『世界珍本読本』

文=仲野 徹

世界珍本読本―キテレツ洋書ブックガイド
『世界珍本読本―キテレツ洋書ブックガイド』
どどいつ文庫
社会評論社
1,512円(税込)
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めったにないだろうが、ある本に出会ったがために、それまでの人生がガラガラと音をたてて崩れてしまうようなことがあるはずだ。時と場合と人によって、そのような本はさまざまであり、マルクスの『資本論』であるかもしれないし、デヴィ夫人や野村沙知代の写真集であるかもしれない。『世界珍本読本』、不用意に読んでしまうと、あまりの内容に、いままでの読書人生がいかに限定的なものであったのかという後悔の念にさいなまれ、本読み人生がガラガラと崩れかねない本である。

HONZのメンバーであるハマザキカクから、自らが編集した『世界珍本読本』の案内があったのはずいぶん前のことだ。その瞬間、「あかん、やめとこ」と思うた。こういう本能にはしたがったほうがいい。が、あの、行ったらかならず万札をさしだしてしまうという京都は一乗寺の恵文社で、この本に遭遇してしまったのである。手に取ったが最後、悪い予感通り、手からはなせなくなってしまった。

「どどいつ文庫」とかいうカルト書店が選んだ、わっけのわからない200冊が、1ページずつ、写真つきで紹介されている。しかし、なんやねん、そのカルト書店いうのは... (でも、勇気のある人はどどいつ文庫のHPを見てみましょう。) まぁよろし、と、大阪へ帰る電車でパラパラとめくりだした。まずトップは『放置自転車写真集』。そういうのもありか、と思いながらすすんでいくと、『アメリカのゴキブリ』とか『毛虫野外観察写真図鑑』とか。ここらは気色悪いとはいうても、理解の範疇内。この本、カラー写真でないのが幸いである。

はぁっ? 『口の中のピンホールカメラから見た社会』? どういうつもりで、わざわざ口の中にカメラ入れて写真とるのや... おもわず、映画『マルコヴィッチの穴』を思い出してしもた。ここらへんまで来ると、『野外トイレ写真紀行』とか『海外トイレ紀行』くらいでは、かわいいもんやなっちゅう感じに。目の不自由な学生が撮影した『盲学校生徒写真集』とか、『ソ連共産党幹部たちが議事中の退屈しのぎに描いた似顔絵落書き集』とか、けっこうまともで読みたくなる本もあったりして、ちょいと油断した私がばかでした。 

この本は11のカテゴリーに分類されております。知らぬうち、いつしか私は深奥部「エロ」の項目に突入していたのでございます。『超重量級女性ヌード写真集』とか『世界のお色気トランプ写真集』などという、イマジネーション可能なものもございますが、HONZのお上品さを汚すといけませぬゆえ、ここに書けないようなタイトルの本が続々と... 私儀、あのエロおやじとさげすむような目でにらまれてはいないかと、車内で思わず周囲を見回してしまったのでございます。

はぁ、はぁ、息をあらげながらも(ウソですよ、念のため)、ようやく最後のカテゴリー「ガイドブック」へ。さすがに、どどいつ文庫 & ハマザキカクとはいえ、着地点を探したのか、『ミニ独立国観光ガイド』とか『手づくり棺桶マニュアル』とか、実用性に富んでいるような気がしないでもない本が紹介されていて、あぁ大阪に着く直前に、心静かに終わりまできた、まけといたろかと思った私がばかでした。200冊目の本が『ハゲ大全』って、おっちゃん怒るよ、ほんまに。

いやはや、どうやってこんなに集めることができたのか、ほんとにすごい本である。たぶんそんなことはないではあろうけど、もし同類の本が編纂されるか、この本の原著が改訂されることがあるならば、『世界珍本読本』が『ハゲ大全』にかわって掉尾を飾るに違いない。HONZでもいろいろなジャンルが取り上げられているが、この本に比べると領域はきわめて狭い。いや、広いとか狭いとかいう問題ではなくて、次元が違う。

HONZファンのみなさま、これくらいの予備知識を身につけて心の準備をしておかれますれば、この本をお読みいただいても、読書人生がガラガラと音をたてて崩れることはございません。ぜひ手にお取りいただいてページを繰り、カラカラと乾いた笑い声をあげていただけましたら幸甚に存じます。ただし、世間の目を少しでも気になさる方は、自宅限定にされた方がよろしいかと。

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