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二島縁起
二島縁起
多島斗志之 (著)
【創元推理文庫】
税込700円
2006年7月
ISBN-448846002X

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  久々湊 恵美
 
評価:★★★☆☆
 導入から何か因縁めいた雰囲気で、これは横溝正史っぽいドロドロしたものを予感させます。
舞台背景が瀬戸内の島であったりするのが、そんな気持ちをさらにヒートアップ。
主人公の男がまた謎めいていて、黙して語らず、といった様子でなかなか渋いのです。
離婚後、瀬戸内に移住して助手とともに海上タクシーの運転手をしている。助手の女の子と別になにかあるわけでもなく淡々と仕事をこなして。
いったい彼がどうしてこの仕事を選んだのか、そのあたりもなんだか孤独をあえて選んだような感じがして魅力的にも映ります。
主人公が島と島との間を結ぶタクシーを運行しているうちに、二つの島の昔から続く確執に巻き込まれていく。
その確執から起きた事件。
犯人らしき人が幾人も登場しては、どんでん返しの連続で次々に殺されてしまったり。
もう、一体誰が犯人なんだよ!というジリジリした気持ちを体験できる事請け合いです。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 そう、そうなんだよ!最近の小説には"今まで会ったことかないほどの美貌"だの"思わず息をのむほど端正な顔立ち"だのと形容される美形がぞろぞろ出てくるけれど、実生活でそんなにしょっちゅうハンサムや別嬪さんに会ったことないよ!この小説の主人公はさえない中年男。妻子と別れ、海上タクシー業を営んでいる。浮いた話もないし、電話で話してる間に作りかけていたラーメンが伸びきってしまう描写に代表されるように、生活全般に彩りがない感じ。実際の日常なんてこんなものでしょう!助手の若い娘ではなく、夫を亡くし女手ひとつで小学生の息子を育てている同業者(あ、この人はけっこう美人らしいが)の方にやや気を引かれる風情なのもリアルだ。
 その彼が、瀬戸内海の2つの島をめぐる謎を解決するにあたっては、一転鋭い推理の冴えをみせる。「それがいちばんリアリティないだろ」と言われればそれまでなんですが。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 瀬戸内海にある二つの島の間に物騒な空気が漂う。海上タクシー運転手の主人公が受ける奇妙な依頼から、しだいに事件がその全容を見せていく――。
島ならではの閉ざされた人間関係、海の男たちの荒々しい反面狡猾な様子などがくっきりと浮かび上がるように描かれている。海上で事件に巻き込まれるくだりなど、波の音が聞こえるかと錯覚するぐらいだった。アクション的な要素も多く、ハラハラしながら楽しんだ。
もうちょっと謎を引っ張ってほしかったとも思うが(特に最初の被害者が発覚してから犯人が捕まるまでが短く感じた)、歴史の謎や魅力的なキャラクターなど、エンターテインメント要素がたっぷりで、しかもそれらが溶け合って独自のジャンルになっているように感じた。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 橋やフェリーではフォローできない小さな島の間を行き来する海上タクシー。船長の寺田は、五つの島々をまわって数人ずつ客を拾い、合計二十五人を乗せれば次の目的地を教えるという奇妙な仕事を請け負う。潮見島と風見島の対立と殺人事件。島の因習、二島の確執と、横溝正史作品を彷彿させる。瀬戸内の、そのうえ地元愛媛の海が舞台の作品。それだけで親しみを感じます。
 東京からやってきた寺田の標準語と地元の荒っぽい言葉との比較が面白い。特に〈竜王〉の女船長、越智一江の乱暴な言葉づかいといったら。彼女が日に焼け、潮がシワにもしみこんだようなおばちゃんならまだしも、以外にきれいな女性というところもおいしい。海上でハリウッド映画ばりにくり広げられるアクションなんかも読みどころです。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 地味そうな話だなあと思いながら読み始めたが、たちまち物語に引きずり込まれてページを繰る手が止まらなくなった。物語の舞台は小さな島々が浮かぶ瀬戸内海。島々の独特の風土や文化、荒っぽい気質の住人たちなど、実に生き生きと描けている。今治の方言が飛び交う会話もテンポがよくて実に巧いし、洗練された文章は抑制が効いていて無駄がない。
 登場人物では特に竜王の女性船長越智一江のキャラが抜群。その鉄火肌ぶりたるやハンパではない。脱サラで海上タクシーの運転手となった主人公の寺田は、いささか侘しさの付きまとう中年男。一江に終始圧倒されているなど少々ふがいないところはあるが、誠実で好感が持てる。助手の弓ちゃんも機転が利いてなかなか魅力的だ。
 まず夜の海を舞台に一波乱(この描写がまた物凄く映像的で素晴らしい)、続いて本格的な事件が起き、対立してきた島同士の歴史を掘り起こしながら、物語は緊迫していく。寺田が事件解明に足を突っ込む動機が少々弱い気がするものの、序盤から引きつけ、中だるみするところもなく終盤まで一気に盛り上げてくれた。終盤に明かされる犯人も意外な人物で驚かされた。文句なし一級品のサスペンスだ。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 ミステリとアクションをたして、スパイスに家庭の事情を少々。ジャンル分けが難しい作品。謎解きも、なかなか難しい。最後は、地味なんだがフルコースを戴きましたと言う感じ。(笑)
 主人公の寺田は44歳バツイチ。自分の生き方に拘った結果、離婚、放浪、瀬戸内で海上タクシー業を営んでいた。助手はうら若き女性・弓。三月半ば、〈ガル3号〉の船長・寺田は奇妙な依頼をされる。同業者の代理で受けた仕事は、〈竜王〉と二隻で50人の客を合計9島を回って合流する事。そこから先の行き先は知らされなかった……
 初めて読んだ作家なのだが、緻密で巧緻な設定で凄腕とみた。今まで読んでいなかったのが、残念!他の作品を探しに走った程。(まぁ毎度の事だが) ちょっと残念なのは、主人公が格好いいのに少々地味なのと、弓との恋愛関係が無い事(笑) 寺田の、船長になる以前の生活が知りたいと思うのは私だけだろうか。

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  水野 裕明
 
評価:★★☆☆☆
 それまでの生活が嫌になって妻子を捨ててフラッと東京を離れ、いつしか瀬戸内海で船のタクシーをしている主人公が謎の乗客たちを乗せたことから、二つの島で起こる事件に巻き込まれていく。島に関わる昔の因縁話も絡まってきて、まるで火曜サスペンス劇場とかの2時間サスペンスドラマの原作にぴったりのような作品。ただただ読みやすく、通勤の行き帰り電車の中で読みだけで読み切れてしまった。もう配役も目に浮かぶようで、主人公には渡瀬恒彦か船越英一郎、船の助手の女性は島崎和歌子か遠藤久美子、主人公をラストで救う女性船長には木の実ナナといったところでしょうか?島の伝説や因習が比較的作り物めいていて、途中でプロットも見えてしまうのがちょっと残念で、もう少し創りこんで枚数も増やせばもっと楽しめたのにと感じた。

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