WEB本の雑誌

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2月28日(水)

 横浜を営業。Y書店のMさんと話をしていたら、どうも目の上が青い。まるで誰かに殴られたような痣ができている。しかしこういうことは「どうしたんですか?」と聞きづらい。何か個人的なことだったら言いたくないこともあるかもしれない。それにしても心配だと思っていたら、Mさんから事情を説明してくれた。

 なんと駅の階段を歩いているときに、突然急ぎ足のおっさんに突き飛ばされ、よろめきつつ手すりにつかまろうとしたらしい。ところがうまくつかめず、頭を強打してしまったそうだ。うーん聞いているだけで、痛さが伝わってくる話だ。
 おまけにそのおっさんは謝ることもなく、どこか雑踏へ消えてしまったとのことで、まだ、頭にたんこぶが出来た程度だったから不幸中の幸い、とは言え、はずみが違ければもっと大事になったのではないか。酷い人がいるし、怖いことがあるなあと重たい気持ちになってしまった。

 しかし、Mさんはどんなときでも明るい話にしてくれ「杉江さん、わたし面白いことを知ったんですよ。たんこぶもかさぶたみたいに、治りかけは痒いんですよ。」と笑顔で教えてくれた。Mさんのその笑顔に救われる思いだった。

 その後、M書店のYさんを訪問するといきなり「杉江さん、ちょうど今日、出ましたよ!」と1冊の本を手渡される。何だ?何だ?とあわてて手に取ると、なんと『本の雑誌』3月号で紹介した書店員ホモ小説『キスよりもその口唇で』花川戸菖蒲著(二見シャレード文庫)の続編『一緒にいたねをたくさん』ではないか!

 今回は青山君と望君が同居し、いつでも一緒の生活。残業のときは、望くんが事前に作っておいてくれた栄養バランス満点のご飯を食べ、一段と愛を育んでいるらしい。おまけにこのふたり、大手書店の派閥抗争に巻き込まれ、移動や転勤の話が…。いやー出るとは聞いていたけど、もう出たのかと早速購入。今日はYさんがレジに立ってくれたので堂々の購入。これなら恥ずかしくない。

 Yさんがその表紙を指さしながら言った「杉江さん、この人に似ているよね。」の一言が気にかかる。少女漫画風2枚目青年に似ているなんてうれしいけれど、それはきっと主人公の青山くんで、いわるゆホモなのだ…。うーん、喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら。

 帰り際そんなYさんと今度は『誕生日事典』(角川書店)の話をしていたら、僕の誕生日のページを開き、目の前で分析される。僕の誕生日の項目には「夢がない」と書かれていて、
「当たってないねぇ、杉江さんいっぱい夢ありそうだよね。」と言われる。
「いやいや、そんなことないんですよ、これでも結構現実派なんですよ。」と中田ヒデのようにクールな人間として印象づけようとした。しかしYさんのとどめの一発!
「何言っているのぉ!夢がなくて、浦和レッズは応援できないでしょう。」
ああ、その通りだ……。

 その後は、Y書店、E書店と営業し、あっという間に街は夜。これだけ読むとまるで遊んでいるように思われるかもしれないが、一応こんな会話の間に新刊の売行や注文など仕事をしているのだ…。浜本さん、そんな不安そうな顔をしないで下さいよ。

2月27日(火)

 Aさんは、入社3年目を迎えたばかりの、まだ若い書店員さんだ。いつ訪問しても一生懸命で必死に仕事をしているその姿に僕はとても共感していた。

 今日もそんなAさんを訪問して、いろいろと話をしていた。するとこんな言葉がポロリとこぼれ落ちたのである。

「入社して2年が過ぎて、やっと少し『ゆとり』が出来たというか、周りを見る余裕が生まれたんですね。そしたら何か、いきなりひとり担当だったのもあるんですけど、書店員の基本が全然わかっていないんじゃないかと思えて、すごい不安なんですよ。仕事を教わるような先輩もいなかったし…。いろいろと他の書店さんを見て勉強しようとは思うんですけど、どうしたらいいんでしょうかね。」

 気持ちのこもった言葉だった。いつも一生懸命なAさんがこんな不安を抱えながら仕事をしているなんて思いもしなかった。いや一生懸命だからこそ、感じ始めてめてきたのか。僕に何か出来ることはないかな…と考えていたら、いきなりBさんの顔が浮かんだ。

 BさんはこのAさんと同じ系列の別支店で働いているスゴ腕書店員さんだ。そのBさんから何か教わることができれば、Aさんにとって、ものすごいプラスになるのではないかと閃いた。

 ただ、書店さんのチェーンというのは、不思議なものでお店が違えば、別会社みたいな感じがあって交流がほとんどないのが現状で、これはこの系列の書店さんに限ったことではなく、僕が廻っている書店の多くで感じることである。もったいないなあ…というのが僕の想いだった。

 今ここにやる気になっている若い人がいて、書店員としていろいろなものを吸収しようとしている。そこへBさんの書店員としての血が受け継がれることになれば、とてもうれしいことなのではないか。

 他の仕事もそうだけれど、書店員というのはやはり経験がモノをいう仕事だと思う。覚えることは山のようにあるし、出版社とのつながりも大きい。また、その人本人の感覚も大切だし、まさに職人的な仕事だと僕は考えている。最近ものすごい勢いで普及し始めた自動発注やポスという機械では、到底代替できる仕事ではないのだ。

 その職人的な仕事の全てを教えることは難しいかもしれないけれど、書店員としての面白さやヒントを伝えることはできるのではないか。そして、ひとつの面白さ(方法論)がわかれば、Aさんももっともっと本や本屋について興味を持ってくれるのではないか。

 出しゃばっている自分がものすごく恥ずかしかったけれど、Aさんにそのことを伝えた。するとAさんも実はBさんのお店を覗きに行こうと考えていたらしい。

「でも同じ会社とはいえ、全然面識がないんですよ。すごい迷惑になるんじゃないかって。」
「それなら僕に任せてもらえませんか。僕は両方知っているわけだし、Bさんにちゃんと話すこともできますから。」

 もう僕は完全に恥を捨てた。ここにひとりの自覚ある書店員が生まれるなら何でもいいやと思った。とにかくAさんに頑張って欲しい。

 その後、Bさんに連絡をいれ、事情を話した。Bさんは快く引き受けてくれ、連絡してくれるように伝えて欲しいと言ってくれた。まだ二人の交流は始まったばかり。でも、何か絶対に受け継がれる物があるはず。それは今後のAさんが作る棚を見れば一目瞭然。時間はかかると思うけれど、ものすごく楽しみだ。

2月26日(月)

『炎のtoto日誌 その0』
 顔なじみの営業マン、ダイヤモンド社のKさんが「こんな本を出すんですけどどうですか?」と送ってきてくれたのが、『toto必勝指南』市丸博司編著。「toto」と言ってももちろん便器メーカーのTOTOではなく、間もなく始まるサッカーくじのこと。この本はそのガイドブックだ。

 早速、読み始めたら止まらない。興味はあるものの、いまいち仕組みがわかっていなかった僕にはちょうど良いのだ。「サッカーくじ」の買い方からそのノウハウ、どうも引き分けの予想が鍵を握るらしくその辺も細かく分析されていて、各チームの戦力分析(これが面白いことに選手層の問題以上に過去の対戦成績を重視している)から第13週までの予想まであり、かなりきめ細かく書かれている。これはもしかすると、僕のようなサッカーバカにはおいしい「くじ」(博打)なのではないかと思わず興奮。

 とにかく予想の仕方は2通りあって、その節に行われる全13試合の対戦結果を「勝ち」「負け」「引き分け」の中からひとつずつ選ぶのが「シングル」で、わかりづらい試合に対して、いろいろと予想していいのが「マルチ」と呼ばれるものらしい。

 配当金は、もちろん1本勝負の「シングル」の方が高く、最高配当限度額は、なんとなんと1億円!!おお、100円が1億円になるなんてすごいじゃないか!競馬で大騒ぎしている「万馬券」が突然せこく思え、これはもしかするともしかして「億蹴券」(勝手に作った造語)が僕の手に!!!

 僕の強みは、なんと言ってもレッズバカなこと。なぜそれが強みなのかというと、JリーグチームでJ1、J2両方で戦ったことがあるのは、レッズとコンサドーレとベルマーレだけなのだ。この3チームのサポーターは、J全チーム(横浜FCは除くけど)を目の前で見て、強さ(弱さ)を知っているのだ。これはさすがのアントラーズやジュビロのファンも知らないだろう…。ああ、こんなこと自慢したくないなあ。

 それに、もし、このサッカーくじが普及したら、僕のようなサッカーバカも少しは有り難がられるのではないか。常日頃、過剰なまでにサッカーの話をしていて、誰もまともに聞いてくれない淋しさを味わっているけれど、もしやもしや、予想を聞きにやってくる人が現れるかもしれない。そんなときが来たら、僕も目黒さんが行う社内馬券予想のように、当たりもしない蘊蓄をたれられるではないか!あれは絶対当てる喜びよりも、語れる喜びがでかいのだ。おお、早くそんな時代が来ないかなあ。

 まあ、そういうわけで、今年はサッカー観戦日誌にプラスして、toto日誌も掲載しようと思っている。
 
 もし、1億円当たったら。
 うーん…。
 会社を辞めて、世界のサッカー観戦三昧か?たまんないなあ。

2月23日(金)

 千葉を営業し、某書店員であり、人気サイト『銀河通信』の発行人でもある安田ママを訪問。話をしながら、たくさんのアイデアを貰う。有り難いかぎり。

 その中のひとつで、『本の雑誌』で紹介される本を事前に教えて欲しいということがあった。事前にわかれば、注文や返品の対応も変わってくるし、ポップを用意しておくことも出来る。本が売れる唯でさえ少ないチャンスを有効に売上につなげたい…その想いが強く伝わってくる。

 正直言って、年末のベスト10以外では、先出し情報の有効性を考えたことがなかった。安田ママの一言で開眼した思い。それで売場が少しでも活性化されるなら大喜びだ。これは、すぐさま対応できることなので、書店さん向けDM「本の雑誌通信」に載せることにする。こういうアイデアは、自問自答会議では思いつかないので非常に助かる。

 帰り際、安田ママから「杉江さん、あの本売れたのよ!」と突然言われる。何のことかすっかり忘れていたので「何ですか?」と聞き返す。すると先月僕が訪問したときに、とある書店で売れている本を安田ママに紹介していたのを思い出す。そうだ!何となく客層が似ていそうなので、紹介したんだった。

 それを安田ママが分野担当者に強烈プッシュしてくれて、なんといきなり50冊も注文したらしい。いやはやそんな注文しなくても…と焦りの汗が噴出したけれど、それがほぼ完売し、追加で30冊注文したと言うではないか!!自分で推薦しておきながら大ビックリだ!

 自社本じゃないけれど、とにかくうれしい。いや、正直言うと僕は、自社本、他社本なんてある意味関係ないと思っている。それは本の面白さが、その多様性にあり、どこから明日の読者が生まれるかわからない…と考えているからだ。だから、書店さんが魅力ある場所になればそれでいいんじゃないのかな…。僕は少しでもそのことに貢献したいと思って、毎日書店さんをうろついている気がする。
 自社の売上はもちろん大事。でもおまけがあってもいいんじゃないか。『本の雑誌』の営業マンならそれが許されるような気がする。

 総武線にゆられながら、久しぶりに心の底からうれしくなった。まだまだ、頑張ろう。

2月22日(木)

 御茶ノ水のM書店さんを訪問したら、顔馴染みの営業マン平凡社のFさんにバッタリ。Fさんとは、とある書店さんの飲み会で知り合ったが、競馬好きで、かつて厩舎で働いたこともあるとても魅力的な人で、会話も面白く、知識も豊富。僕が尊敬している営業マンのひとりだ。

 開口一番Fさんが、「読んでますよ、炎の営業日誌。相変わらず、ひとり営業会議で自問自答しているんですか?」と笑われる。読まなくていいのになあ…。

 営業マンただひとりの会社。それでもやっぱり会社なら会議くらいしたい。「そうじゃない!」とか「こうしよう!」と血気盛んな話し合いが僕もしたいのだ。しかし、相手がいない。

 というわけで始まったのがひとり営業会議。名付けて「自問自答会議」なのである。これには一応上司役と部下役があって、その両方を僕自身が心の中で演じる。漫画でよくある天使と悪魔の戦いのように。

「杉江、こんな売上でどうする?もっとできるだろう」
「いや、部長、僕一人じゃこれが限界ですよ、営業マンを増やすとかそういう対応はできないでしょうか?」
「そんなことはない!君の好きな中田英寿だって毎日練習のなかで、少しづつ限界を広げ、今セリエAで活躍しているわけだろう。君は自分で自分の限界を作っているんだ。」
「無理ですよ…。」
「とにかく来月の売上は対前年120%が目標だぞ」
「……(できるわけねえだろ!バーカ)」

 と言ったことをひとりでやっているのである。場合によってはこの上司が野村克也風ぼやきになったり、星野仙一風熱血指導になったりする。ウソだと思われるかもしれないが、こうでもしないと気力が起きない。元来どうしようもない怠惰な性格の僕は、何かしら目標を立てないと、すぐさま社会人失格生活になってしまうのだ。その防御策としてこの「自問自答会議」が有効なのである。

 今日も中央線に揺れられながら、上司と戦う。
 しかし、だいたい最後は手を取り合って、酒を飲むのである。

2月21日(水)

 夜、歴代助っ人さん有志が集い「目黒考二25年間お疲れさま会」が開催された。現役社員も特別に参加をさせてもらって、『本の雑誌風雲録』に出てくる助っ人さん達と新宿「犀門」で乾杯。

 いち読者として『本の雑誌風雲録』を読んでいたため、僕には皆さんそれぞれが大学生としてインプットされていた。しかし当たり前のことだけど約25年の年月が流れていて、立派な紳士淑女となっていた。何だかとても不思議な気分だった。

 酔っぱらいつつ、目黒さんを囲む人々をぼんやり眺め、『本の雑誌』の上を流れた長い時間を感じていた。目の前にいる人たちのお陰で、今、僕は仕事をしているのだ。目黒さんはもちろん、すべての助っ人さんに深く感謝したい気持ちでいっぱいだった。

2月20日(火)

 直行で池袋。H書店さんの問屋変更の件で打ち合わせ。その後は御茶ノ水を経由して、川崎、蒲田、大井町と移動。

 川崎の地下街Y書店さんのポップが面白い。力強い手書き文字で、思い思いのメッセージが書き込まれている。僕はこういう書店さんが大好きだ。

 ポップでいち押しされているのが大沢在昌。『らんぼう』や『新宿鮫風化水脈』に大きなポップが立っている。話を聞いてみると担当者が大ファンだとか。なんかいいなあ。

 おお、ちょうど『灰夜<新宿鮫7>』(光文社)が搬入になっているではないか。きっとこれにも大きなポップが立つのであろう。来月の訪問が楽しみ。

 早速、大沢在昌ファンの親友Sに電話を入れ、『新宿鮫』発売を知らせる。僕はとっても便利な新刊情報マンでもあるのだ…。

2月19日(月)

 今日はうれしい。特別何かがあったというわけではなく……。いや、あったからうれしいのだ。きっと営業マンはみんな喜んでいるはずだ。

 それは何か?
 なんとコートが脱げたのである。
 
 昨日までの冷たい風がどこかへ吹き飛び、穏やかな太陽が顔を出し、ポカポカ陽気の春がやってきたのだ。肩が凝り、お店に入るときには、いちいち脱がなければならない邪魔なコート。それが必要なくなり、スーツだけでちょうど良い暖かさ。おまけに青空。最高だ。
 営業マンの素朴な喜び。

 新玉川線から名称変更された田園都市線に乗って、二子玉川へ。ホームの先から見える多摩川土手でみんなひなたぼっこしている。うーん…、いいなあ。気持ちいいだろうなあ……。

 その後の行動は日誌に書けない。

2月16日(金)

 どうしても外せない私用があったため、午前中会社を休む。しかし、その午前中にしなければならない仕事というのもあって、どうにもならない。僕が今一番欲しいのはパーマンに出てくるコピーロボットで、こいつさえあればかなり楽になると思う。が、きっとコピーロボットを使って営業を始めたら、書店さんは僕が訪問する度に鼻を押すであろう。

 まあ、そんな夢物語はどうでもよくて、一人でどうにもならない状況になってしまったため、取次店N社への『新・恋愛小説読本』見本出しは、営業事務の浜田に頼む。「かたじけないでござる…」とこちらは忍者ハットリ君になって頼んだ。浜田は「ニン!」と答えた。

 私用を終え、午後からは仕事。取次店T社へ見本出しをした後、飯田橋の首都高速沿いをのんきに歩いていたら、すっかり忘れていたデスクワークを思い出し、あわてて会社に帰る。ギリギリセーフの綱渡り。うーん、もう少し落ち着いて仕事をこなしたい。

 夜は、飯田橋の出版記念クラブで『ウェブ本の雑誌』発足5ヶ月記念パーティーに出席。5ヶ月というのにいったい何の意味があるのかよくわからなかったが、読書相談員、新刊採点員単行本班&文庫班、HP関連会社のH社、B社、そして本屋タウンのN社の方々と大盛況のパーティーだった。ウェブの仕事というのは、なかなか本人同士が会う機会がなく、初顔合わせの人も多かった。いつも話を聞かないような人と時間を過ごせ、とても楽しい酒だった。
 
 そのなかで、非常に残念だったのは、当ホームページで大人気のウエちゃんにお会いすることができなかったこと。身体の調子が悪かったとかで泣く泣くの不参加表明。うーん、ほんとに残念だ。そういえば、昨年の「25周年記念発作的座談会大阪篇」でも、ウエちゃんから、めちゃくちゃ美味い、たこやきの差し入れをもらったものの、お会いすることができなかったのだ。ウエちゃん、いつか会いましょう。

2月15日(木)

 L書店池袋店にいたMさんが、町田に移動になったと聞き、早速訪問する、が公休日だった。電話で確認してから訪問すれば良かったと後悔のあまり少ない頭髪をむしりそうになる。残念無念。まあ、これで休みの日がわかったので来月からうまくいくか…。

 H書店、F書店と営業し、ブックオフを偵察。町田の商店街にあるブックオフは、1階から3階までが本の売場になっていて、あまりの広さに思わず新刊書店にいる錯覚を覚える。おまけにお客さんもたくさんいる。困ったなあ。
 それに、冷静に考えるとここにある本すべてが、一度お客さんに(読者)に買われた物で、それが不要になったから売られたわけで、ということは手元に置いておくほどの本じゃないと判断されたということか。

 こういう現状を見ると、本が文化だとはとても言えず、やっぱり「物」のような気がしてくる。もしくは文化になるほどの本を出版していないということか…。僕自身は、営業マンなので、ある程度本を物として認識しているつもりだけれど、それにしてもすごい量だ。うーん。

 その後はY書店に顔を出し、気分を変えてしっかり営業。
 担当のOさんが「杉江さん、浦和に日本一うまいラーメン屋があるって聞いたんだけど、知ってる?」といきなり言ってくる。浦和にうまいラーメン屋?聞いたことがないなあ…と考え込んでいると、「娘娘(にゃんにゃん)っていうお店らしいんだけど…」

 おおー、そこは僕が高校時代からよく通っているお店じゃないか。ラーメン屋と言われたからピンと来なかっただけで、実は小さな中華料理屋で、やきそばや餃子がめちゃくちゃうまいのだ。話しているうちに香ばしい中華の味を思い出してしまって、口の中にヨダレが溜まる。ズーッ。

 それにしても雑誌やテレビにでるようなお店でもないのに、なんで横浜に住んでいるOさんが知っているんだろう。知らないうちに有名になったのか。

 とりあえず、次回訪問時には、お店の地図を書いて持っていく約束をしてお店を後にした。町田のコンコースを歩きながら、我ながら変な営業マンだと深く自覚する。

2月14日(水)

取次店T社に顔を出した後、飯田橋の深夜プラス1を訪問。早速浅沼さんが「今月はロバート・ゴダードの新刊(創元文庫)とスティーヴン・ハンターの新刊(扶桑社文庫)が出るから楽しみだねえ」と言いつつ、なぜか井川遥の写真集を薦められる。

 僕は、浅沼さんに薦められると妙に読まなきゃ損という気分になる。まあ、外れがないから信用しているのもあるけれど、井川遥はさすがに関係ないだろう、と思った。が、浅沼さんのあまりの熱心さと過剰なまでの説明を聞いているうちに、これは買わなければ!と考えが変わる。うーん、怖るべし書店員だ。

2月13日(火)

 今週は実家から出社。
 埼玉県春日部市は桐ダンスと麦わら帽子の名産地なんだけど、そんなことはどうでもよくて、なんと通勤に2時間もかかるのだ。東武伊勢崎線から千代田線に乗り換え、中央線へ。そして最後は京王線。旅行なみの移動で、会社に着いたら一仕事を終えた気分。クタクタになってしまった。せめてもの救いは、いつも通勤で利用している埼京線ほど混んでいないから、じっくり読書ができること。今日も往復で『ハレーダビッドソン伝説』(早川書房)を読み終えた。

 今日からは3月発売予定の『青木るえかエッセイ集(仮題)』の営業。単行本編集の金子もなぜか余裕の表情でダンベル体操をしている。これなら予定通りに発売できるでしょう…。
 それにしても、書店さんも読者の方も信用させられない新刊予定。いや社員すら何が出るのかわかっていない。我ながらとんでもない出版社だなあと反省。

2月9日(金)

『別冊 新・恋愛小説読本』の事前注文締切日。まだ取り終えていない都内の書店さんをジグザグ営業し、注文短冊のチェックをする。営業の仕事には、あまり区切りというものがないけれど、この事前注文の〆切を終えるとホッとする。「ハァー」と脱力のため息。
 
 夜は、浮き玉△ベースの理事の人たちと、焼鳥屋で酒を飲む。大酒飲みのイシケンさんと西川さんの前にはお銚子が数十本並び、途中、お店の人から「すいませ~ん、お銚子返して下さ~い」と言われる。いい加減あきれてしまったが、これぞ浮き玉!と妙に納得もする。僕は、隣りに座った有楽町ゴジカラ団の宮田さんと、サッカーと本の話で盛り上がる。

 こんな夜はいくら時間があっても足りない。

2月8日(木)

 毎日、多数の郵便物が届く。本や封書や読者アンケート。一番入り口に近い席に座っている僕が受け取り、宛先ごとに分け、各自の席に持っていく。何で僕がこんなことまでしないといけないんだ!と集中してデスクワークをしているときは腹が立つけれど、小さい会社でそんなことを言っていると仕事が止まってしまうので仕方ない。まあ、怪しい請求書なんていうのが見られるので楽しい作業でもある。

 今日、その仕分けをしていたら、僕宛に1通の封書が届いた。かわいらしいシールの貼られた封筒にきれいな文字で「本の雑誌社 営業部 杉江様」と書かれていたので、ビックリ。営業マン宛に届く郵便物なんてほとんど業務的なことばかりだから、こんな封書が届いただけで脈拍数があがってしまう。手を震わせて早速開封。

 便せん3枚にぎっしり書かれた丁寧な文字を目で追っていくうちに思わず涙がこぼれる。

 それは、この間僕がこの欄に書いた出版社へ就職希望する学生さんへの手紙であった。Fさん(手紙をくれた方)は、現在契約社員として旅行雑誌の編集に携わっている方で、どうやってこの業界に入られたのか、また現在携わっている仕事の内容など、自分の体験してきたことを細かく書いてきてくれたのだ。大手や中小の仕事の違いや、編集者と一口に言っても会社によって仕事が違うことなどなど。内部で働く人にしかわからない、とても重みのある手紙だった。

 Fさんありがとうございます。
 早速助っ人連絡ボードに貼らせて頂きました。学生たちは真剣に読んでいました。

2月7日(水)

 『本の雑誌』3月号が出来上がる。会社の前に横付けされた製本所のトラックから、本が濡れないように身をかがめて社内に運び込む。どうも『本の雑誌』の納品日には雨が多い気がして仕方ない。誰かが雨男もしくは雨女なのだろう。編集長の椎名は、台風をも吹き飛ばす強烈な晴れ男なので、とりあえず、営業事務の浜田のせいにしておく。が、しかし「杉江さんがいない日の納品日は晴れてます。」とはっきり言われる。

 午後から助っ人が集まり定期購読者の方々へツメツメ作業を始める。最近『本の雑誌』が臭いという疑惑が持ち上がっているので、鼻をくんくんしてみたが、よくわからない。いったいどこで匂いがつくのやら。

 K書店大手町店に顔を出したら、待ち望んでいた新刊が目に入り、すぐさま購入。『誰が本を殺すのか』佐野眞一著(プレジデント社)。400ページを越える厚本が1800円でお買い得。内容もしっかり取材をしていて、出版業界の問題点を浮き彫りにしていると思う。まあ、内部にいるため異論や反論はあるけれど、とにかく面白い。ボロボロの出版業界を覗いてみたい方はどうぞ。

 そのK書店のMさんとフェアの話。書店さんでは常設の棚以外で、時期にあったフェアーを開催しているところが多い。しかしこれを考えるのが結構大変で、Mさんも頭を痛めている様子。そこでサッカーバカの僕は、「来年2002年には絶対W杯でサッカーが盛り上がりますよ。関連した本もたくさん出版されるでしょうから、是非フェアーをしましょう。僕が濃~いラインナップを考えますから!」と提案。自社の本以上に熱を入れてプッシュしてしまい、思わず笑われる。

2月6日(火)

 夕方会社に戻ると、助っ人の机の上に「コアラのマーチ」が置いてあった。僕は疲れていたので、甘い物が食べたい気分。そっと手を伸ばそうかと思ったけれど、これが一体誰の物なのかわからない。助っ人達は、調べ物などで図書館に出払っているため誰もいない。

 うーん、食べたい。すごく食べたい。
 でもわざわざ新しいものを買うほど欲しいわけではない。目の前にある、封の開いた5、6個残っているこの「コアラのマーチ」が食べたい。

 でも、食べ物の怨みが怖いことは知っている。本の雑誌社では、特に怖いことも知っている。何度も何度もそのことでもめたのだ。

 ……。
 必死の思いで15分待った。

 調べ物から内藤さんが帰ってくる。
「内藤さ~ん、この『コアラのマーチ』は誰のかなあ?」
「あっ、わたしのですよ。残してもしょうがないんで、杉江さん、食べます?」

 返事もせずにむさぼり食う。ありがとう内藤さん。

2月5日(月)

 終日、『新・恋愛小説読本』の営業。当初の予定では、1月刊行のはずだったけれど、社内引越やら、年末進行やら、家の大掃除やらクリスマスやら、とにかく狂ったように忙しい年末に、単行本編集者金子が頭をかきむしりながら悲鳴を上げた。
「もうダメだぁ…。スギエッチ、搬入日遅らせてくれ~。」
 ひとり営業マンとひとり単行本編集者は、互いの苦しさを理解しあっているため、僕は静かにうなずく。

 いや、そんなことは真っ赤なウソで、
「え~、ダメですよ、絶対1月中に刊行して下さいよ。読者も書店さんも待っているし、僕のスケジュールもそれで動いてますよ。」と散々悪態をついた。

 でも物理的に無理なんだよ…と冷静な金子は説明する。その話を聞いていると、どう考えても無理なのがわかる。金子だって限界まで仕事をしているし、その仕事量は、僕の倍か…。

 というわけで、読者や書店の方々には大変ご迷惑をおかけしましたが、『新・恋愛小説読本』は2月21日(水)の搬入になります。これは、問屋さんへの搬入日なので、現実に書店さんへ並ぶのは数日後。どうもすみません。

2月2日(金)

 ここのところ、良いことがない。
 仕事もプライベートもなんだか、うまくいかなくて、落ち込む日々。大好きなサッカーもシーズンオフのため、気持ちのやり場に困る。

 毎日、出社前にテレビで「やじおちゃんとうまこちゃん」の星占いを確認しているけれど、僕の星座のしし座が満点でも、僕には関係ないようだ。仕事運も金運も恋愛運も、獅子の一声「ガオォー」とともにどこか彼方へ飛んでいってしまったようだ。うーん、営業マンは外見とは違って、実はかなりメンタルな要素に左右されるので、正直言って、参ってしまう。
 そこでこんな時は、気分転換に…というと、とても失礼になってしまうけれど、大好きな本屋さんへ行って、自分を奮いたたせることにした。

 西武池袋線のN書店。ここは駅前商店街にある小さなお店。店長のTさんは一見強面だけれど、実は気さくで心優しい方なのだ。もちろん本に対する愛情は人一倍で、棚も充実している。毎日、仕入れに画策しているのだ。

 ちょっとだけ説明させてもらうと、実は今の出版流通の仕組みでは、このような小さなお店にまともな新刊が配本されることはほとんどない。いや、この欄の読者の方々が大きなお店として認識しているお店でも、思い通りに新刊が入荷することはまれで、また大手出版社の本というものも刷り部数が減っているため満遍なく本屋さんに行き渡ることは少ない。
 お店の大・小に関係なく、本屋さんにとって一番大きな悩みの種なのだ。

「この本ありますか?」とお客さんに聞かれ、
「申し訳ございません、当店にはございません。」
という本屋さんの言葉の裏には、実は悲痛な叫びがこもっている。
「お客さんの欲しい本を届けたい。でもその本はいくら注文しても入荷しない。ごめんなさい。」といった気持ち。誰よりもお客さん(読者)に喜んで欲しいと思っているのは、現場にいる本屋さんなのだ。

 しかし、この現状を変えるには、よほど思い切った改革をするしかなく、書店さんも出版社も問屋さんも多くの血を流すことになると予想される。その体力が、まだこの業界にあるのか僕にはよくわからない。

 さて、通常ルートでの仕入れには限界がある仕組みのなかでN書店のT店長はどのように本を仕入れているのか?

 これは都内にある小回りの利くお店でしかできないことだけれど、神保町の裏手にある通称神田村と呼ばれるところへ車で出かけていく。そこは小さな問屋さんが集まっている場所で、通常では手に入らない売れ行き良好書などが、店頭に並ぶことがある。T店長はそれを仕入れ、お店に並べる。ここでの仕入れは現金仕入れ。その場で現金がいるわけで、その資金も必要になる。もちろん返品もできないため目利きが重要になる。本は手に入るが、リスクは大きい。
 そして、神田村の問屋さんというのは、つきあいを大切にするお店が多いため、日々通わないと売ってくれない。T店長は何年も顔を出して、やっと仕入れられるようになったらしい。

 この神田村に通っている本屋さんというのは、結構多く、『本の雑誌』でおなじみの深夜プラス1の浅沼さんは、毎日午前と午後(時間によって並ぶものが違う)スクーターにまたがって出かけている。このような努力やリスクが、他の業界では当たり前のことなのはわかっているけれど、現状の仕組みで本屋さんが棚を充実させるためにできることは、この程度のことしかないのである。

 今日も、T店長とゆっくりお話をする。本の話、バイクの話、T店長の若い頃の話。どんなことでもあきらめず、希望を持って努力し、なおかつ楽しんでいるT店長の姿を見ていると、ヒヨッ子の僕がグチャグチャ不平不満など言っていられない気がした。

 T店長に教わったこと。
 日常なんて、楽しもうと思えば、いくらでも楽しくなる。
 そうなんだ、大事なことを忘れていた。

2月1日(木)

アッという間に、2月。今日は、直行で、埼玉営業。
 1月、2月とサッカーがないため、僕はかなり真面目に働いている。毎年、この期間だけは人が変わったように仕事をこなす。川口、浦和、大宮、北与野、武蔵浦和と2月刊行の『別冊・新恋愛小説読本』の営業。途中、浦和の街には、「レッズJ1復帰」のペナントが電信柱から多数ぶら下がっていた。さあ、あと1ヶ月で開幕だ!

 夕方会社に戻ると、新発行人浜本となって最初の『本の雑誌』刷りだし見本があがっていた。編集の松村が気を利かせて、ホチキスで製本し、僕の机の上に置いておいてくれた。
 じっくりコーヒーを飲みながら読む。うーん、頑張ったかいがあったなあ…と一息。入院中の浜本に早く渡したいなあ。

 発売は、2月7日。これは問屋さんへの搬入日なので、実際に本屋さんに並ぶのはそれ以降です。ご意見、ご感想ビシバシお待ちしています。

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