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4月20日(火)

天地明察
『天地明察』
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
1,944円(税込)
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 七年前、いや準備はその一年以上前からしていたのだから、八年前に「本屋大賞」を作ろうと走りまわっていたときの私の心情はこんな感じであった。

「編集者よ、売り場はこんな真剣に本と格闘しているぜ!」

 当時はまだ本を作る人、すなわち作家や編集者が「川上」と呼ばれ、営業や書店等販売の現場を「川下」と例えられるほど、編集者は偉かったのである。私は元々本屋さんでアルバイトしていたし、出版業界に入ってからもずーっと営業をしているので、売ることを見下した態度でいることが許せなかった。いや編集も営業も販売ももっと手を結んで、本を作り、売ればいいのに......と歯がゆい気持ちでいたのだ。

 そして酒飲み話で始まった「本屋大賞」は、私の個人的な気分としては、編集者に対しての挑戦状でもあったのだ。

 それから八年が過ぎ、現在どうなっているのか。
 もはや自分が「川上」なんて考えている編集者はどこにもいないだろう。販売データが見え、自分が作った本が今どれだけ売れ、返品になっているか、そういうリアルな情報を目の当たりにして、逆に編集者が数字ばかり気にするようになってしまった印象すら受ける。
 
 だから私は今、声を大にして言いたい。
「編集者よ、自信を持って本を作ってくれ!」

 モノとしての「本」は誰にでも作れるかもしれないが、本当の「本」を作ることができるの人は限られた人しかいないのだ。その一人である編集者は、データなんて気にせず、自分の感性に耳を済ませ、とことん前のめりになって本を作って欲しい。

 安心して欲しい。

 そういう本気で作られた本をしっかり見ていてくれてる人達がいる。
 それは毎日届く新刊のダンボールをドキドキしながら開けている書店員さんたちだ。彼ら彼女らはみんな仲間だ。だから裏切ることなく本を作ればきちんと評価し、お店に並べてくれる。もちろん私たち営業マンも仲間だ。私たちが売りたいのは本ではなく、編集者や著者の想いだ。

 今回本屋大賞を受賞した『天地明察』冲方丁(角川書店)は、まさにそういう物語だ。
 本当の暦を作るため、とことん己の道を突き進んだ春海の志に、多くの人が共鳴し、そして道が開けるのだ。

 編集者の皆さん! 面白い本、いっぱい作ってください!
 それこそが、出版不況を脱出する、唯一の方法なのだから。

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