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グリフターズ
ジム・トンプスン (著)
【扶桑社ミステリー】
税込700円
2006年7月
ISBN-4594051960
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
久々湊 恵美
評価:★★★★★
うーん。怖くて、さらに面白かったなあ。
ロイという詐欺師が主人公。彼の母親リリイと恋人モイラが、それぞれ千変万化する思いを抱えながら関係性をつむいでいく。
それは今にも崩壊しそうな危うい関係で、愛情と憎しみが表裏一体となって三人の周りを取り囲んで。
この三人の関係性がまさに詐欺そのもの。着かず離れずのじりじりとした欲と愛にからめとられた駆け引き。
時には失敗してドロドロと淀んだものになり、時には驚くほどバランスの取れたものとなる。
母親リリーがなんといってもすごい。弱者の顔をチラチラとみせつけて、自分の息子に対して狡猾な駆け引きをしちゃうんだから。
どこまでが愛でどこからが憎しみなのか。もうわけがわからなくなってしまう。
ラストは思わずうなってしまった。全てをつきぬけてしまったようなラスト。
何が一体どうなったんだ!と思わず最初から読み返してしまったのでした。
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松井 ゆかり
評価:★★★★☆
ずいぶん前のことになるが、映画化されたこの作品を観たことがある。当時かなり話題になったし、評価も高かったのだが、個人的にはあまりピンとこなかった。今回本書を読んでみて、まず配役がイメージと違う(ロイ役が善人っぽ過ぎ、リリイ役がロイと14歳しか離れていないようには見えない)という問題がかなり大きかったのだなと感じた。
登場人物たちは、はっきり言ってろくでもない連中ばかりである。真面目に働けばいいのに…という偽善者(私も含めて)たちをあざ笑うかのように、物語は皮肉な結末を迎える。うーん、後味は悪い。しかし、これを痛快ととる人もいるだろう。物語の中でだけなら、ワルの心情になりきるのも乙かもしれない。ジム・トンプソン人気むべなるかな?
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西谷 昌子
評価:★★★☆☆
小さい詐欺で小銭を稼いでいる主人公は、ある日ささいなミスから命に関わる怪我をしてしまう。そのせいで、遠ざけていた母親に看病されることになってしまう。
軽快に進む物語の中で、時折覗く根の深い愛憎。自分勝手な母親と恋人の間で、主人公はあくまで自分のペースを貫こうとする。
登場人物たちの気持ちがすれ違ったまま、物語は唐突に終わる。「犯罪小説」と帯にあるが、犯罪の様子はそれほど細かく描かれているわけではなく、むしろ詐欺師たちの生きる様子がメインであるように思う。痛みを抱えながらも、人と深く関わらず、軽く生きていく。だがその水面下では別の想いが交錯している。そのクールな雰囲気が味わえる小説だ。
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島村 真理
評価:★★★★☆
詐欺師たちの日常。それも、口先三寸だから繰り出す詐話のようにどこへ転ぶかわからない。
ロイと14歳しか離れていない母リリイ、ロイと年上の愛人モイラ。それぞれの関係は、彼らが行う詐欺行為のようで目が離せない。親しくても孤独。心を開き合えないというのは犯罪者の性なのか。リリイの不正がボスにばれた後、部屋で暴力をふるわれる。「あのぐらいで許してもらえた──ああ、何て運がいいんだろう。」というセリフから、ひとつ間違えば冷たい海の中。薄い氷一枚の世界に生きているようすがうかがえる。
犯罪小説、それも詐欺師物なら、相手を出し抜く爽快さを書いたものが多いと思う。でも、これはどこかで暗さが付きまとう。騙し騙された先にある結末も悲しいけれど、からからに乾いた愛情というのも悲しい。
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浅谷 佳秀
評価:★★☆☆☆
読みにくい文体だ。妙に上滑りするかと思うと、突然引っかかるような表現が多く辟易した。それどころか、ほとんど意味不明の箇所もちらほら。ゴワゴワ・ゾーンってのがダンスとどう関係あるんだろう。訳者は意味が分かったうえでお下品なのでぼかしているのか、分からなくてとりあえずそのまま直訳しているのか。
で、結構難渋しながら読んでみての感想であるが、私はこの作品とはあまり相性が合わないようだ。どの登場人物にも共感できなかったし、ストーリーも地味で面白いと思える要素がほとんどなかった。会話もジョークもピンと来ない(これは前述のように、訳のせいもあるかもしれない)。ラストも殺伐とし過ぎていて好きになれない。
あんまりないないづくしじゃ申し訳ないので、肯定的に評することができそうなところを強いて挙げるなら、主人公とその母親リリイの、愛憎を皮肉のオブラートで包んだ乾いた会話。何とも苦い味わいがあった。また、リリイがボスのボボ・ジャスタスにリンチされて痛めつけられたあとに、何事もなかったかのようにボボと会話を交わすシーン。これはなかなかクールだった。
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水野 裕明
評価:★★★☆☆
グリフターズ──詐欺師たちというタイトルから、様々なイカサマの手口の種明かしをして興味深く読ませた4月の課題図書“ファニーマネー”のように、詐話のテクニックを明かしながら詐欺事件に絡むミステリーを思い浮かべていたが、どちらかというと先月の課題図書“魂よ眠れ”に近い、社会の底辺で生きる小犯罪を繰り返す、いわゆるチンピラを描いたノワールノヴェルになっていた。各章各章それぞれ印象深いシーンがあって、ビジュアル的な構成になっているのだが、文体のためなのだろうか、例えば「ロイはモイラ・ラングトリに電話した。ここでも出端をくじかれた。ロイはびっくりさせられると同時に、苛立ってしまう。ロイにはモイラがちょっと腹を立てているだけなのではないか、という気がする。」というように、地の文なのかロイの一人称なのかが分かりにくく、会話以外全編がこういう感じで、どこか映画の梗概や脚本を読んでいるようでなかなか小説世界に浸り切れなかった。映画になったら面白いフィルム・ノワールになるだろうなとは感じたのだけれど……。
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