1月31日(水)
某路線を営業。
1件目の書店。商店街の駅前路面店。
「単行本はともかく、雑誌の売れ行きも悪いよね。みんな家計が苦しいのか3冊買っていたものを1冊に抑えるって感じかなあ。特集の内容を吟味して、どうしても欲しい物を買っていくよ。ほんとお客さんの目が厳しくなってきているよね。でも、自分のことを考えてみても一緒だよ。子供がふたりいて、家も狭くて、昔みたいに片っ端から欲しい本や雑誌を買っていたら、生活にならないんだよね。だから今はどうしても絶対欲しい本と雑誌だけ買って、あとは学生時代に買って読んでなかった本を棚から取り出してる。ハハハ。
お店の方ももっともっと棚を変えて、活気づけていかないといけないんだろうけど、時間がなくて。言い訳だけど、バイトも従業員も減らしているから、日常業務で精一杯になっちゃうんだ。すごく悔しいし、恥ずかしいし、もうジレンマだよ。文庫の棚なんか面白くないでしょう?ほんとはいっぱい触りたいんだよなあ。」
2件目の書店。こちらも商店街の路面店。
「この人なら売れるって作家がいなくなっちゃったね。そのとき話題になったもんだけ売れていくよ。読み聞かせ運動とか朝の10分読書なんてやっているけど、まず親が読まなきゃ子供は読まないよ。親の背中を見て子供は真似をするっていうけど、ほんとだと思うよ。ここは古いお店だからお客さんとの繋がりがあるけど、親がいっぱい本を買う家は、子供も買うんだよ。ハリー・ポッターの2巻目がでたときうれしそうに買っていった子供がいて、うれしかったなあ。無理矢理読ませようとしないで、もっと親が本に近づかないとなあ。あっ、出版社はもっと面白い本作らなきゃダメだよ。」
ある出版社営業マンが集まる飲み会でアンケートが配られ、その1問に「出版業界を斜陽産業だと思うか?」というのがあった。この現状を見れば、自ずと答えが出てきているような気がする。
そして、前に一度書いたことのある、変則2フロアのP書店。売上が落ち込み、今後の心配をしていたお店だ。
ここ数ヶ月お店を伺っても、H店長は不在でお会いすることができなかった。今日もダメかなあ…と思いつつお店をのぞきこむと、レジに座っていた。しかし顔色が悪い。話を聞いてみると、H店長は心労と無理が祟ったのか、2ヶ月ほど前から身体に力が入らなくなったとのこと。顔や手足が異常にむくみ、咳が止まらなかったそうだ。あわてて、病院に行き、検査と治療の日々。まだ、最終的な検査が終わっていないので、詳しい病名はわからないそうだ。それでも、薬のおかげでむくみはとれたらしい。
僕は、とにかく身体が資本なんだから無理せずしっかり治して欲しいと伝える。しかし、それでも無理をしてしまうのがH店長なんだ…。
病気の話がひと段落したので棚を見てみると、何だかガタガタ隙間が開いている。僕は一瞬にして膝から力が抜ける。もしかして……。
「違うんだ、とにかく2階の単行本の売上が悪いから、1階だけで営業することにしたんだ。雑誌が主になっちゃうけど、単行本も置いていくよ。でも瞬間的に売れればいいみたいな本は置かないよ、面白い本、読んで欲しい本を厳選して売っていくよ。そんなこと言ったら取次店の人に怒られたけど、絶対お客さんはいるよ。信じてるんだ。」
H店長のお店は、ついに生き残るための限界まで来たのだ。具合の悪い身体をひきづりながら、返品する本とこれからも売り続けていく本をセレクトしていた。最後の勝負が始まるようだ。
前回同様、僕にできること…というのを考えそうになったけれど、それはある意味H店長への冒涜になるような気がしたので心の底に押し込んだ。H店長は僕よりもこの業界に長くいるし、経験だって比べものにならない。僕に出来ることは、訪問して、いろんな情報を渡すこと。うちの本なんて売れなくてもいいんだ。そして、H店長が元気になることを祈ること。
「H店長、絶対無理をしないで下さい。身体を壊したら元も子もないですよ。来月も僕は来ますからね、入院なんてことにならないで下さいよ。」と声をかけ、お店を後にした。
営業なんて、つらくて淋しいことばっかりだ…。
でも…、営業マンでなければ、こんなに素晴らしい人達と出会えることはなかったはずだ。そして僕は、営業が大好きだ。