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11月18日(水)

 午前中、企画会議。徒労。

 午後、明日、オープンする渋谷のHMV BOOKS TOKYOの内覧会へ。
 これはちょっと仕事で行くところでなく、休日にゆっくり見て廻るべきお店。新規店でこんなにワクワクするのは久しぶり。たくさん本があるだけでは満足されなくなった大型書店の新しいかたちになるだろう。

 夜、居酒屋。テーブルには空になった生ビールのジョッキとお銚子がいくつも並んでいる。煤けた天井を見上げると蛍光灯が滲んで見える。でも下を向くことはできない。下を向いたら涙がこぼれ落ちてしまうからだ。

 MさんとKさんが口角泡を飛ばし議論している。議論の内容は文庫の棚の作り方だった。それぞれの考え方とまた別の考え方を今にも掴みかからん勢いで話し合っている。

 その光景は26年前とまったく同じだった。MさんとKさんは、私が大学進学をやめ、カヌーを買うためにアルバイトを始めた八重洲ブックセンターの社員だった。ある晩飲みに連れていかれた先の居酒屋で、あの日もこんな風にして一冊の本をどこに置くか激しく語り合っていた。喧嘩になるのではなかろうかとビクビクしながら二人の様子を見つめつつ、私はもしかしたらカヌーで旅しなくても、ここに学ぶことがあるんじゃないかと考えていた。

 あれから26年。Mさんは来年定年に、Kさんは今、別の本屋さんの店長をしている。それでも二人は会えば、あのときとまったく変わらぬ熱量で、本をどう並べれば読者に届くのか考え続けている。

 うれしかった。ものすごくうれしかった。目指すべき道が目の前にある。これまでも、これからも、私はMさんとKさんの背中を追っていけばいいのだ。

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