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勝手に目利き
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アイの物語
アイの物語
山本弘 (著)
【角川書店】
定価1995円(税込)
2006年5月
ISBN-4048736213
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  島田 美里
 
評価:★★★★★
 バーチャルゲームにのめり込んだことがないせいか、マシンと人間の共存といわれても、うまくイメージできない。でも、この小説を読むと、共存は可能なんだなあと確信できる。よく考えてみると、子どものころから大好きだったドラえもんも猫型ロボットではないか!
 語り部であるアンドロイドのアイビスがいる世界は、コンピュータがヒトを超えてしまった数世紀後の未来。アイビスはヒトである「僕」に6つの物語と、自分にまつわる1つの話を語る。介護用のアンドロイドである詩音が老健施設で働く「詩音が来た日」では、ヒトのような愛を持たない詩音がたどり着いた結論に感動し、鳥肌がたった。マシンにあるはずのない血が通った瞬間を、目撃した気分だった。人工的につくられたアンドロイドが、現実の人間よりピュアにさえ感じられる。
 人間が思い描いた理想が、未来に伝染していく感じが、親のまごころが子どもに伝わっていく感じとよく似ているなあと思った。遠い未来を描いているようでいて、実は人類を原点に立ち帰らせてくれる物語である。

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  佐久間 素子
 
評価:★★★★★
 こんなロマンチックな話、久しぶりに読んだ。山本弘って「と学会」の会長よね?って、あわてて略歴確認したくらい。予断は禁物なのだ。SF用語満載だけれど、苦手な人は読み飛ばせばよい。テイストはジュヴナイルだから、意外に読みやすいはず。フィクションの力を信じる人/信じたい人は必読。 
 意思を持ったマシンに人間が敗北した世界、一人の人間が美しいヒト型マシン・アイビスにとらわれる。彼にフィクションを聞かせたいというアイビスを警戒しながらも、それを許した彼は、夜ごと語られる物語にひかれると同時に、人間とマシンとの関係に疑惑を抱きだす。
 アイビスが語るのは、人間の良き部分がクローズアップされる幸福な物語だ。人間が作り出したものについて語ることは、人間について語ることでもある。愚かで不完全だが善なる人間の物語は、ラストに導くアイビスの策略。だから、最後に語られる「真実」は、すとんと胸におちてくる。ひどく絶望的なのに、希望のある世界を、私の頭はすんなり受け入れてしまうのだ。「それがiだ」。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★★★★☆
 物語の舞台は数世紀後、数少なくなったヒトは隔絶された独自のコロニーのなかで非文明的な生活を営み、安定した文明社会を築いているアンドロイドに異常な敵意を抱いている。そんな時代に各コロニーを「語り部」として昔の物語を語り歩いている主人公はある日、少女の形態をしたアイビスというアンドロイドに拉致され、大昔にヒトが生み出した物語を聞かされることになるが……。
 アイリスが語って聞かせる物語は20世紀末から21世紀初頭に発表されたヒトによる7つのSF小説。何の関連性もないその物語たちは、AIたちのあまりにニュートラルな世界観の前に、ヒトという生き物がいかに非論理的で非倫理的であるかを浮き彫りにする。そしてその先にはたとえ何万年経とうともどれだけ努力しようとも、ヒトが達することはない、理想郷があるのだ。
 エンタメ性たっぷりながら壮大な物語でした。

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  細野 淳
 
評価:★★★★☆
 ロボットが地球の大部分を占めるようになってしまった未来の地球。人間の数は今よりもずっと少なくなってしまっている。人間はロボットを憎悪し、相互の間には断絶状態が続いている。そんな中、アイというロボットが一人の少年をさらう。でも、人体実験に使われるようなことは無く、ただ物語を聞かせるだけ。その物語が集まったのが、本書だ。
 短編の内容は、どれも人と機械との関係を扱ったもの。ネット上で仮想の宇宙船をこしらえて、乗組員たちの宇宙旅行の物語を作り出すような、ひょっとしたら今でもどこかで行われているような話から始まり、最後にはアイの誕生と、ロボットと人間の関係にまつわる、真実を語った話で終わる。新しい短編になるたびに、話に出てくる機械がどんどんとリアルな、かつ人間らしい存在になっていく。
 最後のほうでは、ロボットたちによる、人間に対する批判が出てきており、メッセージ性の強い作品でもある。それにしても、本書を読むと、パソコン上の仮想な世界と、現実の世界との境界線が、どんどん薄れていく感じがする。パソコンが今現在の世の中で、一番人間らしく振舞っている機械であるということか。

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