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FINE DAYS
FINE DAYS
本多孝好 (著)
【祥伝社文庫】
税込630円
2006年7月
ISBN-4396332971

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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
登場人物たちがなんだか困るくらいぶきっちょで、読んでいて切なくなってしまうような4編の短編集。
どのストーリーもとても上手くまとまっていて、なおかつ読んだあとに不思議な温かさが生まれてくるような印象のものばかり。
予知能力が登場したり、ファンタジックな世界であったり、過去を旅してみたりと、
風変わりな設定を扱っているのですが、それがまたこの作品世界にとてもマッチしていて。
ラブストーリーではあるけれど、それは男女間のものだけではなく友人愛であったり親子愛であったり。
それぞれが抱えた、一人では乗り越える事のできなかったものを誰かと一緒に少しずつ乗り越えていく。
過去に傷つき殻に閉じこもっていた心を、これからに向かって優しく開いてくれるような素敵な一冊です。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 お見それしました。本多孝好という作家がこれほど多彩な作品を書かれるとは存じませんでした。
 これまでに読んだことがあった本多作品は「真夜中の五分前 side-A/B」だけで、正直あまりピンとこなかったもので、「FINE DAYS」にもそれほど期待していなかった。
 でも読んでみたら!4つの短編すべて雰囲気の違う作品で、ミステリー風味あり、SF風味あり、ホラー風味もあり、最後の作品などO・ヘンリテイストではないか。…とここまで書いてふと気づいたが、すべての短編に共通しているのは“恋愛”であった。いや、帯にも裏表紙にも書いてあるって。というか、もともとのイメージが「本多孝好=恋愛小説家」というものだったのだが、もっとこう、ベタベタのラブストーリーを書くものと思い込んでいたのだ。いいじゃないですか、どの作品も!この中からどれか1作選ぶとしたら、迷うけど「シェード」かな。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 最後の一篇、「シェード」に強く心を揺さぶられた。オーソドックスな話なのかもしれないが、恋人の過去が気になってしまうというような、誰にでも起こりうるシチュエーションを真っ向から描いていてすんなり共感してしまった。たとえばあまり本を読まない友人にも自信を持って薦められる小説だ。
誰もが抱くその悩みは、とても素朴で実直なやり方でしか解決されない。この短編も非常に素朴なものではあるけれども、素朴な言葉だからこその力を持っているように思う。
全篇に共通して流れているのは「丁寧さ」であるように思う。自分の内面を見つめ、それを慎重に言葉に置き換えていく丁寧さ。自分が何をしたいのか、何をすべきなのかを追及しようとする丁寧さ。その姿勢に心を動かされずにはいられない。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 恋愛小説ってこんなに怖いものだったのかしら?甘い想いの中にひそむ刺激物に遭遇したように。互いの感情が激しく行きかうという点で、恋愛にはいろんな形があることを再認識させられる四つの短編集。
 誰かが誰かを想う気持ち、その強さが奇跡を生むのかもしれない。プラスかマイナスかの違いはあるけれど。若き日の父親と遭遇する「イエスタデイズ」が一番胸に迫ってきた。反発する息子に、昔の彼女と子供を探させる父の気持ち。かつて深く愛した女のことを蒸し返すようなことをされている妻の気持ち。そして、父が愛した女性への想いを秘める息子の気持ち。どれも内へ秘める想いなのでせつない。きりきりとした痛みをともなっていて、かなわなかった昔の恋の思い出をよびさますようだ。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★☆☆☆
 クラシックの名曲をイージーリスニングに編曲して聴かせる按配で、ハルキ師匠のスタイルを作者流に易しくアレンジしてなぞっている。が、それもここまで露骨だと痛い。読んでて何だか恥ずかしくなってしまった。もっとも師匠の難解さを敬遠する向きには、こちらの方が受けがいいのかもしれないけど。 「FINE DAYS」では黒髪の彼女の行く末も気になるところだが、それよりも、あれだけ強烈なキャラである彼女の名前を覚えていないという「僕」はやばいぞ。若年性アルツハイマーは30代で発症することもある。まあ、内容的にはこれが一番面白かった。 「イエスタデイズ」は山田太一「異人たちとの夏」風味、薄味仕立て。 「眠りのための暖かな場所」では語り手「私」のイメージが、もろに平本アキラの「アゴなしゲンとオレ物語」の月形にかぶった。タイトルはまさしく師匠風。 「シェード」はオー・ヘンリー「賢者の贈り物」風味、センチメンタル仕立て。師匠スタイル全開で、さすがに辟易。それにしても雄弁かつよどみないその語り口や恐るべし、中古家具屋の老婆。

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  荒木 一人
 
評価:★★★☆☆
 中短編が四編の恋愛小説。若者達の不器用で愛らしい恋愛を綴った作品。奇跡というよりは、ほんのりミステリ仕立てで描いている。
現実だったのかまぼろしだったのかさえ、思い出せなく成って来ている、遠い日の思い出。実らなかった儚い想いは、今も切なく胸に残っている。
「FINE DAYS」:一生懸命に背伸びして、妙に大人ぶっているくせに、素直では無かった高校時代。ちょっと不良の安井と、綺麗で不思議な感じの女の子と、僕の奇妙な関係。
「イエスタデイズ」:出来の悪い末っ子が、病に冒されている親父からされた依頼。三十五年前のスケッチブックと心細い情報を頼りに、当時付き合っていた女性を捜し出すこと。
「眠りのための暖かな場所」:人は死ぬと天に昇ってお星様になるんだよ。誰でも、誰かに聞いた様な台詞。たった九つで無くなった妹に対する、自責の念に嘖まれる私。
「シェード」:こぢんまりしたアンティークショップ。少し年上の彼女は「中古家具は一期一会よ」と言った。

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  水野 裕明
 
評価:★★★☆☆
 帯にはラブ・ストーリーと書かれ、カバーには著者初の恋愛小説とあったし、カバーデザインはなんとなく片岡義男風なのでおシャレな都会派恋愛作品か、と読み出したがこれは“看板に偽りあり、帯に勘違いあり”ではないだろうか。タイトルにもなっている“FINE DAYS”は人淡い恋愛感情をもった女子高生には人を殺したと噂があり…という作品で、他の3作品もタイムスリップや絵に描いたことが事実となる超能力がキモになっていて、いずれもほのかな恋愛感情や関係を描いているが、なんとも不可解な現象や説明の結末があって、上手くまとめられた質のいい幻想小説かホラー中短編のようであった。特に最後の短編“シェード”は現代と過去の恋人同士のエピソードが上手くリンクし、しかもその話を語り手である骨董店の老婆が創作したようでもあり、不思議な気持ちの良い読後感を醸す佳品であった。それから「眠りのための暖かな場所」の主人公である女性は大学の助手と言う仕事や語り口、キャラが北森鴻のフィールドワークシリーズの主人公蓮杖那智によく似ていると感じたのは私だけだろうか……?

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