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石井 千湖の<<書評>>
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エイジ
エイジ
【朝日文庫】
重松清
本体 660円
2001/8
ISBN-4022642742
評価:A
もしエイジたちに何か伝えられるとしたら、私は「大人って結構いいよ。楽しいよ」と言ってあげたい。家族が嫌いなわけじゃない。友達もいるし、恋もしている。それでも、もやもやしてしまう。どこにでもいそうな、でもひとりしかいないエイジという男の子。ふつう大人が子供の視点で書くと妙に子供っぽすぎたり逆に大人の考えがそのまま反映された説教臭いキャラになってしまいがちだけど、中学生のときの自分が読んだとしてもしっくりくると思う。友達のツカちゃんやタモツくんもすごくいい。エイジはエイジでツカちゃんでもタモツくんでも通り魔事件を起こしたクラスメイトでもない。当たり前のことなのになぜ忘れられてしまうんだろう。でも今が辛くても大人になれば自力で変えられることも増えるから。「負けてらんねーよ」という言葉と最後の一文の美しさ。必読。

密告
密告
【講談社文庫 】
真保裕一
本体 819円
2001/7
ISBN-4062731991
評価:C
射撃に関する蘊蓄や警察の内部の描写はさすがにリアルで読み応えがあった。ただ、主人公の萱野がなぜ美菜子を好きになるのかさっぱりわからん。どう読んでも美菜子はちっとも魅力的な女には思えない。容姿とかぜんぜんイメージできないし、「運命の女」のわりには存在感がない。自分のことを好きな男に夫の尾行させるのは悪趣味だ。萱野のことを慕う幸恵にもとうてい好感がもてない。誰かを好きになるのは自分のエゴを他人におしつけることになるのは重々承知の上。それでも幸恵のような女が「一途」で「健気」な女として描かれるのはイヤだ。ラストシーンもくさい。恋愛抜きだったら面白かったのに。読むのを楽しみにしていただけに残念。

華胥の幽夢
華胥の幽夢(ゆめ)十二国記
【講談社文庫】
小野不由美
本体 648円
2001/7
ISBN-4062732041
評価:B
大評判の『十二国記』に初挑戦。しかも番外編からというハンデはあったものの楽しめた。別世界を創造するのは難しいのだろうけど、かなり詳細にわたってきっちり考えられている感じがする。本編を読んでないのでいまひとつピンとこない部分もあったけど。特に本編の主役らしき陽子と楽俊と泰麒の背景がわからん。全体的にはあまりにもきれいすぎるなあという気がしないでもない。表題作の『華胥』が一番よかった。過酷な圧政をしいていた前王を倒した英雄が、なぜ国を治めることができなかったのか。理想とは何か、革命とは何か、考えさせられる秀作。深い。しかも推理小説風の謎解きもある。シリーズを最初から読みたくなってしまった。

斎藤家の核弾頭
斎藤家の核弾頭
【新潮文庫】
篠田節子
本体 705円
2001/6
ISBN-4101484120
評価:A
私の育った家は子供こそふたりだが四世代同居の斎藤家のような大家族だった。しかも未だに男尊女卑の色濃いド田舎である。もう読み始めは夫の総一郎や舅の潤一郎の「女はこうあるべき」とか「家族はこうあるべき」という言い草にむかむかむかむか怒りのメートルをあげていた。キワモノだけどありえるかもしれないリアルな未来。うんざりするくらい家族、家族と繰り返す総一郎の滑稽さを笑いながら背筋が寒くなる。国vs家族vs個人という三つ巴の戦いをいろんな要素をつめこみながらものすごく面白く読ませる篠田節子の豪腕に脱帽した。単純に男女を対立させるような物語ではなく、スケールのでかさに気持ちよく驚かされる。フェミニズムが嫌いなひとも読んで欲しい。

池袋ウエストゲートパーク
池袋ウエストゲートパーク
【文春文庫】
石田衣良
本体 514円
2001/7
ISBN-4167174030
評価:B
帰りの電車で読んでいたら最寄り駅で降りそこなった。連作なのに読むのが止められないくらい面白い。まず90年代末の東京の風俗がぎゅっとつまっている。そして、非常にまっとうなミステリーである。とどめに主人公のマコトがかっこいい。実は細部を取り除いて骨格だけ見れば昔からある泥臭い青春小説だけれど、あまり感じさせないところがうまい。賢く優しい不良少年というのはいつの時代もヒーローなわけで。個人的なお気に入りは、オタク少年と引きこもり少年が大活躍の『サンシャイン通り内戦』。赤い服と青い服のチームの抗争、なんてヤンキーセンスあふれるところもたまらない。展開には多少都合良すぎる点があって気にならなくもないけど楽しかった。

1974ジョーカー
1974 ジョーカー
【ハヤカワ文庫HM】
ディヴィッド・ピース
本体 900円
2001/7
ISBN-4151726519
評価:C
映画なら『トレイン・スポッティング』、音楽ならレディオヘッドが好きな私。陰鬱な英国(偏見です、ごめんなさい)を愛好するものとしては期待度大だったのだ。ロックの匂いはするんだけどなあ。おかしい。こういうの好きなはずなのに、変だ、と思いつつなかなかページが進まない。どうも文体が私の体質には合わないらしいのだ。うねりがなくてブツッ、ブツッと切れる感じで読みづらい。無理矢理流れをつくるためにヘッドフォンで音楽を聴きながら読んでなんとか最後までたどり着けた。普段は本を読むときは邪魔になるので無音にしておくのだけれど。この文体が合えば、ひとつひとつのシーンは印象的であまりにも暗い結末が逆に快感になるかも。

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