
作家の読書道 第113回:湊かなえさん
デビュー以降つねに注目され続け、最新作『花の鎖』では新たな一面を見せてくれた湊かなえさん。因島のみかん農家に育った少女の人生を変えることとなった本とは。社会人になってから青年海外協力隊の一員として滞在した南の島で、夢中になった小説とは。それぞれの読書体験のバックグラウンドも興味深い、読書道のお披露目です。
その3「国内ミステリー、そして自転車の旅」 (3/6)
- 『放課後 (講談社文庫)』
- 東野 圭吾
- 講談社
- 617円(税込)
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- 『魔術はささやく (新潮文庫)』
- 宮部 みゆき
- 新潮社
- 724円(税込)
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- 『青が散る〈上〉 (文春文庫)』
- 宮本 輝
- 文藝春秋
- 555円(税込)
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- 『阿寒に果つ (角川文庫 緑 307-2)』
- 渡辺 淳一
- 角川書店
- 583円(税込)
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――さて、大学進学の時に、島を出たんですか。
湊:西宮の甲子園球場の近くで一人暮らしをはじめました。大学には本屋がなかったんですが、近くに書店があって、そこで東野圭吾さんや宮部みゆきさんの本を手に取るようになりました。テレビがすごく好きで、2時間ドラマで東野さん原作の「放課後」なんかも見ていたので、読んでみたいなと思っていたら、フェアをやっていたんですね。やっぱり、アガサ・クリスティーよりも国内の小説のほうが自分の日常に潜んでいることが書かれてあるように思えてドキドキするなと感じました。東野さんの作品は片っ端から読みましたね。宮部さんの作品で、学生の時に読んだものでいちばん好きなのは『魔術はささやく』。他には綾辻行人さんの館シリーズや、歌野晶午さんの信濃譲二のシリーズといった新本格の方たちの本も集めるようになりました。ミステリーばかり読んでいました。
――トリックを楽しむほうでしたか、それとも好きなキャラクターがいたとか。
湊:パズルもすごく好きなので、謎解きが楽しかったです。犯人は誰だろう、どういうトリックなんだろう、と自分も参加して考えながら読んでいました。探偵役と一緒になって考えていたら、実はその人は見せ掛けの探偵で途中で殺されてしまい、あー、仕切り直しかー、とか(笑)。地図を見ながら、時間を整理しながら読んでいましたね。
――理想的な楽しみ方ですね。素直に読書を楽しんでいる感じがします。
湊:王道というか。朝昼晩本を読んでいるくらいの通の人とは違って、夜や雨の日に読もうかなというラインの本読みだったんです。テレビを見て映画を観て本を読んで、面白かったら友達に教えて、という。同じアパートの友達に貸してもらって、宮本輝さんも好きになりました。高校の時、「『青が散る』はオレの話だ」っていう先生がいたんです。その先生が格好よかったら、そりゃ真っ先に買いに行っていたと思うんですけれど、その人に「オレの本だ」と言われてても、という...(笑)。でも憶えていたので、その子の本棚に『青が散る』を見つけて借りたんです。先生が「『青が散る』はテニス部の話だけど、オレはバレー部を作ったんだ」って言っていたのを思い出して、ああ、なるほどー、と。すごく面白かったので、そこから宮本さんを読むようになりました。
――学生時代にはほかに何か夢中になったことはあったのですか。
湊:サイクリング同好会に入っていました。私は女子大だったんですが、友達に誘われて近くの共学の大学の同好会に入ったんです。てっきり、六甲あたりの自然の中を走るくらいかなと思っていたら、新歓合宿でいきなり船にのって高松に渡って、金比羅さんまで自転車で行ったんです。うどんを食べて、讃岐富士を見て。夏には北海道、東北、信州など自転車で全国を旅するという、本格的なサークルでした。私はそれまで島からあまり出たことはなかったので、自転車で知らないところを回るなんてすごいなと思いました。自転車の旅の時には必ず、旅のお供に本を持っていきました。ユースホステルに泊まりながら、ひと月くらいかけてまわったりするんです。一度友達と行ったら、その子が骨折して3日後には帰ってしまって。初一人旅となって大丈夫かなと不安に思っていたら、ユースホステルにも一人旅をしている人が結構いて。談話室で話しているうち本を交換することになったんですね。あ、これぞ一人旅じゃないか! って思いました。宿泊施設にも「ご自由に持っていってください」という本棚があるんです。そこでいろいろな本に出合いました。北海道に行く時に渡辺淳一さんの『阿寒に果つ』を持っていったら、『流氷への旅』を持っている人がいて交換しましたね。三浦綾子さんの『塩狩峠』や『ひつじが丘』もその時に読みました。『塩狩峠』の舞台のあたりを通る時には自転車を畳んで電車に乗る、という人もいて、本当に好きな人は好きなんだなと思いました。その頃は気持ちが外へ外へと向いていたので、自分が持っていった本よりも、人から借りた本のほうが印象に残ったような気がします。あとはサークルの友達がエラリイ・クイーンを持っていたので『Yの悲劇』あたりを借りたりもしました。
- 『流氷への旅 (集英社文庫)』
- 渡辺 淳一
- 集英社
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- 『塩狩峠 (新潮文庫)』
- 三浦 綾子
- 新潮社
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- 『ひつじが丘 (講談社文庫)』
- 三浦 綾子
- 講談社
- 679円(税込)
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- 『Yの悲劇 (創元推理文庫 104-2)』
- エラリー・クイーン
- 東京創元社
- 778円(税込)
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