第33回

 当の酒井法子は、デビュー前だというのにキャピキャピのアイドルパワー全開、それがカワイコぶってるとか、無理してそういうキャラを演じているとかのワザとっぽさがまったく感じられない自然体で、
(こーゆーコが(芸能界では)伸びてゆくんだろうな)
 と感じずにはいられないタイプだった。実際、酒井法子を取材したことのあるアイドルライター達も「あのコは来る!!」と口を揃えていたし、それはデビュー後に日本のみならず、台湾・香港などの中華圏をも巻き込んでの活躍が裏付けている。
 
  しかし、である。酒井法子のタレントとしての武器は、そんな表面上のものではなかった。数年後、サンミュージックの演歌系のマネージャーと雑談している時、こんな質問をされた。
「ウチにいるコで、普段、一番暗いコって誰だと思います?」
 その頃には、サンミュージック所属の若いアイドル達をほぼ全員取材または撮影して、一度は会ったことのあるオレだったが、そう訊かれても現場で素を見せるコはまずいないし、増して暗さを感じさせるようではアイドルなんてできない。現場での態度・表情などを頭の中で一通りあれこれと思い浮かべてみたものの、確信的な答えは出ない。
「う~ん。分かりませんね」
 降参の白旗を振るオレの脇から、一緒に話をしていた石川誠壱が口を挟む。
「ひょっとして、ノリちゃんですか?」
「そうなんですよ。(ステージや現場における)普段のあのコからは想像もつかないでしょうけど」
 とマネージャー。
 
 舞台では騒がしいお笑い芸人が、楽屋では意外に無口で暗かったりするというような話は耳に挟んだことはあるし、芸能界のタレントは複雑な家庭環境の元に育った人も少なくなく、そういった経験をバネにして這い上がるハングリー精神が芸能界ではプラスになることが多い。酒井法子もそうだとは知ってはいたが、(事務所で一番暗いというのは)舞台やステージで見せる姿からは想像もつかなかった。後に本人が「のりピー語は事務所に無理矢理言わされていたもので嫌だった」と語っているが、それを自然体でやっているとしか思わせない演技力が、最終的に女優として花開いた酒井法子の原動力となっているに違いない。