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中川 大一の<<書評>>


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「きのうの空」
評価:B
ちょっと昔、少し田舎。そんな舞台を設定することで、毒々しさは消え、シビアなもめごともセピア色に塗り込められる。たぶんそれは、過去や地方についてのノスタルジーに過ぎないのだろう。その時代その場所で、人はそれぞれ、今ここと同じように苦しんできたはずなのだ。それをオブラートにくるんで美化するなんて、甘いセンチメンタリズム、くさい田舎芝居。でも、いいじゃないかいいじゃないか。人には、甘くて辛い子ども時代にトリップして今を生きる糧をもらってくるってことが、間違いなくある。そのとき、振り返られた過去が本当かどうかなんて、大した問題じゃないのさ。
【新潮社】
志水辰夫
本体 1,700円
2001/4
ISBN-4103986034
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「錦絵双花伝」
評価:C
いかにも時代小説らしいシックな装幀。オビの宣伝文句は、「腹抱え、涙腺ゆるむ」「ちょっぴりおかしくて、せつない」大型時代小説。なるほどなるほど。そういうつもりで調子よく読んでいたら、物語なかば、突如としてオカルト怪奇SFエログロナンセンスはらほろひれはれ路線にどどどどどっと突入。あー、びっくりした。目が白黒する。著者にははち切れんばかりの才能があるんだろう。いろんな仕掛けをぶち込みすぎて、話しがとっ散らかっちゃった感あり。幕の内弁当に、エビフライを入れるのは普通。コロッケやハンバーグが入ってても、まだ許せる。しかし、ピザやヤキメシを詰め込んじゃいけません。料理自体は上手なんだから、次は、主食と副食の組み合わせやバランスをよーく吟味しましょう。
【新潮社】
米村圭伍
本体 1,700円
2001/4
ISBN-4104304034
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「ホテルカクタス」
評価:C
えっ、これが油絵? 写真みたいにリアルで、時々シュール。こりゃあ見応えあるぜ。そんな絵がカラーで三十数枚挿入されている。全部で150ページほどの本だから、どっちが挿画でどっちが挿文だか分からないくらい。画文集といってもいいだろう。贅沢でおしゃれな作りではあるが、絵と文が相乗効果をあげているかというと、うーむ。話しの主人公はきゅうりと帽子と数字の2の三者。ええと。きゅうりが風呂に入ったり帰省したりするか? 帽子がタバコ吸ったりバスに乗ったりすんのんか? 数字の2に家族がおるんかい……すいません。ミもフタもないとはこのことですな。私にはこういうファンタジーというのか、大人の童話を楽しむ才能が欠けておるようで。それでもまあ、軽いノリで楽しみましたけど。
【ビリケン出版】
江國香織
本体 1,500円
2001/4
ISBN-493902914X
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「血脈」
評価:B
(それにしても、あれだな。大長編ってのは、読んでつまらなかったら大ショックだからな。どうも評価が甘くなる傾向があるな。ついに、ついに読んだぞおおおって、コーフンした状態でコメント書くしな。)くだらない独り言はさておき、「何という哀しい、切ない、そして笑えてくるこの人間関係!」を描いた大河私小説。ほー、佐藤紅緑って、真面目な話し書いてるわりにすげえ女好きだったんだ。ふーん、サトウハチローはシャブ中だったのか。品性が下劣なもんで、私はこの本をスキャンダラスな実録として、眉をひそめつつも口元をゆるめて読んだ。だが、本書が凡百の暴露本と一線を画すのは下巻。上中巻で父や義兄に射た矢が著者自身に降りかかってくる。そう、愛子もまごうことなくこの強烈な血脈に連なる者だったのだ。著者はそのことを、書いている内容と、書くという行為自体によって、これでもかこれでもかとぶちまけ続ける。恐るべし、老いて燃えさかる作家の執念。
【文藝春秋】
佐藤愛子
本体 各2,000円
2001/1-3
ISBN-4163197907
ISBN-4163198601
ISBN-4163199004
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「世界の中心で、愛をさけぶ」
評価:C
その夏はじめて使われるプールに身を入れたような、透明感ある文体。短い話だから、サクサクっと読める。それでだいぶん取り戻してる感じはするけれど、ストーリー自体はかなり陳腐。この病気で恋人を失う話しって、マンガでも芝居でも、もうイヤよイヤッ、ちゅうくらい繰り返されてるでしょう。ユーミンの歌にもある、ほれほれあの病気。「今日びこんな純真な若者がおるもんかい!」というような、爺くさい文句は言うまい。現代風と称して、ドラッグや売春の話題ばっかし撒き散らす「衝撃の問題作」よりよっぽど好感もてる。だけんども、しかし((c)かなざわいっせい)。これだけ若いカップルが、何の疑問も抱かずに将来に「結婚」を見据えてるってのは、何だかげんなりするなあ。
【小学館】
片山恭一
本体 1,400円
2001/3
ISBN-4093860726
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「オンナ泣き」
評価:C
初っ端から連発される卑語の数々。オチンチン・オマンコ・アナル……。うーぬ、最後までついていけるかな。だがほどなく、言葉づかいは強烈でも中味は至極真っ当であることが判明する。痴漢は卑劣、強姦は許せん! 周知のように、フェミニズムには様々な党派がある。近代をどう評価するのか。男との共闘は可能か。いくつもの論点をめぐって死闘が繰り広げられ、それが一般人を遠ざけている。著者は、そんな学問上のセクショナリズムに絡め取られるのを注意深く避け、日常感覚からの出発を心がけているようだ。よって男にもとっつきやすい内容になっているが、一面でツッコミが弱いようにも感じられる。本書は、その出だしとは裏腹に、まじめなフェミニストによるまじめなマニフェストの書なのであった。
【晶文社】
北原みのり
本体 1,600円
2001/4
ISBN-4794964838
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