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超・ハーモニー
超・ハーモニー
魚住直子 (著)
【講談社文庫】
税込440円
2006年7月
ISBN-4062754444
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★☆☆
より良い学校へ行き良い成績をとることが「認めてもらえる」ことなんだろうか。
女装であらわれた兄はどうやっても「認めてもらえない」んだろうか。
そもそも「認める」ってなんなの?
認めてもらえなかった子供達が反旗を振りかざしたとき、両親はどのように思うのだろう、というのがこの作品で一番心にひっかかったところでした。
あくまで、子供の視点で書かれているので両親の心の描写を深いところまで書いてはいないのだけれど、それはもしかすると一番重要なことなのではないかと思ったのです。
そもそも良い学校に入り良い成績を、という風潮は今に始まった事ではなく何十年も前から続いています。
それはこの先も、変わることなくむしろもっと熾烈なものになるのかもしれません。
「認める」ということがどういうことなのか。「認めてもらう」とはどういうことなのか。
大人も子供も一旦立ち止まって考える必要があるのかもしれません。レールに乗ってしまう前に。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★★
 同じ著者の作品で、6月の課題図書にもなった「非・バランス」もよかったが、この「超・ハーモニー」はさらに気に入った。主人公の兄である将樹の造形がいい。
「家出していた兄ちゃんが『女』になって帰ってきた!」と、帯にある。しかしすでに3人の息子の母親となった私にとってありうべき現実は、“息子が女性になって帰ってくる”というものだろう。あるいは、主人公響が陥ったように“息子が無気力になり自分の殻に閉じこもろうとしている”もありうる。
 息子の心は女性であることをどうしても受け入れられない父親、理解を示すふりをしながら考えることさえ拒絶する母親。自分だってそうなるかもしれない、響と将樹の両親を責められない。でも、たとえ家族が自分の期待とは違う道を選んだとしても、この家族のように少しずつでもわかり合おうとできたらいいなと思う。歩み寄ることすらできないのだったら、せっかく家族になった意味がないもの。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 家出していた兄が帰ってきた。それも女装をして、ゲイとして――。
主人公の少年は、親の期待に応えきれなくなってストレスを溜め込んでいる。子供にとって親の期待や命令は抗いがたい力を持っているものだ。反抗に要するエネルギーは並大抵のものではない。かといって従い続けられるものでもない。せめて兄もしくは姉が先に反抗しておいてくれれば少しは楽なのだが(反動で親が余計厳しくなることもあるようだから、一概には言えないが)。
その意味で、この兄は「理想の兄」だ。自身が相当の覚悟で家出したため、反抗したいができない、という気持ちをわかってくれる。弟の反抗の仕方がどう間違っているか、きちんと教えてくれる。こんな兄がいたら……と思える兄だ。
うまく反抗できないでいる中学生や高校生がいたら、この本をそっと渡してあげたい。この兄の言動をよく見て、参考にしてごらん、と言ってあげたい。そんな本だ。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 7月の「非・バランス」に続き二回目の魚住作品。前作は少女と大人の女性の話でしたが、今回は「女」になった兄と弟の話。彼女のお話は暖かな気持ちになるんだな。デリケートな問題も優しくつつみこむように解決してくれる。
 有名中学に入学したはいいけれど、学校の勉強についていけず、冷め切ってかさかさな同級生ともうまくいかない響。子どもは勉強が出来て当たり前との、父母の態度に家庭でもフラストレーションがたまってきている。その膠着状態をうまくかき混ぜてくれる、兄ちゃんの存在は大きい。世間の荒波にもまれてか、人間としての丸さが際立つ。彼は、響にも両親にも大切なものは何かを気づかせてくれる。困難にあって、でもそれに立ち向かえた人が持つ強さはすごいと思う。
 読み終わるとすがすがしい風が吹きぬけたように気持ちよかった。コンパクトで一気に読めるというのもうれしい。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★☆☆
 この作者の作品を読むのは7月の課題図書だった「非・バランス」に続いて2作目。周囲から孤立する主人公がいて、主人公の価値観を揺さぶる他者との出会いがあり、主人公が自分の置かれている閉塞的な状況を自分の手で打ち破って成長してゆく、という物語の構造は「非・バランス」と全く同じ。ただ「非・バランス」に比べると、本作の方が屈折した主人公の駄目っぷりや、両親のステレオタイプの偏見が単純明快。性同一性障害の兄も「非・バランス」のサラさんに比べて自己肯定が強く、物語に明るいトーンを与えていた。そのためか、本作の方がいくぶん読みやすかったように思う。響が親の目の前で感情を爆発させてプランターを破壊するクライマックスにも大いにカタルシスを得られた。ただ、ラストは少々お行儀がよすぎるかも。
 それにしても「非・バランス」といい本作といい、いかにも中学校や高校の図書館の推薦図書に指定されそうな作品だなあ。いや、だからどうだというわけじゃないですけど。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★☆
 順風満帆に見えていても、人生というのは何が起こるか誰にも判らない。平凡な人生を送りたいと思うのは、今の生活が幸せだからであろう。平凡は平凡たることを継続できる故に非凡と言えなくも無い。
 有名中学に合格し、主人公・響の人生は上手くいっていた。自宅の玄関で、自分のバスケットシューズより大きな、女物のハイヒールを見るまでは。七年前に家出した十二歳年上の兄・将樹がクリーム色のワンピースを着て、帰って来るまでは……
 欠けていた家族。家出していた兄が戻ってきた事による不協和音。押し隠していた不満と疑問が首を持ち上げる響、ひたすら嫌悪感を隠す母親、戸惑い逃げる父親。旋律は少しの修正で協和音になる。
「非・バランス」につづく第二弾! シリーズ物になる予感だが、次も期待出来そう。
“本書は、一九九七年に刊行された単行本を文庫化にあたり大幅に加筆・訂正したもの”とある。是非、単行本との読み比べもしてみたい。

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  水野 裕明
 
評価:★★☆☆☆
 同じ作家の作品「非・バランス」が前々回の課題図書で、女子中学生と年上の女性との交流といじめによる心の傷とその癒しを描いていたのに対し、小学校から中学校へと進む男の子の悩みとギクシャクとした友人や家族関係を描いた本作品。家族構成とかシチュエーションとかがかなり近く、いじめという問題もよく似ているが、対処方法や悩みの内容がそれぞれに違い、しかもその違いがリアリティをもって描き込まれているところは見事な感じで、上手いなぁと感心してしまった。2冊を比べながら同時に読み進めるのも良いかもしれない。でも……。同じ作家の作品が2冊課題図書となるのは桐野夏生とこの作者だけで、桐野夏生はベストセラー作家で映画にもなった作品ということで2冊が選ばれるのは分かるのだが、毎月大量の文庫本が出版されているのに、この作者の作品が2冊も挙がるのはどうしてなのでしょうか?ちょっと疑問でした。

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