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3月2日(水)

 朝、私の定位置はストーブの前だ。

 できることなら暖炉や囲炉裏のある家に住みたかったが、現実はそういう訳にはいかず、モチの焼き跡が黒ぐろと残る石油ストーブの前で、私は新聞を広げ、バナナを食べている。

 この冬、6歳になった息子が起きだしてくると、「合体!」と叫んで、私の膝の上に飛び乗ってくる。もうすでに十分大きくなっている息子の全体重を預けられ、あやうくストーブにひっくり返りそうになるが、私はそれを抱きとめ、そっと匂いをかぐ。

 息子の坊主頭はいつも日なたの匂いがする。

「今日、何時に帰ってくる?」

 時間というものをよく分かっていないくせにそう聞いてくる。

「早く帰ってきてよ」

 妻ですらここ何年も言っていない言葉を口にする。

「なんでだよ?」
「タタカイするんだよ、タタカイ。ぼく、もうパパより強いんだから」

 つい最近まで、電車や車といった乗り物が好きだったのに、ここ最近は仮面ライダーやゴーカイジャーのようなヒーロー物に夢中なのだった。ひとりでいるときも、どこかに敵が見えるらしく、「うりゃ」「いくぞ!」と手足を振り回しているらしい。一週間ほど前の夜、妻は「男の子ってああいうものなの?」と心配していたのだった。

 私は今、いろんなことが一斉に動き出し、疲労やらストレスやらプレッシャーやらで、サッカーでいうところの、2対2の同点の末、延長線に突入したかのような生活が続いている。

 息子と戦うために早く帰りたいのは山々だが、それも許されず、そしてゴールを決め、勝利することすら諦めてしまいそうなほど、疲れ果てている。そんなときサッカー選手が、サポーターの歌声によって気持ちを奮い立たせるように、私は朝の、このほんのひとときに息子や娘と触れ合うことで、新聞を睨みながらも前日やその日のことを考え、がんじがらめになっていた緊張を解いているのであった。

「昨日も遅かったじゃん」

 遅れて起きてきた娘が私の新聞を奪いとり、ドラえもんのコーナーを読み出す。その背中は、私にビッタリ張り付いている。ストーブよりもずっと暖かい背中だ。

 私の父親や母親も、私や兄貴がいることによって救われた時期があるだろうか。
 娘の頭を眺めながら、そんなことを考えていた。

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