第19回

 GWも明け、入稿が本番に差し掛かった頃、目黒さんから会社に電話が入る。
「元気でやってるか。八丈島でやる5月30日からの『どか酔いセミナー』は知ってるだろ。アレに来れないか? 椎名が『大橋も(メンバーに)ほしい』って言ってるんだよ」
 金曜日の夜から月曜いっぱい、土日をはさむとはいえ、入稿がぼちぼち始まる頃だ。
「うーん、入稿がありますし、何しろ入社したばかりですから」
「そうだよな~。頼みづらいだろうけど、椎名が『どうしても』って言うんだよ」
 入社2カ月目で私用の休みを取るなんて、社会人として失格だ。そんなことは重々判っている。しかし、東ケト会の会長の要請をドレイが断るなんてことはできない。
「なんとか、頼んでみます」
 
 オレはユーウツな気分で受話器を置いて、30日の午後から6月2日月曜日まで休んでもいいかどうか、オズオズと編集長に切り出した。
「平日2日か、うーん、でもしょうがないか」
 快諾とはいい難かったが、なんとか承諾してくれた。ダメだと言われたら、どうしようとビクビクだったオレは、ホッと胸をなでおろした。こちらの事情も察しての寛大な編集長の許可だったが、よくよく考えてみると、建前的には完全週休2日制の会社に入って、初めて取れた土日続けての休みだった。

 7月号は無事校了し、8月号の仕込みに入った5月22日の読売新聞朝刊にこんな記事が載った。

賞金欲しさ盗撮26回
投稿熱にオキュウ
福岡で少年書類送検へ

 福岡県警防犯課と福岡・中央署は二十一日までに、賞金ほしさに女子高生やOLの入浴姿などを盗み撮りし、少年向け写真月刊誌に投稿していた福岡市内の会社員の少年(十八)を住居侵入、軽犯罪法違反容疑で検挙、近く書類送検する。掲載した雑誌についても、県児童福祉審議会で有害図書に指定するなどして、盗み撮りブームに歯止めをかけたいとしている。(後略)

 盗撮写真は、99.9%がヤラセと書いたが、0.1%の本物を撮っていた投稿者が捕まった。3大紙で取り上げたのは(一部スポーツ新聞では、大きく取り上げていたものもあったが)、読売だけだったので、家で朝日新聞をとっていたオレは、会社に来てからこの記事を読んだ。
「これってウチは関係ないんですか?」
 哲也さんに訊いた。
「2月頃だったかな、福岡で投稿者が捕まったって話があったなぁ。ウチにも(投稿が)来てたけど、他社の雑誌のほうが結構沢山、載せてたんじゃないかな」
 そんなのは、もう昔の話といった返答。ガサ入れでもあるんじゃないかとパニクったオレは、そんな哲也さんの態度に少し安心した。
 
  実はその投稿者は、「自分の彼女の入浴中にこっそり撮りました」的なコメントを付けて投稿していたので、編集部としても犯罪的な盗撮写真との認識はなく、ニャンニャン写真の延長的なものとして考えていた。
 だが、安心するのはまだ早かった。記事の出た2、3日後、当の福岡県警から堀川編集長に出頭命令が来てしまったのだ。しかも、顔こそ移されなかったが、警告書を受け取るシーンが、全国ネットでニュースに流された。
 
 傍から見れば結構な事件だが、真相はそうでもない。福岡では、'85年後半から強制猥褻事件が頻発しており、警察は同一犯のものと見て、捜査していた。その捜査の網に投稿者が引っ掛かって逮捕されてしまった。それが2月頃。本命の犯人ではないものの、個人的な趣味での盗撮ではなく、投稿して賞金を得ていたことを重大視した警察は、県児童福祉審議会と協議した上で、犯人の送検を発表。それが、おそらくは考えていた以上のマスコミの反応があり、なんらかのアクションを起こすことが必要になった。それで、「投稿写真」の編集長に警告書を渡して、事を済ませようとしたのだ。
 
  新聞記事では、「ある月刊誌は(中略)盗撮をあおるような編集者側のコメントもつけ、年間最優秀賞なども設けていた」とあるが、「投稿写真」では、そうした写真には、あおるようなコメントは付けていなかったし、むしろいさめるようなコメントをつけることも多かった。もちろん「年間最優秀賞」も設けていない。本来であれは、記事にあるような雑誌に警告するのが筋だと思うのだが、「投稿写真」というストレートなネーミングの雑誌に警告を出した方が一般大衆に分かりやすい。実よりも身を取ったというか、実際に掲載していたのだから、トバッチリというにはふてぶてしい気もするが、(盗撮写真として考えていなかったことも含めれば)トバッチリに近かったといってよいだろう。