第123回:はらだみずきさん

作家の読書道 第123回:はらだみずきさん

少年の成長や周囲の大人たちの人生模様を丁寧に描いた「サッカーボーイズ」シリーズなどが人気のはらだみずきさん。さまざまな人の心の内の迷いやわだかまりを優しく溶かしていくような新作『ホームグラウンド』も、評判となっています。そんな著者は、どのような読書遍歴を辿ってきたのでしょうか。幼い頃の衝撃的な出来事や就職後の紆余曲折など意外な話も盛りだくさんです。

その5「新作『ホームグラウンド』のことなど」 (5/5)

サッカーボーイズ  再会のグラウンド (角川文庫)
『サッカーボーイズ 再会のグラウンド (角川文庫)』
はらだ みずき
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サッカーボーイズ 13歳  雨上がりのグラウンド (角川文庫)
『サッカーボーイズ 13歳 雨上がりのグラウンド (角川文庫)』
はらだ みずき
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サッカーボーイズ 14歳  蝉時雨のグラウンド (角川文庫)
『サッカーボーイズ 14歳 蝉時雨のグラウンド (角川文庫)』
はらだ みずき
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サッカーボーイズ 15歳  約束のグラウンド
『サッカーボーイズ 15歳 約束のグラウンド』
はらだ みずき
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スパイクを買いに
『スパイクを買いに』
はらだ みずき
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日の名残り (ハヤカワepi文庫)
『日の名残り (ハヤカワepi文庫)』
カズオ イシグロ
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ホームグラウンド
『ホームグラウンド』
はらだ みずき
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――『サッカーボーイズ』はシリーズ化していますが、最初から続編を考えていたのですか。

はらだ:できることなら長く書きたいとは思っていました。結局、そうなったわけですけど。小学生年代を描いた『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』から始まり、『サッカーボーイズ 13歳 雨上がりのグラウンド』『サッカーボーイズ 14歳 蝉時雨のグラウンド』『サッカーボーイズ 15歳 約束のグラウンド』と4冊書きました。そして次に出る5冊目で、中学年代が完結となる予定です。小中学生向きの漢字に総ルビをふった版も、現在『サッカーボーイズ 13歳 雨上がりのグラウンド』まで角川つばさ文庫から出ています。また、スピンオフ小説でもある『スパイクを買いに』は、初めて『野性時代』で連載をして書き上げたので、思い出深い作品ですね。会社を辞めて、すぐに声をかけていただいて、短編ならなんとかなるだろうと思って書いたんですが、「この話には続きがありますよね」と編集者の方が言ってくださって、それで続きを連載で書くことになって1冊の本になりました。

――お子さんがサッカーをはじめてからは、少年サッカーチームのコーチも務めていらしたとか。そうした体験が『サッカーボーイズ』のシリーズに反映されているように思います。

はらだ:そうですね。コーチになってからは、指導についてかなり勉強もしましたし、審判の資格も取りました。プレイヤーでありコーチであり審判であり、子供の保護者でありと、いろんな目線を持ったわけですね。

――実際のサッカー生活のほうはいかがでしょう。

はらだ:大学時代はやっていなかったわけですが、就職後、Jリーグの開幕のときに出版社の営業マン仲間でサッカーチームを作ろうという話になったんです。それでチーム名を決めることになって、僕が三省堂の辞書売り場の和伊辞典で調べて「カルチョバンビーノ」とつけました。"サッカー小僧"という意味、つまりは"サッカーボーイズ"ということですね。それは長くやっていて、去年も集まりがありました。今は地元のサッカーチームでプレーしています。

――読書生活は変化がありましたか。

はらだ:変化しましたね。昔は気に入った作品を繰り返し読んでいたけれど、デビューした当初は"今"どういう書き手がいて、どういうものが読まれているのかを知りたくていろいろ読みました。ただ、しばらくするとそういう読み方はしなくていいと思うようになって。本ってきっと、読むタイミングというものがあるんですね。それを逃したり、無理に読んでもしっくりこない。でも一度すでに出合ったものであったら、繰り返して読んでも、またうまく付き合える気がします。それで、今はわりと海外のものや古い小説を読み返しています。少し前になりますけど、よかったなと思ったのはカズオイシグロの『日の名残り』。

――英国のある執事が過去を振り返って......という話。今のタイミングでなぜ『日の名残り』だったのでしょう。

はらだ:年齢ですかね(笑)。わりと長い小説ですが、そのなかで気持ちよく一緒に彼の記憶、つまり人生を辿っていける。ラストシーンで、ああ、作者はこの情景を書きたかったんだって思って。最初は全然タイトルの意味がぴんとこなかったんですが、最後まで読むとこの題名がすごく浮かび上がってきます。おそらくまた読むことになるでしょう。

――読書時間など、毎日のタイムスケジュールは決まっていますか。

はらだ:朝9時くらいから、昼食をはさんで3時くらいまでと、夜の9時から11時くらいまで机に向かっています。読書はそれ以外の時間で。寝る前と、仕事と仕事の合間に読んでいるんですが、今はなかなかたっぷり時間をとっているわけではなくて。

――ところで、サッカーの試合中継があるとつい観てしまいませんか(笑)。

はらだ:それが問題なんです。今はJリーグやら各国のリーグやらいろいろあるでしょう。一試合90分もあるし。どれかに絞らないといけないんです。日本代表は欠かさず観ていますが、これまた代表の試合もいろいろありますから、忙しいんです(笑)。

――新刊『ホームグラウンド』はタイトルからサッカー小説を想像していたのですが、競技そのものを書いているわけではないんですね。公園でもサッカーが禁止されて子供がボールを蹴る場所がないというエピソードに始まり、とある広い敷地に住む年配の男性とその家族をめぐる話になっていく。

はらだ:最初は短編の連載を依頼されたんです。連載3回分で完結するような話を書いていくつもりでした。でも1本書いたところで、つまり第一章を書いたところで、もっと大きなストーリーができあがってしまったんです。最後のシーンが浮かんだんですよね。それで「長編にしたいんですが」とお願いすると「いいですよ」と快く了承していただきました。僕のなかに夢のようなものがあって、それをこの小説のなかで実現させたようなところがあります。小説家になってよかったなと思うのは、そういう風に小説の中で夢を叶えることができるところですかね。

――父親と娘、祖父と孫、若い男女......いろんなすれ違いが生じて、その人間模様も丁寧に描かれていますね。

はらだ:人には思いがけない秘密があったりしますよね。例えば親の兄弟にじつは失踪した人間がいたことを大人になってから知るとか。そういう身近にあるかもしれない秘密に興味を持った、というのがひとつありました。もうひとつは、親と子の和解みたいなものを書きたいと思って。どのような和解の仕方があるのか。そんなに美しく和解ができないにしても、それによって物事が動き出して、まわりの人の人生が変わったり、いろんな人が幸せに巡りあったりしていく、そんなストーリーが書けたらいいな、と。実際は、最後の風景だけは見えていたんですけど、その間のことは書きながら動いていきました。

――はらださんは今後、スポーツ小説以外のものも、もっと書いていくのだろうな、と予感させる作品でした。

はらだ:スポーツ小説でないものも書いていきたい気持ちは強く持っています。実際、祥伝社で連載していたのは恋愛小説と言えるだろうし、実業之日本社ではスポーツを離れた連作短編を書きました。それらの刊行は少し先で、いちばん近い刊行予定では5月に角川書店から『サッカーの神様をさがして(仮)』が出ます。野生時代に書いていた作品の改題で、僕はこのタイトルでいきたいと思っています。『小説新潮』(新潮社)で新しい連載がはじまるんですが、これは家族小説になるはずです。『STORYBOX』(小学館)でも連載が始まる予定です。

(了)