買うことができない大切な話を聞かせもらった。僕は、また一人大好きな書店員さんが増えたことに飛び上がる思いで、また近いうちに訪問する約束をしてお店を後にした。

 外に出て、ホッと一息。
 それにしても、僕はやっぱり『本の雑誌』という看板のおかげで仕事ができているような気がした。椎名さん、目黒さん、そして今まで『本の雑誌』に関わってきた全ての社員、助っ人。それらすべての人達の力によって、今の僕があり、仕事がある。脈々と受け継がれ、流れていく「本の雑誌」の血を汚してはいけないと強く思った。
 そして、いつか、看板に寄り掛かることなく自分自身を認められたいと思うし、また、その逆にこれからの『本の雑誌』を作る一員なのだと痛切に感じた。勝負は始まったばかり…。そして壁はあまりにでかい。

1月17日(水)

京王線を営業し、途中南武線に乗り換え、立川へ。O書店のTさんが新刊台の並べ替えをしているところで、ちょうど編集長椎名誠の新刊を積んでいた。うちの本じゃないのに条件反射的に注文を取りそうになる。

 その後、国立を営業していると、外は真っ暗。いつの間にか時間が過ぎていて、今日は会社に戻る時間がなくなったので、直帰。あまりの寒さに指先の感覚がなくなる。うーん、冬は嫌いだ。

 国立に行くと、大好きな山口瞳さんを思い出し、無性に『男性自身』が読みたくなる。「ロジーナ茶房」はすぐそこだ。

1月16日(火)

前日同様、御茶ノ水の取次店N社を訪問。これでやっと『本の雑誌2月号』の搬入トラブルがひと段落。うーん、疲れた。

 先日、そのトラブルの発端となった印刷会社のKさんがやってきて、何度も深く頭を下げられる。人間誰にだってミスがあるし、その後、迅速に対応してもらっているので、「もういいんですよ」と声をかけるが、頭を下げっぱなし。Kさんも営業マンで、僕も営業マンだから、こういうと語弊があるけれど、根本的には、お互い自分自身のミスじゃないことで謝っている。そんなつらい気持ちが痛いほどわかるので、無理矢理、Kさんの子供の話に話題を変え、どうにか頭をあげてもらった。

 その後は神保町を廻る。
 S書店のKさんと話していると、予想外にサッカーの話題がポロッと出てきた。「僕もサッカーが大好きなんですよ」と思わず反射的に言うと、「知ってるよ。」と笑われる。今までKさんがサッカー好き、なんてことはまったく知らず、本の話ばかりしていたけれど、これで一気に距離感が縮まってしまった。なんとKさんは、大学までサッカーをやっていた強者で、サッカー観戦自体も、僕なんかよりずっとベテラン。実業団時代のサッカーに詳しいのだ。思わず興奮してサッカー談義に花を咲かせる。サッカー好きの人と話をしているといくら時間があっても足りない。まあ、あんまり仕事の邪魔をするわけにもいかないので、後ろ髪を引かれる想いでお店を後にする。

 次のお店もS書店。神保町は頭文字にするとS書店ばかりなので、難しい。
 文芸担当のOさんが休みだったので、前の会社でお世話になっていた医学書売場に新年の挨拶。その後、エスカレータを降りながら、ぼんやりしていると、前文芸書担当で現在建築書の担当になったTさんとバッタリ。
「杉江さんに話そうと思っていたことがあるんですよ、ちょうど良かったぁ。」とのことで、またまた仕事の邪魔をする。
 話したかったこととは、Tさんが年末の休みに、『本の雑誌』第1位の『ジャンプ』を読んですごく面白かった、ということ。うれしいなあ。
 「でも、杉江さん、あの欄でサッカーの本を一生懸命取り上げても…」と言われ思わず大笑い。そうなのだ、僕は入社して以来、ベスト10の投票には絶対サッカー本を1冊入れるようにしている。サッカーは観るのも面白いが、読むのも面白いのだ。そのうちサッカー本だけのベスト10というのをやりたいとこっそり考えていたりする。

 また、こんなことを書いていると、助っ人の川合くんから嫌味を言われそうだ。
「杉江さんって、どこへ行ってもサッカーの話をしているんですか?なんか営業って楽しそうですよね?」なんてことを真顔で言われると、こちらとしてもグサリと来る。

 別に僕はどこへ行ってもサッカーの話ばかりしているわけでもなく、出版業界(本の雑誌社で社内引越があったこと)や新刊の展望(中田英の『ジョカトーレ』がでたこと)、あるいは飛躍し今流行のITについて(ポストペットを始めてネコを飼っていること)などなど、店頭でちゃんと会話をしているのだ…。

 まあ、そんなことはともかく、学生助っ人諸君にとって、一番身近な社会人が僕になるわけで、もっと良い見本にならなくてはと反省している。このままじゃ、世の中の社会人に申し訳ない。

1月15日(月)

 仕事がみるみる増えている。
 昔、高校受験の参考書で「みるみる」シリーズなんていうのがあったけど、まあ、成績がみるみる上がるのは申し分ないことで、でも仕事が増えるのは申し分がある。ただでさえ、営業マン一人で書店廻りをしていて、アップアップの状態なのに、そこへ来て新しい仕事や試みに思わず顔を突っ込んでしまう悪い癖を連発。その時は、興奮して息をハァハァさせながら、「それやりましょうよ!」とか「僕がやりましょうか!」なんて口走ってしまうのだが、よくよく考えるととてもそんな時間もない。自業自得の見本のような生き方だなあと反省。

 これじゃ、マツモトキヨシと一緒で、本の雑誌「何でもやります課」設立か…なんてことを自嘲気味に考えていたけれど、目の前に積み重ねられた仕事に思わず呆然。が、呆然としているとアッという間に一日が終わってしまう。とにかくヤルしかない…のか、なあ…?

 午前中は、書店さん販促用DM「本の雑誌通信」の製作。毎月当たり前のように作っていたけれど、これもよくよく考えてみたら、僕が勝手に作っているのだ。何もやれ!と言われたから製作しているのではなく、こんなの作ったら面白そうだなあと思って始めたこと。確かに面白いんだけど…。

 午後からは、御茶ノ水の取次店N社に行き、先週のトラブルを謝る。仕入担当Eさんの迅速な対応のお陰でどうにか滞りなく搬入へ。有り難いかぎり。
 その後は神保町を営業の予定だったが、担当者が休みなのを思い出し、池袋へ路線変更。L書店Mさんの「年末のベストは本の雑誌1位の『ジャンプ』が一番売れましたよ。」の一言に思わず涙が出そうになる。この言葉の奥には、「本の雑誌」への読者の信頼が隠されているわけだし、この本の売れない時代に、少しでも「本の雑誌」が書店さんに貢献できたことがうれしい。期待を裏切らない面白本をこれからも探していこうと気合いが入る。

 その後は、改装したばかりのJ書店に行きあまりの広さに腰を抜かし、A書店、H書店、I書店と営業。今日は担当者の方々にバシバシ会えて仕事もはかどる。今日は運が良い。

1月12日(金)

 相変わらず、熱でぼんやり。

午前中、Nさんが会社にやってくる。Nさんは、僕が前に勤めていた会社に出入りしていた印刷会社の営業マン。カヌーや山登り、あるいは読書といった趣味が僕と合い、仕事を越えたつき合いをさせてもらっている人。前の会社にいた頃は、面白本があると、仕事もそこそこに喫茶店に誘い合い、本の話をしていた。

 そんなNさんから電話があったのが去年の夏。神保町の喫茶店で待ち合わせをして、コクのあるコーヒーと卵サンドを食いながら、
「あのね、転職しようと思ってるんだ。」
と告白される。
「えっ、会社辞めちゃうんですか?どっか次の仕事のあてでも…。」
「杉江くんも知っている、白日社に。」

白日社は、僕がNさんから教わって大好きになった辻まこと氏の本を出版している会社だ。その他に山奥で素朴に暮らしている人々の聞き語りシリーズや串田孫一さんの本など自然系を中心に出している。
「えっ、マジですか?」
予想外の話の展開に思わずビックリしつつ、これまでの経緯を聞いた。
「印刷の仕事も面白いんだけど、白日社のね、社長さんがもう80歳を越えてひとりで地味にやっているんだ。すごい人でさ。どうしてもその人の下で働きたくて、それで話をしに言ったの。僕ももう42歳。やっぱり一度くらいは好きなとこで働きたいと思ってね。僕ともう一人編集ができる知り合い(某科学系雑誌編集長)がいて、二人で移って頑張ろうかと思ってるんだ。」

 42歳、家庭があって、子供もいて、この結論を出したNさん。転職や開業の話には何か危うさがつきまとうけれど、僕が偉そうなことを言えるわけもない。話を聞きながら、ただただNさんの選択に間違いがないことを祈った。

そして今日。
 Nさんにとって、長年営業マンとして仕事をしてきたとはいえ、出版営業は初めての経験で、出版業界の営業とはどんなもんだ?ということを僕に教えて欲しいと会社にやってきたのだ。

 僕に教えられること…なんてあるわけがない。僕だって手探りで営業しているし、どれが正解なのかもわからないし、自信なんてまったくない。毎日、これで良かったのかなあ、なんて考え込んでしまうくらい。だから、Nさんから電話を貰ったとき、思わず断ろうかと思った。けれど、こんな年下の小僧に教えを乞うこと自体、よほどプライドを捨てているのだろうし、今まで散々お世話になってきているのだから、その幾らかのご恩返しになればと思い直し了解したのである。

 教えるなんてことはできないので、とにかく僕は本の雑誌社に移っての3年間を話した。書店さんはこんなところで、僕はこう考えながら営業している。あるいは、新刊を出すときはこんなスケジュールで動いているなどなど。Nさんにとって役に立ったのかわからないけれど、とにかく僕にわかる範囲のことは話した。

 Nさんとは、笹塚駅で別れた。僕の話で満足したのかよくわからなかった。ただ、期待と不安をごちゃまぜにしたNさんの表情を見ながら、入社した頃の自分を僕は思い出していた。今よりもっと自信がなくて、期待よりも不安が多かったあの頃…。そしてその気持ちをいつまでも忘れてはいけないと強く感じた。
 教わったのはNさんではなく、自分の方だった。

 Nさん、お互い小さな出版社だけど、頑張りましょう!

1月11日(木)

 正真正銘の1月11日、木曜日。

 朝、会社に行って、自分の原稿がアップされているか確認しつつ、『WEB 三角窓口』を覗き、ビックリ。 「タイムトラベラー杉江さん」  何で自分の名前が表題に上がっているんだ、と頭の中なかに「?」マークを漂わせつつ、長老みさわさんの発言を読んで思わず赤面。鋭いツッコミありがとうございました。

 昨日、高熱とトラブルに巻き込まれ、半ば朦朧としつつ、21世紀最初のアップになる『炎の営業日誌』を書いていたので、単純に日付を間違えてしまっただけです。僕は決して「時をかける営業マン」ではなく、「書店をかける営業マン」です。
 それから、先の日付の予定稿が流れてしまったのではないかと、たけちゃんさんに、とても優しいフォローをしていただきましたが、ただただ僕のおバカをさらけ出してしまっただけです。当欄は日誌となっているため、悲しいことに原稿の書き貯めというのができません。その逆に、ぼんやりしていると、書いていない原稿が溜まっていきます。

 おまけに昨日のトラブルで抜けてしまった毛髪は、すでに最強にした暖房に吹き飛ばされ、社内のあちらこちらに飛んでしまっているから、もう僕の頭皮に戻ることはないでしょう…。

 ハゲるかどうか…というのは、30歳目前の男にとって深刻な問題である。

 先日正月休みに地元春日部に戻り、同級生数人で寄り集まって酒を飲んだ。バカ話に盛り上がっているところ、「お前、薄くなってない?前髪。」と友人Sに指摘したら、一瞬場が静まりかえる。あわてて、みんな自分の前髪を頭になでつけ、なるべくおでこが隠れるようにしていた。
 その後、互いの前頭部を見つめ合い、「いや、お前が一番少ないんじゃないか」とか「オレは大丈夫だ」なんて、髪を引っ張りながらの鑑定が始まった。そのうち誰かが捜してきた「虫眼鏡」で毛根のチェックをし、みんながこっそり使っている育毛剤を告白。
 うーん、昔はバイクや女の子の話題で盛り上がっていたのに、何でハゲ話でこんなに盛り上がるんだ。まあ、一番興味津々で話していたのは僕なんだけど…。

 こんなことを書いていると、僕がかなりの薄毛頭だと思われるかなあ…とかなり心配になってきた。毛の話は、この辺でやめておこう。

 午前中は、昨日のトラブル処理の続き。午後からは、浜本と車で地方小出版流通センターへ挨拶に行く。その後は、また会社に戻り、座談会の収録やら、その他もろもろの仕事を片付ける。

 結局、昨日のトラブル処理で、書店さんへ行けない日々が2日も続き、悶々とする。年末に立てた営業予定は、すでにボロボロ。仕方ないか…。

 早いところ風邪を治して、ペースアップするしかないと、「新ルルA錠」を飲み込む。
 あっ、我が浦和レッズに井原正巳の移籍が決定。今季は大声で「イハラコール」をしようと心に誓う。「ガンバってくれよ~、井原!」

1月11日(水)

 昨日、布団を山のようにかぶって、早めに寝てみたが、熱は下がらず。
 おまけに本日は、『本の雑誌2月号』の搬入日なので、休むわけにはいかない。とにかく出社。
 会社に着くと早速製本所から納品になり、定期購読者の方々へツメツメ開始。

 ところが……。  
 書店納品分のスリップ(本に挟み込んでいる紙)に大間違いを発見し、その後は、あちらこちらに電話やFAXをいれて対応を検討。本誌自体に問題があるわけじゃないけれど、流通上の大門題。予想外のトラブルに頭の中が思わず真っ白。ああ、これで大事な前髪がまた少し抜けるのか…。

 今日のことは思い出すと、毛が抜けそうなので、この辺で許して下さい。

1月10日(火 )

 先週金曜日に出社して、また3連休。で、本日出社。まったくペースがつかめない。

 午後から丸の内線を営業。今年から営業ルートを効率的にできるよう見直ししたので、それに沿って営業。大手町のK書店さんに顔を出したが、担当のMさんは、ひっきりなしにお客さんのつくレジで大奮闘中。迷惑になりそうなので、後日再訪に。

銀座に移動し、A書店のOさんを訪問したら、顔馴染みの営業ウーマン草思社のSさんがいてビックリ。
「Oさんは今食事の休憩に出てしまったそうなんですよ~。」とのことで、しばらくSさんと立ち話。昨年末にSさんと飲んだとき、僕が「チョコエッグ」に凝っていると話していたら、なんとSさんもその後はまってしまったとのことで大笑い。みんな「チョコエッグ」に、はまるんだ…。

 四丁目のK書店を訪問したら、待ちに待っていた新刊『ジョカトーレ 中田英寿新世紀』小松成美著(文芸春秋)が出ていて大興奮。営業話よりも先に購入。担当のKさんに笑われる。うーん、でも我慢できないよなあ。早速、道で、目次と導入部分だけを読む。『鼓動』幻冬舎の感動よ、再び!

 その後、食事から戻ったA書店Oさんに『ジョカトーレ』と「チョコエッグ」を無理矢理お薦めし、赤坂に移動。
夕方、会社に戻る。


 何だか今日は妙に頭がボンヤリするなあ…と思っていたので、念のため体温計で熱を計る。

 ウワッ!38度2分。すぐさま帰る。

1月5日(金)

 冬休みも終わり、記念すべき21世紀、初の出社!  
とはいっても意気揚々と会社に向かったわけではなく、全国高校サッカー選手権の準々決勝を見に行きたい気持ちを必死に抑えての出社。我が埼玉県の代表武南高校が勝ち残っていて、本日優勝候補筆頭の国見高校と戦うのだ。こんな大切な日を年明け最初の出社日にした社長を恨む。

 今日から2月刊行の『別冊 新恋愛小説読本』の営業と挨拶廻りだ。ひとり営業マンには、ぼんやりする時間なんてない…。

 久しぶりの会社は寒かった。  これは字のとおり、とにかく温度が寒い。本の雑誌社の内装は、全面コンクリートの打ちっ放しでになっていて、一見、今風で格好良く見える。が、しかし、どうもこのコンクリートというシロモノは、熱伝導率が非常に悪いようで、休み明けに暖房を入れても、四方を囲むコンクリートの冷気に負けてしまうのだ。まったく暖かくならず、社内は一日中冷え冷えしている。特に足元は、外にいるより冷たい。

 勉強には頭寒足熱が効果的なんて言うけれど、休み明けの本の雑誌社は、頭寒足冷。身震いで仕事が、はかどらない。現にこの原稿を書いている指もかじかんでいて、さっきからキーボードの押し間違いばかりだし、配本部数の計算をしていた電卓の答えもまったく自信がない。こうなったら、日に当たれる外の方がマシなので、会社を飛び出す。

 本日は新宿を廻る。年末年始は飲み歩いてばかりだったから、久しぶりに書店の棚を見て、思わず仕事を忘れ逆上。特別新刊が出ているといわけでもないけれど、とにかく書店にいることだけでうれしくなってしまう。うーん、活字中毒というのはよく聞くけれど、書店中毒なんていうのはあるのだろうか?

 各書店の担当者と新年の挨拶を交わしつつ、新宿は全体的に年末年始の売れ行きが良かったようで、一安心。このまま一年間売れ行きが上がって、出版不況脱出なんてことになることをなぜか都庁に向かって祈る。  

 バーゲンで活気のあるデパートを歩いていて、ハッとする。間もなく公正取引委員会による、出版物への再販制度の見直しの結果が出るのだ。今のところ存続か撤廃かそれとも一部存続になるのか、まったく予想がつかない。もし、再販撤廃なんてことになったら、来年の今頃は書店さんもバーゲンに加わっているのかもしれない。単行本3冊で5%オフなんて店頭に張り出される書店さんを思わず想像。うーん、恐ろしい。

 とにかく2001年は出版業界にとって、激動の年になる可能性が高い。
 最後は市ヶ谷に移動して、地方小出版流通センターのK社長と担当のKさんに新年の挨拶。夕方、会社に戻って社内で新年会。本の雑誌社と椎名誠事務所の面々が一同に集まり(とはいっても15人だけど)、なぜか湯飲み茶碗でシャンパンの乾杯。

そんなこんなで2001年が幕開けした。
 今年も『本の雑誌』と『WEB本の雑誌』をよろしくお願いします。