日本はIT化に乗り遅れ、ガダルカナル化(絶滅)する? ~『決闘 ネット「光の道」革命』

決闘 ネット「光の道」革命 (文春新書)
『決闘 ネット「光の道」革命 (文春新書)』
孫 正義,佐々木 俊尚
文藝春秋
819円(税込)
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 今年5月、ある二人の有名人による討論会が開かれました。議題は「ブロードバンドを2015年までに全世帯に普及させる」という、政府の「光の道」構想に関するもの。二人とは、これに賛成の立場をとる孫正義・ソフトバンク社長と、反対派のITジャーナリスト・佐々木俊尚氏。

 当時ネット上でたいへん話題になったのは、ネットユーザーにとって関心のある議題だったからということのほかに、討論会の成り立ちに理由がありました。なぜなら、両氏のツイッターでのつぶやきがきっかけで、討論会を開くことになったからです。

 孫氏は、佐々木という名前から相手を小次郎に見立て、「時間も二時間制限ではなく佐々木さんと巌流島希望」などと書き込み、オープンな場ですべてが決まっていく様をフォロワーが把握していました。まるでメイキングを見た後で本編を見るような、そんなライブ感が人々に受けたのです。先の孫氏の発言を佐々木氏は著書『決闘 ネット「光の道」革命』の中で、「『小次郎扱いして......それって私が負けることじゃないか』とちょっと思った(笑)」と振り返ります。

 「当日にいたるまで、メールのやりとりも電話での打ち合わせも、誰とも一回も行われなかった」と佐々木氏がいうように、会の実現そのものがネット時代を象徴する事件だったこの討論会。

 タイトルに「決闘」と銘打ってはありますが、両者が口角泡を飛ばし合うというものではありません。「国費を一円も使わずに、いまある日本中のメタル回線を100パーセント、"光"に替えてみせる」。そして、そこから明るい日本の未来が始まるとする孫氏。対して佐々木氏は、いまやるべきはインフラ整備ではなく「一番重要なのは情報を流通させる真ん中のプラットホーム」という立場です。けれど二人とも、日本のITの現状を憂いている点では同意見。IT行政の不備によって、国そのものが"ガラパゴス化"し、しまいには"ガダルカナル化"(絶滅)するというくだりは、言いすぎではないかと思う半面、現実の厳しさを私たちに提示します。

 討論会の冒頭、宮本武蔵よろしく、「約束どおり、遅れて参りました」と登場した孫氏。最後まで疲れ知らずで熱く語る姿に、孫氏が一枚上手の印象は否めません。「あの野獣のような人こそが、世の中を変えうる可能性を秘めているのは間違いない」と佐々木氏書き下ろしの章が追加された本書は、見方によっては「孫正義伝」の側面もある一冊です。

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