評価:C 目隠しをしたままで細い橋を渡っているような、不確かな14歳の日々が描かれている。確かに、こういう描き方もあるのだろうけれど、だけど、なにか中心がピンとこない。有名な特産物を町のデパートで見つけて、おおおっと思って買って食べてみると、うん、たしかに有名な特産物だけあっておいしいのだけど、実際にその地方に行って食べればもっとおいしいのだろなぁと思ってしまうのと似ている。奇麗すぎる、という印象も否めない。もっとアクのある、彼らの体温を感じさせるような、そんな親近感が欲しかった。物足りない、と思ってしまうのは作者に期待しすぎているのだろうか?
評価:B これは、真保裕一にしか書けなかっただろうと思うような作品。身に覚えの無い密告の疑いをかけられた主人公が、もがき苦しんでいくうちに、その裏に潜む暗闇を引きずり出して行くというストーリー。だけど普通ここまでがんばったりしないよなぁ、と読んだ後で冷静になって考えるとそう思うのだけど、そこはやっぱり真保裕一。違和感の無いリアリティと、幾重にも重ねられたプロットの渦に巻き込まれて、気が付くと600ページ弱を一気読み。ここまでシブい題材をネタに評価Bは、さすが。
評価:A この十二国記は、以前にも課題図書に選ばれていた。『黄昏の岸 暁の天』がそれだ。そのときも書いたのだけど、この作品はちゃんと順を追って読みたいために、今回も未読です。だけど、弱い僕はついつい最初の一編を読んでしまった。この作品は短編集なので、ひとつくらい読んでもバチは当たらないだろうと思ったのだけど、あああ、それはやっぱり甘かった。短編なのだけど、十二国の情景が総天然色で目の前に立ち上がってくる。いかん、明日も仕事なのだ。朝から会議なのだぁぁぁぁぁ。。。。とにかく、これはぜひ皆にも読んで欲しい。まだ読んでいない人は前情報無しのまま、まずは題一作目を読むべし。その壮大な想像力に圧倒されること間違い無し!
評価:B 昔読んだ小松左京や筒井康隆のSFを思い出し、気持ちがほのぼのとしてしまった。特A級のエリートを中心とした、曾祖母、祖父母、妻と子ども5人の10人の生活を通して描かれる未来の日本は、もちろんバラ色などではない。でも、そのリアルな描写といったら驚くほどだ。「国家主義カースト制度」。コンピュータに取って代わられた役所機構。10分も浸かっていたら全身の皮膚がおかされて死んでしまう東京湾。運動エネルギー増幅装置。ちらっと読んだだけで、もう、わくわくプルプルする。こういう夢のある小説が、昔はたくさんあったような気がするなぁ。もっと読みたいぞ!
評価:AA とにかくこれはすごい。「日本ミステリー連作の傑作」とあるが、まったくそのとうり。池袋を舞台に繰り広げられるストリートな世界と、一話づつ成長していく主人公の姿が重なり合って、久しぶりに目が離せない作品になっている。似た雰囲気のある海外作品も思い付くけれど、おんなじ言葉を話し、おんなじ空気を吸っている分、この作品の方が圧倒的に感情移入ができる。文章の構成も面白い。こういうのを断章構成と呼ぶらしい、というのは本書の解説を読んで初めて知ったのだけど、そんな名前なんてどうでもよい。とにかくスピーディ。ぱっぱと進んで行く場面は、とってもヴィジュアルだ。この作品を課題図書に選んでくれた人に、ただただ感謝あるのみ。
評価:D なんだろう、別にこれといって問題はないのだけど、だからどうだという部分もない。結構分量がある割りには、読み進むのに疲れないところを見ると、読みやすい文章だなとは思うし、話の展開も悪くない。ただ、話のテンポが、ずーっと一緒。もちろん、山もあれば谷もあるんだけどでも、読んだ後それを感じさせない。疲れない替りに、大きな喜びもあまりないという、言ってみれば、「近所のお散歩」系の作品と言える。みんなも「近所のお散歩」に行くと、道端の花とか、近所の店先とかを覗いて、それなりに楽しいと思うけど、でも、だからといって、「近所のお散歩」にワクワクしたりしないでしょう?まさにそんな感じの読後感だから、この作品のジャンルは、「近所のお散歩」系に決定。もしも「お散歩系選手権」があれば、かなり上位に食い込むこと間違い無し。