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黎明に叛くもの
黎明に叛くもの
宇月原清明 (著)
【中公文庫】
税込1000円
2006年7月
ISBN-4122047072
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★★
素晴らしい。かなりのボリュームがあるにも関わらず、その面白さに驚きながら読み通しました。
歴史上の人物達の相関図に少し手を加えるだけで、こんなにも新しい関係性と史実をはるかに超えた歴史小説を書いてしまうなんて。
本作品に登場する人物達がまた、それまで知っていた歴史上の人物達とは一味も二味も違っていて、それまであったイメージが覆されました。
もちろん実際の史実ではないので、鵜呑みにして信じてしまうとアレなんですが、読んでいて「もう、こっちの歴史の方が面白いじゃないか!」なんて
思っていしまいました。
斎藤道三と松永久秀の全編を通したやりとりがとても対照的で、それもまた大きく時代を動かす力になっていくあたりが興奮で背中がゾクゾクと。
何だか長ったらしくて歴史小説って面倒だワ、という方(実は、私も)にも十分楽しめます!十分以上です!

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 新刊採点の仕事をさせていただくようになって(特に文庫本班)、このところ時折耳にする「いま歴史小説が熱い」という噂はほんとなのだなと実感した。しかも、作者が史実を自分なりの解釈でダイナミックに描き出した作品がどんどん出てきているように思われる。というか、史実がそのまま書かれたような歴史小説に、もう存在意義はないのかもしれない。
 この「黎明に叛くもの」もそんな作品のひとつだ。もしかしたら歴史小説あるいは伝奇小説に慣れていない方にはやや読み進みづらいかもしれない。しかし、登場人物たちがいかに時代の空気あるいは周囲の思惑(あるいは謎の伝法)に翻弄されていったかが丹念に描かれ、心理小説としても読める。特に明智光秀が追いつめられていく終盤は圧巻。本能寺の変で光秀がどのような行動に出るかはもうわかっているのに、手に汗を握らされた。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 呪法、宝具、傀儡、芥子の花など、伝奇小説のエッセンスをこれでもか!と最初から最後まで詰め込んであって楽しい。私は歴史にまったく疎いので、天下獲りのための陰謀・策謀の部分よりも、とにかく妖しげな雰囲気を楽しんだ。特に傀儡の台詞の子供っぽさと意地悪さにやられてしまった。人形が自分の主をつかまえて老いぼれよばわりするのだから。その残酷さが余計に妖しく恐ろしい。
宝具が宙に浮いて回転するシーン、妖人・松永久秀が舞うシーンなど、場面の描写がどれも神秘的で色っぽく、読み終わったあとも頭に残っている。戦国時代という舞台装置、出てくる宝具の由来など、全ての要素がひとつの雰囲気を作り出しているので、ぶっとんでいるのに読んでいて全く興ざめしない。それどころか、いつのまにか幻惑されているかのようにすら感じてしまうのだから恐ろしい小説である。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 かつて刺客として育てられた稚児、庄五郎と久七郎。二人は「天下を二分する」という志を胸に山を下りる。ペルシアの暗殺法を自在に操り戦国の武将達を翻弄する。
 なぜ、流れも結末もわかっているのに歴史小説をつい手にとってしまうのか。真実の間に沸き立つもしも……に酔いしれたいのと、魅力ある人物たちとが繋がっていく意外さがあるからだと思う。美しい傀儡の“果心”に、妖しい術の数々、巧妙にしたてられた設定に魅了されることうけあいだ。
 さて、本書は、司馬遼太郎の「国盗り物語」や「ペルシャの幻術師」の流れを汲むものだという。残念ながらどちらも未読なのでピンとこないが、ファンなら心くすぐられるところ。“良書と良書の繋がり”という面白さも味わえる一冊だともいえる。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★★
 ぶん、と平蜘蛛の茶釜が鳴るたびに、ケシの花の咲き乱れる中で帰蝶と遊んでいる光景が明智光秀の脳裏に蘇る。なんとも幻想的なシーンだ。全編を通して現実と幻の境界が朧で、映像的な美しさに彩られている。
 物語は、戦国時代のフィクサー松永久秀と、悲劇の武将明智光秀の2人を軸に進行する。織田信長という輝く日輪に光を吸収される暁の星に甘んじることを拒み、自ら日輪たらんと欲して破滅してゆく男たちの、いわば敗北の美学を描いたこの作品、登場人物の各キャラが実に濃い。非情さと鷹揚さが同居する、美濃の蝮こと斎藤道三。道三を無邪気に兄者と慕う一方で、その道三と張り合いながら手段を選ばず権力を追求する蠍の久秀。久秀に操られながらも反抗したり、久秀の本音を人前で暴露したりするコミカルな傀儡。道三の娘・帰蝶に狂おしく恋焦がれる明智光秀。そこにもってきて、道三と久秀がともにイスラムの暗殺教団の秘術を受け継ぐ兄弟弟子であるという奇想天外な設定を導入しているのだから、面白くならない筈がない。虚実ないまぜになった夢幻の世界に迷い込みつつ、伝奇小説の醍醐味を心ゆくまで堪能できた。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 驚天動地、異形の戦国史。幼き日より仕込まれた、ペルシアの暗殺法を駆使し成り上がろうとする、悪名高き梟雄二人。立ちはだかる、魔王・信長。文句無く面白い、伝奇小説としては、非常に錬られており楽しめる事、受け合いである。
 戦国時代・大永二年、物乞いに毛の生えた様な身なりの青年・庄五郎と少年・久七郎。菓子を分けるように、美濃と阿波を盗る事を誓い合う。後の、蝮こと斎藤道三、蠍こと松永久秀が揃って、そろりと世に這い出た。
 久秀と光秀のやりとりが興味深い。また、引用文が所々に挿入されているのだが効果的で意味深である。著者は、本作を司馬遼太郎の「国盗り物語」へのオマージュと位置づけている。巻末の解説にある様に、司馬氏「ペルシャの幻術師」の性格も織り込まれている、なかでも特に「果心居士の幻術」を強く思い出した。前二作の「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」、「聚楽 太閤の錬金窟」も読んでみたい。

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  水野 裕明
 
評価:★★★★★
 絢爛豪華、奇想横溢、虚構満載。これぞ物語の醍醐味という作品で、毎日毎日読むのが楽しく、久しぶりに読み終わるのが残念に思えた。斎藤道三と松永弾正久秀が実は京の山深くにある、波斯の暗殺教団で刺客として養われた兄弟弟子であったということを骨格に、信長や秀吉、明智光秀などが登場するが、何と言っても主役である松永弾正久秀が魅力。遠くイスラムの暗殺教団を源にする波山の法や怪しい傀儡、霊薬などを自在に操り戦国の世を縦横に生きたそのキャラクターはこれまで持っていた、なんとなく卑怯で陰険という松永久秀のイメージを一変させてしまった。夢枕獏の「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」もまた歴史上の事実を使いながら想像の翼を広げ物語の愉悦を満喫させてくれたが、ほんの少しの歴史的事実とふんだんなフィクションという感じであったのに対し、本作は事実と事実の間に奇想を織り込んで読みごたえ満点。この作者の「信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」も信長が実は両性具有であったという奇想を元にした楽しい作品でおすすめである。

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