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8月13日(木)

本の雑誌 315号
『本の雑誌 315号』
本の雑誌編集部
本の雑誌社
761円(税込)
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 書き忘れていたが、大雨のなか搬入となった『本の雑誌』2009年9月号も無事発売となりました。「読んでいない本」の特集をするのは本の雑誌ぐらいだろうが、企画を思いついた瞬間にもう笑っていたのは、脳内が「本の雑誌」に汚染されている本の雑誌編集部である。

 お盆なのでお先祖様の力を借りて営業へ。

 北与野の書楽を訪問したら担当のSさんから「エッセイの棚をどうしようかと思っているんですよ」と相談されたのには驚いた。なぜなら前日、松戸の良文堂書店のTさんからもまったく同じ相談を受けたからだ。

 両者ともに「なんか各売場がいらないと言った本が集まる場所になっちゃっているんです」と仰るとおり、書店のエッセイ棚は、もはや何だかわからない棚になっているのが現状だ。ただしかし、それは本屋さんの問題というよりは、エッセイというものの問題というか、エッセイってなんぞや?!という根源的な問題に近いのではなかろうか。

 ちなみにエッセイというのを『大辞泉』で調べてみたら「自由な形式で意見・感想などを述べた散文。随筆。随想。」とあり、ならばということで随筆を調べてみると「自己の見聞・体験・感想などを、筆に任せて自由な形式で書いた文章」とある。これをみるとグチャグチャの本がささっていて当然のような気がするが、おそらく書店員さんはじめ、私にも自由でありながら何かエッセイというジャンルへのこだわりがあるのだと思う。

 どなたかに書店の棚進化論というのを書いていただきたいのだが、元々は「日本文学」「海外文学」「随筆」「詩歌」あたりが書店のジャンルとしてあったのだろうか? そこに「ミステリー」や「SF」ができ、いつの間にか「随筆」は「エッセイ」に代わり、気付いたら「サブカルチャー」「タレント」の棚が生まれ、文学が衰退するとともに「エンターテインメント」なんて棚が付け加えられたのか。最近は「コミックエッセイ」なんて棚が幅を利かせているが、そのなかで「エッセイ」はいま絶滅危惧種のジャンルになりかけているのである。

 そうはいっても週刊誌を見れば、相変わらずエッセイの連載は多い。
 たとえば「週刊文春」には、

・夜ふけのなわとび 林真理子
・風まかせ赤マント 椎名誠
・本音を申せば 小林信彦
・ドコバラ! 竹内久美子
・さすらいの女王 中村うさぎ 
・ツチヤの口車 土屋賢二
・いまなんつった? 宮藤官九郎
・そのノブは心の扉 劇団ひとり
・パラレルターンパラドクス 福岡伸一
・仏頂面日記 宮崎哲弥
・先ちゃんの浮いたり沈んだり 先崎学
・考えるヒット 近田春夫
・ホリイのずんずん調査 堀井憲一郎
・生きるコント 大宮エリー

 といったエッセイやコラムがある。「週刊新潮」「週刊朝日」「週刊ポスト」にだって、同じようにたくさんのエッセイやコラムがあるというのに、なぜこれが本屋さんでは絶滅危惧種になってしまうのだろうか。

 SさんやTさんと話していたのは小説家のエッセイは小説家の棚に入れたほうが読者に便利であろうし、その他のものも書き手が芸能人ならタレントの棚にとそれぞれの肩書きによって、棚へ入れてしまうから、結局それらどこにも入らなかったものが「エッセイ」の棚に並べられているのではないかということであった。ジャンルを細分化していった結果の、ブラックホール化なのかもしれない。

 私は日曜日の夕方、ランニング終え、子どもらと風呂に入った後、ひとり寝転がり、夕食までしばし時間のある間には、必ずエッセイを読む。たいていは山口瞳の著作なのであるが、缶チューハイ片手に読むそのひとときは至福の時間であり、おそらくそう言ったちょっとした時間に読むには、小説よりもエッセイが向いているのだ。

 いまこれを書きながら気付いてしまったのであるが、エッセイの棚のブラックホール化とともに、エッセイ自体が売れなくなっているというもうひとつの現象があるが、それはもしかしたら<短時間に読む>ものが、本からケータイに変わっているからかもしれない。

 話はどんどんそれて行ってしまったのだが、では書店の棚の「エッセイ」はどうしたらいいのだろうか。随分前に紀伊國屋書店新宿本店のKさんと話していたときは、いくつかのジャンルにさらに細分化した記憶がある。食とか旅とかだ。あるいはもうその逆に、どうせ検索機を叩いて本を探されるのであろうなら、<日本人が書いたもの>ぐらい大まかなジャンルにして、著者名五十音順に並べるのも手かもしれない。

 エッセイ問題に関しては研究材料にするため各店の棚を見て回ることにしたが、Sさんには「エンタメ・ノンフ」の棚を作りましょうと提案してみた。果たしてどうなるか。

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