通勤読書は<ブラディ・ドール>シリーズ第6巻『黙約』北方謙三(角川文庫)。
4巻『秋霜』、5巻『黒銹』と物語としてかなり安定していたので、その気で読んでいたら、いきなりものすごい展開に突入し、ひっくり返る。マジかよ、謙三! 電車のなかで泣く。
小説の登場人物が死んで、こんなショックを受けるのは久しぶりだ。
中央線立川などを営業していると、顔見知りの営業マンがふたり、引継ぎで挨拶していた。
引継ぎ......。私の人生では、出世と同じくらい縁の遠い話題である。
夜は、助っ人の送別会。
当然ながら一年ごとに卒業する助っ人学生とは1歳づつ年が離れていくわけで、もはやすっかり娘や息子を見るような気分。
うちの娘は22歳のときいったい何をしているんだろうか。
通勤読書は<ブラディ・ドール>シリーズ第5巻『黒銹』北方謙三(角川文庫)。
途中で本を読み終えてしまう恐怖心から、残りの巻はすべて購入した。そのうち2冊をいつもカバンのなかに入れている。
「本の雑誌」で連載していただいている、はらだみずきさんから「サッカー・ストーリーズ」の新原稿が届き、誰よりも早く読める喜びをかみしめつつ、堪能。素晴らしい。早く本にして、営業したい。サッカー小説史上はもちろん、すべての小説のなかでも傑作になること間違いなし。
営業は相変わらず低空飛行。
それでも廻らなければのがこの仕事のつらいところだが、上昇するきっかけが意外と営業先にあったりするから面白い。総武線を営業。
船橋のときわ書房Uさんが、まもなく出る道尾秀介の新刊『光媒の花』(集英社)の素晴らしさを滔々と語っておられた。
夜は早く帰って、ランニング。
8キロ。
気分がだいぶ軽くなる。
不吉なメールが私の携帯に届いたのは、2月の初旬だった。
「椎名さんが杉江さんを探してました。5時には戻ると伝えました」
送り主は、事務の浜田であるが、そのとき私は横浜におり、時間は4時を過ぎていた。まだまだ訪問しなければならない書店さんが何軒もあったし、直帰する気まんまんだった。5時に戻る? 誰がそんなこと言った?
しかし戻らなければならない、なります、なれ、なろ、なろ。
椎名さんが私に用があるなんてそうあることではない。かつてあったときは「明日暇か? 沖縄に行くぞ」と突然言われた。はじめたばかりの浮き球△ベースの大会に急遽連れ出された。今回は何だ? 今度は北か、北海道か?
会社に戻ると4時56分だった。セーフ。
私が戻ると同時に浜田は内線をまわし、杉江帰社の報告をする。
トイレに行きたかったが、すぐに椎名さんがやってきた。
でかい、怖い。
いつでもそう感じる。
「おお、悪いなあ」
「いえ......」
「あのなあ、俺、ここんとこいっぱい本が出てるじゃんか」
「はい、はい」
「それでさあ、各出版社が書店でサイン会とかトークショーをやってくれないかって言ってきてるわけさ」
「はい、はい」
「そうなんだけどさあ、一社で引き受けたらそこの本しか売れないじゃんか」
「はい、はい」
「返事は一度でいい」
「......」
「......」
「あっ、はい」
一瞬殺されるかと思ったが、椎名さんはすぐに優しい表情に戻った。
「それでなあ、著者にとってはどれも大事な本なわけよ。だから全部一緒にできないかと思っているわけさ」
「は......い」
「合同慰霊祭ってあるじゃん」
「ははは」
「面白いだろ?」
私は、この会社に入って13年過ぎているわけで、それは椎名さんとの付き合いの長さでもある。その間に気づいたのであるが、椎名さんの「面白いだろ?」は、危険なのだ。沖縄に突然連れて行かれたときも八丈島に流されたときもいつもはじめは「面白いだろ?」であった。
そういえば本の雑誌社に勤める前に働いていた会社には「敬称三段活用」というのがあった。
いつもは先輩から「すぎえ」と呼ばれているのが、突然「すぎえくん」と「君付け」で呼ばれる。それはたいてい書類仕事などを頼まれるときだった。たまに「すぎえちゃん」と呼ばれるときがあった。そのときは危険度50%で、土日の休日出勤を意味していた。そしてもっと危険なのが「すぎえさん」と呼ばれるときで、これはもう間違いなく長期出張を意味していた。
そのちゃん付け同様に危険なのが、椎名さんの「面白いだろ?」なのであるが、ほんとうに面白そうだから困る。
5冊同時期刊行の合同慰霊祭だって? 面白いじゃないか。
気づいたら私は笑っていた。
そこからの椎名さんの指示は簡潔にして、明瞭であった。その合同慰霊祭をやらせてくれる書店さんを探してきて欲しい。時期は2月末から3月中旬。できれば都内で2軒ほど。
走った。私はすぐさま走った。そして二つ返事で了解してくれたのが、銀座の教文館さんと池袋のジュンク堂さんだった。
椎名さんに報告すると「早いな」と褒められた。早いのは私の得意とするところだ。
そのトーク&サイン会の第一弾が本日ジュンク堂池袋店で行われた。
大盛況に終わったのであるが、最後に片付けをしていると、同様に手伝いにきていた浜本と浜田が同時に声を上げた。
「いっぱい本が売れたけど、うちの本ないんだ」
そうなのである。本の雑誌社からの新刊はしばらく先なのである。
------------------------------------
椎名誠のトーク&サイン会!
いっぺんにたくさん本が出てしまいました。
だからトーク&サイン会。
「本の力・写真の夢」
開催日時:3月19日(金)18時30分開始(17時30分開場)
会場:教文館9階ホール
参加方法:教文館にて店頭・電話ご予約受付中。
入場料:1000円(税込)
問い合わせ先:教文館
〒104-0061 東京都中央区銀座4ー5ー1
電話:03-3561-8447
やめられない、とまらない<ブラッディー・ドール>シリーズ。
第3巻『肉迫』読了。二部構成になっているのだが、後半部分では、いわくつきの土地を巡ってフロリダ帰りの主人公の娘が攫われてしまう。それだけで私の胸は押しつぶされそうになる。娘に何かあったら許さんぞ。ああ、娘を小説に使うのは禁止してくれないか。
11時、本屋大賞の副賞図書カード10万円をスポンサードしていただいている日本図書普及(株)を訪問。スケジュールの確認など。
昼食に飛び込んだ中華料理屋が、空調設備の故障で妙に煙い。霧の中でチャーハンを食べていると、けたたましい音をたてて非常ベルが鳴り出す。店員さんも止める方法がわからず、そのまま黙って食い続ける。
神保町に移動したが、まだ昼時で書店は混雑。しばらく古本屋をぶらつきワゴンを覗いていると、「がらんどう」で、遠藤ケイの『雑想小舎便り』(中公文庫)を発見(300円)。房総半島で自給自足の暮らしをはじめた頃の画文集。欲しかったのだ。
落ち着き出した書店を回る。
東京堂書店ふくろう店は、3月から書肆アクセス→東京堂書店3階で地方出版物やリトルプレスを温かい目線で販売してきた畠中さんが担当となる。
「まだぜんぜんダメダメだし、そもそもわたしがダメダメで、こんな広いお店をやったことがなかったから、雑誌もコミックもはじめてなんです。だから雑誌の付録付けもはじめてで、同僚に迷惑ばっかりかけちゃって」
そういいながらも豆本の素晴らしいフェアが行われていたり、交流の深い石田千さんの選書した棚もある。あっ! とびっくりしたのは、現在日本最高のフリーペーパーと名高い北九州市発行の「雲のうえ」があることだ。「毎号、配布させていただいているんですよ」とのことで、当然1部いただいて帰る。
畠中さんはおそらく、じわじわとお店を発展させていくだろう。楽しみだ。
3時になったので、新橋にある「WEB本の雑誌」のシステム会社を訪問。
4月に大々的なリニューアルが行われるそうで、その打ち合わせ。WEB関係は、刻々と状況が変化して行くので大変だ。
私は、やっぱり本がいい。