
作家の読書道 第112回:林真理子さん
小説もエッセイも大人気、文学賞の選考委員も務める林真理子さんが元文学少女だったことは有名な話。“小説の黄金期”をくぐり抜けてきたその読書遍歴のほんの一部と、作家になるまでの経緯、そして作家人生ではじめて書いたという児童文学『秘密のスイーツ』についてなどなど、おうかがいしてきました。
その5「日々のサイクル、新作『秘密のスイーツ』について」 (5/5)
- 『白蓮れんれん (中公文庫)』
- 林 真理子
- 中央公論社
- 823円(税込)
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- 『RURIKO』
- 林 真理子
- 角川グループパブリッシング
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- 『アッコちゃんの時代 (新潮文庫)』
- 林 真理子
- 新潮社
- 555円(税込)
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- 『ロストワールド (角川文庫)』
- 林 真理子
- 角川書店
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- 『秘密のスイーツ』
- 林 真理子
- ポプラ社
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――女の人といえば、『女文士』や『白蓮れんれん』といった、実在の女性について書かれることも多いですよね。
林:新潮社の天皇と呼ばれた斉藤十一さんが「林真理子に白蓮を書かせろ」って指示が飛んで。大正生まれの方で、『FOCUS』を作った有名な人です。晩年は鎌倉に住んで、そこから指示が飛んできたっていう。2000年に亡くなったんですけれど。その方が連載するようにと言ってくださったんです。
――浅丘ルリ子さんをモデルにした『RURIKO』やバブル時代を描いた『アッコちゃんの時代』はどうだったんですか。
林:『RURIKO』は角川の方が「書かないか」って。ルリ子さんのお父さんが満州の偉い人で甘粕正彦とつながりがあったと聞いていたんです。満州のことは好きで資料は持っていたので、甘粕からスタートしようと考えましたね。『アッコちゃんの時代』は、バブル時代を書きたいと思っていて調べていた時に、ちょうど連載の話があって。他の方が書いたもので、アッコちゃんのモデルとなった人が脇役で出てくる小説があるんですが、それを読んで、ちょっとこの子じゃないな、と思っていたんですよね。あの頃に身銭をきって洋服を買って遊んだ人間でないと書けないなとも思ったんです。『ロストワールド』もバブルの頃を書いたものだけど、時期が早すぎたかな。あと10年後に出せばよかったかも。
――編集者からの企画を受けて書くことも多いのですか。
林:そういうことが増えますね。それも運命かな、出会いかな、と思っています。最初に自分でこう書きたい、と思うことはなかなかないんですが、連載が始まるとこうしたい、ああしたい、と思うようになりますね。
――そうやって提案に応じられるところがすごい。
林:プロは何でも書けないと。職人ですから。頑張って書いています。
――原稿は手書きだそうですね。
林:そうです。パソコンも持っているし調べものもするけど、秘書にやらせています。手書きのほうがすらすら書けるし、眼も疲れない。それにどこでも書けますから。
――ああ、新幹線で東京から大阪に行く車中でエッセイ1本すらすらと書き上げてしまうというお話を聞いたことが。
林:それはよくあること。スタバの2階とか、どこでも書きます。
――1日のサイクルは決まっていますか。
林:朝は6時に起きますね。子供にご飯を食べさせて学校に送って、犬の散歩をして、7時40分くらいに新聞を読みながらご飯を食べます。その後は、対談やインタビューが週に3、4回入っているので、8時から開いている美容院にいくことが多いですね。午後に対談やインタビューがあって、夜は会食も週に3、4回あって、9時半には帰ってきて子供を寝かせて...あれ、私、いつ原稿書いているのかしら(笑)。こぼれた仕事は土日にやっているんですけれど。対談などがなければ、午前中に短いエッセイを書いて、午後に長編を書きます。本は夜、娘がテレビを見ている時に面白そうなものを仕事場から持ってきて読んでいます。
――さて、新作の『秘密のスイーツ』(ポプラ社刊)は、初の子供向けのお話ですね。現代の、不登校の女の子が、ひょんなことから時空を超えて昭和19年、戦時下を生きる少女と交流を持つことになる。友情に心温まると同時に、戦争がどうなるか分かっている身としては、ハラハラしながら読みました。
林:戦争中の子供たちに、小さな穴からお菓子が送られたらいいな、ということは昔から考えていたんです。最後に関しては、書いているうちに宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』を急に思い出して、あれと同じ結末にするのはまずいだろうと思って、ああいう形に。
――児童書は昔から書きたいと思っていたのですか。
林:そういう訳ではないんです。ポプラ社から文庫を出したことでつながりができて、「子供の本を書いてみてはどうか」と提案を受けて。大人の作家が書いているわけですから、構成にもリアリティを持たせてありますけれど、でも上手だからって子供が面白いと思うかというと、また違うんですよね。料理した懐石をお子様ランチにしても喜ばれないかもしれない、それはただの私の傲慢さかもしれない。だから謙虚になろうと思いました。心理描写や状況描写はくどくしないでさらっと流すようにしたり。このへんの兼ね合いが難しかったです。あとは、大人の小説を書く時って固有名詞の力を借りるんですよね。「新型爆弾かと思ったわ」なんて書けば、昭和19年を生きている子供の言葉だと分かるけれど、今の子供の読者にはピンとこないので、気を使いました。現代の女の子、理沙ちゃんの成長が書かれるところも、「大人の考えることだ、フンッ」って思われるかなと心配していたんですけれど、読者カードに「感動した」とあってほっとしました。
――少女たちの交流が、携帯電話を介して、というところが面白い。
林:私はアナログ人間だから、今どっちが携帯を持っているんだっけ、なんて途中で分からなくなったりして(笑)。もともと携帯の写メは大好きなんですけれど。
――これは一般書バージョンと、児童書バージョンがあるんですね。イラストはどちらもいくえみ綾さん。確かに大人も子供も楽しめるお話です。
林:児童書バージョンのほうは作者名も「はやしまりこ」にしました。ほら、人気のある人はみんな名前の漢字をひらいていますよね。はやみねかおるさんとか、あさのあつこさんとか。そういう方たちにあやかりました(笑)。
(了)