第99回(最終回)

 27日の仕事納めまでの残り3日間は、「TVトリップ」の対談、「本の雑誌」の助っ人OBの忘年会、「School Sisters」の撮影、その合間にデザインが上がってきたページの入稿や原稿依頼に明け暮れている内に過ぎて行った。この年は珍しく、仕事納めの後、編集部での忘年会が開かれた。

 年末年始は、前の年のように海外には行かず(それでなくても4回も海外ロケにいったのだ)、森さん達とやれ忘年会だ、やれ新年会だと何度(各2回づつ計4回)も飲み会を開いて飲んだくれていた。
 
 新年の顔合せが済み、「マガジン・マガジン」が発売され、3月号の入稿が終わった1月中旬、オレは社長室に呼び出された。社長室には、社長のほかに副社長とSさんがいた。
「お前、もう4年も投稿にいるんだってな」
 社長の開口一番。まるでオレがずっと居座っていたかのような口ぶりだった。
「(異動するのを)忘れてたわけじゃないよ。それで、そろそろ異動しなきゃってことで、副社長とも話したんだけど、Sくんトコのシュガーがヤバくてさ。リニューアルをすることになったから、お前、シュガーに移ってくれ」
 '88年から'89年にかけて、それまでは部数で肩を並べていた「投稿写真」と「ザ・シュガー」の差は歴然としたものになっていた。続くアイドル氷河期の中、部数が落ちているのはどちらも変わらなかったが、「投稿写真」はアイドルマニアを読者に取り込んで踏ん張れたものの、どんどん減っていくアイドルファンが読者の大半を占める「ザ・シュガー」は、それに比例して部数を落としていた。
「シュガーですね。いつからですか?」
 急に異動だと言われても、引き継ぎもあるので簡単に移るわけにもいかない。
「3月号を4月号との合併号にして、5月号は休むから、リニューアル号を出すのは6月号。だから、3月からでもいいんだけど、リニューアルは創刊と同じで手間がかかるから、今、手を付けてる4月号と並行して、準備して4月号が終わったら移ってくれ」
「となると、2月の半ばぐらいになりますけど」
「それでいいよ」
「分かりました」
 オレは、一礼して社長室を出た。
(オレが、シュガー!? あんな雑誌できないよ)
 何度も書いているように、オレは『ザ・シュガー』のコンセプトと肌が合わなかった。
(リニューアルするっってことだから、コンセプトも変わるのかな? それならなんとかなるだろ)
 いつでも楽観的なのがオレの長所でもあり、短所でもあった。

 オレが参加する最後の号となる4月号のことは、あまりよく覚えていない。異動の挨拶といってもいなくなってしまうワケではないし、ジャンルが似たような雑誌なので、外部スタッフとの関係も終わってしまうこともない。なので、そのほとんどを「今度、シュガーに移ることになりましたんで、そっちでもよろしく」と簡単に済ませてしまった。よく覚えていないのは、通常進行でルーティン的にこなせる号であったのと、「ザ・シュガー」のリニューアル会議が、3日と置かず開かれていたので、記憶が混濁してしまったようだ。
 2月16日、「投稿写真」の編集会議に出て、引き継ぎをどうするか、ザクッと決めた。会議が終わるとデスクに戻り、引出しごと引き抜いて台車に載せる。編集の机は、すべて同じ規格なので中身を移し替えなくても、引出しを取り換えてしまえばよかったのだ。引出しを抜き終えると次は机の上の資料や文具を、折りたたみ式のプラスチックの箱に放り込んだ。
「それじゃ」
 編集長に挨拶して、台車をフロアのドアに向けて押す。「投稿写真」の編集部に再び戻ることはもうないと思っていた。
(さらば、「投稿写真」)
 閉まって行くエレベーターのドアを見つめながら、オレは心の中でそっとつぶやいた。