9月1日(水)

チベットのラッパ犬
『チベットのラッパ犬』
椎名 誠
文藝春秋
1,650円(税込)
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ロスト・トレイン
『ロスト・トレイン』
中村 弦
新潮社
1,470円(税込)
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 相変わらず『キムラ弁護士、小説と闘う』の注文が止まらない。

 『ひとつ目女』以来の椎名さんの新作SF『チベットのラッパ犬』(文藝春秋)を読み始める。冒頭から「知り球」やら「人造スルべ肉」だの異世界辺境感たっぷりのシーナワールド全開で、仕事をサボって読み進めたいところ。上司の本を読んで仕事をサボった場合、私は怒られるのだろうか。

 元・助っ人アルバイトの横溝青年から電話。
「炎の営業日誌10周年おめでとうございます! 僕がちょうど今年就職して10年なんで、ちょうど僕が卒業する年に書き出したんですね。それをずーっと続けているなんてすごいですよ」

 そう言われてみると本当に長い時間書き続けてきたんだなあと実感がわく。

「それでお祝いじゃないんですけど、杉江さんの好きなヤクルトスワローズのチケットが手に入ったんで、一緒に行きませんか?」

 横溝青年は年に一度くらいどこかで手に入れてきたボックスシートのチケットを私に送ってくれるのだが、しかし......。2008年5月27日の日記にあるとおり、信じられないぐらいおっちょこちょいをやらかす男なのである。

 もしやまた「雨天予備券」で誘っているのではなかろうか。もしそうならここ1カ月雨が降った記憶がないから、そのチケットで野球が見られるとは思えない。

「お前さあ......」
「いや大丈夫です! 今、僕、チケットを前にして話してますから。9月7日、東京ヤクルト対広島、間違いありません」

 結果は9月7日。

★   ★   ★

 とある書店を訪問し、ここ数カ月何だかお店がものすごくよくなっていることを不思議に思っていたのだが、店長さんが変わっていたのだ。オーソドックスな店作りながら、棚整理がきちんとされており、接客もしっかりしている。ベテランの店長さんの背筋を伸ばした姿勢そのままのお店で、なんだかうれしくなってしまった。

 そういえば先日書店員さん3人と待ち合わせするのに、丸善お茶の水店を待ち合わせ場所にしたのだが、入ってきた書店員さん3人が3人とも開口一番「きれいだなあ」と呟いたのには笑ってしまった。

 ここでいうきれいとは棚や内装が新しいことではなく、本がきちんと積まれ、並べられていること、また視界を考えたレイアウトしていることを指しているのだ。きれいでいられる理由はただひとつ、それだけ書店員さんが本を触っている、ということだろう。

 きれい、というのはお客さんの購買意欲を上げる大事なもののだと思うのだが、人が減らされる一方の書店さんでは、なかなかそれが出来ないのも現状だ。

★   ★   ★

 啓文堂府中店で見つけた『勝手にふるえてろ』綿矢りさ(文藝春秋)のPOPが、イラスト入りで素晴らしい。また好例の「おすすめ文芸書大賞」の予選が始まっており、候補作は『 ロスト・トレイン』中村弦(新潮社)など絶妙なラインナップであった。

★   ★   ★

 夜、飯田橋で深夜プラス1浅沼さん、お疲れ様会。
 最後の最後まで浅沼さんは浅沼さんだった。
 戻って来て欲しい。いや戻ってくる場所を探さないと。

8月31日(火)

散歩の達人 2010年 09月号 [雑誌]
『散歩の達人 2010年 09月号 [雑誌]』
交通新聞社
580円(税込)
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 深夜プラス1閉店の日。
 浅沼さん、ほんとうにお世話になりました。

★   ★   ★

「散歩の達人」の次回分の原稿を送ると編集長の山口さんから原稿OKとともにこのような文章のついたメールが届いた。

「ところで先日、永江朗さんから取材を受けまして、散歩の達人って自由ですよね、いろんなことができて。とくにこの、杉江さんの連載はちょっとすごいですよね...、と言われてしまいました。」

 永江さんが指摘しなくてもその「すごさ」は書き手の私が実感しており、毎号届くたびに強烈な違和感を楽しんでいるほどだ。なぜに散歩にレッズ? 連載前に私がひねり出した回答は「散歩も浦和レッズも日常のなかの非日常」なのであったが、一生懸命説明する私を山口さんはまったく聞いていなかった。ビバ!自由!

 というわけで次号あたりからもう少し「散歩の達人」に擦り寄って、「炎の散歩迷子マラソン」という企画にしてはどうだろうか。特集を組む地に私が行って、地図も何も見ずに走りだし、どこにたどり着くか。迷う自信は満々だが、帰ってくる自信はまったくない。その場合、原稿は書けなくなってしまうがどうだろうか。

8月30日(月)

キムラ弁護士、小説と闘う
『キムラ弁護士、小説と闘う』
木村 晋介
本の雑誌社
1,680円(税込)
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 誰よりも早く出社して、まず最初にするのは冷房のスイッチを入れて、「急」「26度」に設定することだ。その後は、お湯を沸かし、コーヒーを入れている間に、みんなの机を雑巾がけをする。

 その頃にはゴボゴボとコーヒーが入り、おもむろにコピー機併用のFAXを確認する。注文書、返品了解書、校正の戻しなど月曜日は結構な山になっている。それを分類していると妙に『キムラ弁護士、小説と闘う』の注文が多いことに気づく。なんだろう。

 その後はパソコンに向かってメールチェック。朝イチでメールを読むなというビジネス書があったけれど、朝しか机に向かえない私は、朝メールをチェックするしかない。

 メールで届く取次店からの注文にも『キムラ弁護士、小説と闘う』が二桁注文で入っており、これは何かがおかしいと、あわててamazonの販売データを確認する。すると、おお! なんじゃこりゃという数のお客さんからの注文が入っており、ひっくり返る。

 そうこうしていると事務の浜田が出社し、そして書店さんからの電話の注文も入りだす。みんな『キムラ弁護士、小説と闘う』の注文だ。

 なんだなんだ何があったんだ!? と騒いでいると、浜田がどこかから調べてきたのか昨日の「読売新聞」で紹介されたらしいと報告してくる。

 毎日曜日の午後、近所の図書館に行って、子どもの本を借りるついでに各紙の書評欄をチェックしているのだが、昨日は午後にサッカーの練習があり、図書館に行けなかったのだ。あわてて、会社の近くの図書館に浜田を向かわせ、コピーしてきてもらう。

「本のソムリエ」という読書相談のコーナーで、嵐山光三郎さんが「学生時代のようにとびっきり夢中になれる本を紹介してください」という質問に、『キムラ弁護士、小説と闘う』がいいでしょうと回答しているのであった。

 いやはやありがとうございました。
 重版した『活字と自活』といい、改めて新聞の影響力を思い知る。

★    ★    ★

 しかしこうなってみると「営業」とはいったいなんだろうか。

 売れるときはこうやって勝手に売れていき、私はまったく苦労せず電話を取ったり注文の差配をしていればいいのである。今日一日、いやこの何週間か暑い中外を歩いて注文をとった数をたった一日で売り上げてしまうだろう。

 ならば売れないときこそ営業の力を、とはいうものの、売れないもんはどうしたって売れないし、なんだか売れてうれしい反面、自分の無力さを痛切に感じた一日なのであった。

 出版社はもしかしたら営業に力を入れるより、広報に力を入れたほうがいいのではなかろうか。その辺で成功しているのが、実は今元気がある出版社といわれているミシマ社なのではないかと私は考えている。

8月27日(金)

さよならもいわずに (ビームコミックス)
『さよならもいわずに (ビームコミックス)』
上野 顕太郎
エンターブレイン
819円(税込)
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 伊野尾書店の伊野尾さんを訪問。

 伊野尾さんは最近出会った若い書店員さんの言葉を話してくれた。

「その書店員さんが、言うんですよ。本屋さんって悩んでいる人とかつらいときに来てくれる人がいて、私はそういう人に応えられるお店にしたいって」

 実は私も数年前、目の前に配られたカードがすべてジョーカーで、絵札どころか2や3すらない、絶望の淵に立たされたときがあった。もはや自分の力で、どうすることもできない。駅のホームに立っているとまるでドラマのように列車の音が聞こえ、握りしめた手には脂汗がじっとりしていた。

 営業にでかけてもとても人と話せるような状況ではなかった。
 私はどこをどう歩き、どう移動したのかわからなかったけれど、気がつくと、日頃、営業では訪問していない、小さな駅のなかの書店にいた。
 そのお店に入ったときの、肩から力が抜けた感触を今でも忘れていない。

 何がそうするのかわからないけれど、本屋さんという場所には、こんな言葉を使うのも恥ずかしいけれど"癒し"の効果がある。もちろん欲しい本が決まっていて駆けこんで来る人もたくさんいるだろうけれど、あの場所の、あの雰囲気に接したくて足を向ける人も大勢いるだろう。

 その苦しかった日に、本屋さんで何気なく手にしたエッセイによって、私は凝り固まっていた頭をやわらげることができた。

 目の前のジョーカーも時が立てば、スペードに変わるかもしれない。いや変わらなかったとしても、飼い慣らして一緒に暮らしていけるかもしれない。

 私はまさに本屋さんによって生き延びさせられた一人だとあの日以来考えているし、本との出会いというのは必要としたときにまるで呼ばれるように手にするもので、その出会いを作ってくれた本屋さんは私とって「いい本屋」さんなのであった。

★   ★   ★

 伊野尾さんとの長い話が終わって私が帰ろうとすると、「あっ杉江さんに読んで欲しいマンガがあるんですよ。奥さんを亡くしたマンガ家のその後を一年を描いたマンガなんですが、なんていうんですか、本を読んで泣くってことがあるでしょう。でもね、泣くっていうのはまだ娯楽なんですね。このマンガは泣けないんですよ。そんなもんじゃないんですよ。」と1冊のマンガ本を手渡してくれた。

『さよならもいわずに』上野顕太郎(エンターブレイン)

 確かに泣けない。でも全身に立った鳥肌が消えない。ものすごい力を持ったマンガだった。

 そしてこの本のなかにも妻を失った夫と娘が、本屋さんで本を買うシーンがあった......。
 本屋さんとは、本当に不思議で素敵な場所だと思う。

8月26日(木)

勝手にふるえてろ
『勝手にふるえてろ』
綿矢 りさ
文藝春秋
1,200円(税込)
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舞灯籠―京都上七軒幕末手控え
『舞灯籠―京都上七軒幕末手控え』
蜂谷 涼
新潮社
1,575円(税込)
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孤独の中華そば「江ぐち」
『孤独の中華そば「江ぐち」』
久住 昌之
牧野出版
1,680円(税込)
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 通勤読書は、綿矢りさの『勝手にふるえてろ』(文藝春秋)。
 人を愛するのと愛されるのとどっちが幸せかという恋愛の永遠のテーマを、現代的な材料と登場人物で描いた物語。読後感はなんとなく島本理生に似ている気がするが、この小説は男と女でかなり"読み"が違いそう。是非とも誰かと酒を飲みながら話してみたい。

 恋愛小説といえば、新潮社のPR誌「波」で書評を書かせていただいた『舞灯籠 京都上七軒幕末手控え』蜂谷涼(新潮社)がピカピカに良い。幕末の京都・花街上七軒で働く女たちが、時代のなかで輝く男たちに恋をする。そのあまりに切なすぎる展開に何度も胸を締め付けられ、涙を流した。

 中央線を営業。
 吉祥寺のB書店では、増補復刻された『孤独の中華そば「江ぐち」』久住昌之(牧野出版)が売れており、担当のMさんも「前のも持っているんですけど、後日談とかがあるみたいで思わず買っちゃいますよね」と話される。

 高円寺のA書店を訪問し、店長のSさんの所在を伺うと「あれ?」といって声をかけられたのは以前同チェーンの仙台店でお世話になっていたTさんだった。「東京にいらしていたのですか!」と驚いたのは、実はTさん、浦和レッズサポで仙台で盛り上がったからだ。

「最近は土曜日も出勤なんでなかなかスタジアムに行けないんですよ」

 とのことだが、こっそり浦和レッズの本が平積みされていたりして思わず笑ってしまう。
 ご当地本なのか、『活字と自活』が、売上ランキング4位に入っていてうれしい。

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