第111回:梓崎優さん

作家の読書道 第111回:梓崎優さん

2008年に第5回ミステリーズ!新人賞を受賞、その受賞作を第一話にした単行本デビュー作『叫びと祈り』で一気に注目の人となった梓崎優さん。今後の活躍が大いに期待される新鋭の読書遍歴とは? 覆面作家でもある著者に、特別にお話をおうかがいしました。

その2「高校1年生で書いた推理劇」 (2/5)

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レベル7(セブン) (新潮文庫)
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返事はいらない (新潮文庫)
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――古典に限らず、面白かった小説はありましたか。

梓崎:高校に入ってから池澤夏樹さんを読みました。『バビロンに行きて歌え』が今でもすごく好きなんです。その中の「倉庫のコンサート」が学校の教材に載っていて、それが面白くて原典はどれだ、と探しました。はたして池澤さんの作品をそう言っていいのかは分かりませんが、わりと物語性のあるものが好きなんです。ミステリのトリックがすごい、といったことではなく、物語としてどう動いていくのかを味わえるかどうかに惹かれていました。藤沢周平さん以外はあまり一人の作家に執着して読むことはなかったんですが、池澤さんは『夏の朝の成層圏』や『南の島のティオ』なども読みました。他は、いろんな作家を拾い読みで。「新潮文庫の100冊」などを参考にしていました。

――池澤さん以外に印象に残っている作家、作品はありましたか。

梓崎:高校の後半になって、宮部みゆきさんの本を読んだ時はやっぱり衝撃を受けました。ただ、ジャンルが分かっていなかったので、宮部さんもミステリではなく普通の、一般小説だと思って読んでいたんです。トリックがあるにしても、あくまでも小説の一部と考えていて、それよりも物語的な部分に強く惹かれていました。最初は『魔術はささやく』を読んだんだと思います。あとは『レベル7』とか『返事はいらない』とか『蒲生邸事件』や『R.P.G.』とか。宮部さんの作品は、物語の閉じ方がとても好きで。『レベル7』や『火車』のラストは今でも鮮明に覚えています。

――その頃は読書にかなりの時間を使っていたんでしょうか。部活などは。

梓崎:テニスは続けていたんですが、途中から生徒会の仕事にかかわるようになって。あ、生徒会といっても末端なんですけれど。それに自分にはスポーツの遺伝的才能はないということも自覚したので...。生徒会や文化祭など、言ってしまえば学校生活をエンジョイしよう、というような。

――今振り返ってみると、学校ではどんなタイプだったんですか。生徒会にかかわるということは、中心的な存在だったのでしょうか。

梓崎:いえ、末端ですから。生徒会も誰もやる奴がいないからじゃあキミが、って(笑)。その他大勢の一人でした。わりとおとなしいほうだったと思います。

――作文は相変わらず苦手でしたか。

梓崎:苦手でした。高校1年のときに、最大の試練がありまして。文化祭で仲間と推理劇をすることになったんです。それで、どういう因果か私が脚本を書かなければいけなくなって。そもそもミステリを読んでいないしどうすればいいんだろうと思い、その時に海外の古典的なミステリをとても罪深い方法で読みました...。最初の50ページを読んで事件の概要を知り、最後の50ページを読んで犯人を知るという。それを脚本に流用して組み立てたのが、はじめて書いたフィクションだと思います。

――追われて焦って書いたという。

梓崎:良い思い出です(笑)。とにかくひどい劇でした。ガラスばりで密閉された空間で人が死んでいるという内容。あらすじだけだとまともそうなミステリですが、脱力も甚だしい。2日間あったんですが、1日目は途中でセットも壊れてしまったんです。2日目はセットを組みなおしてなんとか形になったんですが、トリックに関しては「えー」という反応でした(笑)。

――その後、文章を書く機会はなかったのですか。

梓崎:大学に入ってからになります。高校で自分が生徒会の広報委員会でパンフレットや新聞を作っていたので、仲間と高校の同期会報誌を作ろうという話になりまして。誌面を埋めるのによく考えたら書く人があまりいなくて、自分で書くしかない。それで、エッセイや書評じみたものを無理やり書きはじめました。書いてみたら面白くて、エッセイが半分私小説風になったりして。ただ、本当の意味での小説はまったく書いていませんね。

――私小説風といいますと、軽いスケッチ風なのか、それとも内面を告白するドロドロしたものなのか...(笑)。

梓崎:日常のスケッチ風です。ドロドロと心の叫びを書くことは苦手です(笑)。

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