第90回:山崎ナオコーラさん

作家の読書道 第90回:山崎ナオコーラさん

デビュー作『人のセックスを笑うな』以降、次々と試みに満ちた作品を発表し続けている山崎ナオコーラさん。言葉そのものを愛し、小説だけでなく紙媒体の“本"そのものを慈しんでいる彼女の心に刻まれてきた作家、作品とは。高校時代から現在に至るまで第1位をキープし続けている「心の恋人」も登場、本、そして小説に対する思いを語っていただきました。

その1「本を作る人になりたかった」 (1/6)

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――生まれは福岡なんだそうですね。

山崎 : はい。でも半年くらいで埼玉に引っ越したので、九州にはほとんど住んでいないんです。おばあちゃんの家があったので遊びにいってはいましたが。

――一番古い読書の記憶といいますと。

山崎 : 絵本ですね。幼稚園くらいの頃。「おばけのぴーちゃんのシリーズ」の絵本が好きだったんです。可愛いおばけで、確か虹の中を通ったら虹色になる...といった内容だったと思います。図書館で読んで、真似して自分でも同じような絵本を作っていました。おばけの絵を描いて、ホッチキスで留めて(笑)。それから、自分で考えて「ねことおんなのこ」「なみちゃんのたび」っていう絵本もホッチキスで作りました。幼稚園くらいの頃から、本を作る人になりたいって思っていました。

――では、ずっと本を読んでいるような子供だったんですか。

山崎 : そうですね。それはだぶん内向的だったから。友達と遊べなかったんじゃないですかね(笑)。

――人見知りだったんですか。

山崎 : はい。それで、学校でもずっと一人で絵を描いました。

――本が好き、とつくづく思わせたのは、どんな作品だったのでしょうか。

山崎 : 小学4年の頃に読んだもので、今日、持ってきたんですけれど...(と、鞄から私物の本を取り出す)『鏡の国のアリス』です。

――偕成社文庫のバージョンですね。芹生一さん訳。

山崎 : 最初は図書館で読んだのですが、その後に親に買ってもらいました。何度も繰り返して読みました。全部を理解したわけではなくて、なんとなく面白いと思ったんですよね。別に、きちんと理解しなくてもいいと、私は思うんです。よく分からない部分があれば飛ばして読んでもいい。私が書く小説も、飛ばし飛ばしで読まれて構わないです。

――『不思議の国のアリス』よりも『鏡の国のアリス』が好きですか。

山崎 : そうですね。ほとんど意味のないことが書いてあって(笑)。それまで私は漠然と、自分は大人しくて本が好きな子だ、という自己認識しかなかったんです。でも『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』を読んだ時に、自分はただ大人しいだけじゃなくて"こういうものが好きな子なんだ"と思ったんです。全部の本が好きなわけじゃなくて、こういうものが好き、とはっきり思ったんです。

――今、"こういうもの"とはどういうものだったのか、言葉にしてみると。

山崎 : うーん。簡単に言うとシュール、ということだと思います。生き方とか人間心理が描かれている、といったことではなくて、ここに本の世界がある、という。同じ年頃でフランシスのシリーズの絵本を読んで、それも好きで。

――以前『フランシスとたんじょうび』を薦めてくださった時に「いい子じゃないところがいい」とおっしゃってましたよね。フランシスは、妹に嫉妬してすねたりする。

山崎 : 本って善悪の問題じゃないところがいいと思うんです。私自身に妹が生まれた頃に、祖母に絵本をもらったんですけれど、それはお姉ちゃんが妹に優しくする話で。それに反発を覚えた記憶があります(笑)。本はそういうもののために存在するんじゃない、って。その時にはっきり思ったかどうかは分からないんですけれど。本には道徳とかモラルを越えたものを求めたい。

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