第117回:内澤旬子さん

作家の読書道 第117回:内澤旬子さん

今年、癌の“頑張らない”闘病体験を率直につづった『身体のいいなり』で講談社エッセイ賞を受賞した内澤旬子さん。これまでにも国内外の各地を旅し『世界屠畜紀行』といった話題作を上梓してきたイラストルポライターであり、装丁家、製本家でもある内澤さんは、本とどのように接してきたのか。興味の対象が多方面に広がっていく様子がよく分かります。

その4「最近気に入った本」 (4/4)

増大派に告ぐ
『増大派に告ぐ』
小田 雅久仁
新潮社
1,512円(税込)
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日本のセックス
『日本のセックス』
樋口 毅宏
双葉社
1,944円(税込)
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サンパウロへのサウダージ
『サンパウロへのサウダージ』
クロード・レヴィ=ストロース,今福 龍太
みすず書房
4,320円(税込)
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RUSH 1 (Feelコミックス)
『RUSH 1 (Feelコミックス)』
西村 しのぶ
祥伝社
1,008円(税込)
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感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)
『感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)』
飯島 渉
中央公論新社
821円(税込)
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――その後、本の好みに変化はありましたか。

内澤:癌になってからは桐野夏生が好きになりましたかね。でもこれという代表作は何かと訊かれると...うーん。人を切り刻んだりする話が本格的に読めるようになったのは、癌以降です。屠畜のルポをはじめてからも、人間に対する残虐行為は長らく苦手でして、ホラー映画もほとんど見られないくらいでした。でも、癌以降は、説明しにくいのですが、感覚や嗜好が別人のように変わってしまいました。本当に不思議だなと思います。

――最近はどのように読む本を選んでいるのですか。

内澤:最近は流されるように本を読んでいるので昔ほど楽しくないです。仕事で読まなきゃいけない本を優先しなくてはいけないので。本を読むのが遅いので、なかなか好きな本に辿り着けない。本当は同じ本をだらだら繰り返し読むのが好きです。 でもなるべく本屋さんにはいくようにしています。つい買っちゃうんですよね。でも最近記憶力が減退したのか新しい本はわりとすぐ内容を忘れてしまうものが多いですね。 家にとっておく本は、狭いのですくないです。食肉や牧畜の資料本、「芝浦屠場二十年史」「日本食肉年鑑」などの古書がどうしても優先されます。 仕事を離れた好みでいうと、メイ・サートンの他には、あとは中野美代子の本は追いかけていますね。「ゼノンの時計」とか「鮫人」とかが好きです。小説で最近凄いと思ったのは小田雅久仁の『増大派に告ぐ』と樋口毅宏の『日本のセックス』。海外文化を書いている書き手では今福龍太が好きです。クロード・レヴィ=ストロースとの共著『サンパウロへのサウダージ』がよかった。時間の経過がしみじみと伝わって来る造本です。 漫画では昔から好きなのは西村しのぶ。『RUSH』とか『アルコール』とか。『ライン』は人に貸しちゃって今ないんだよな...。服の描き方がとにかくうまいんですよね。きれいなお姉ちゃんを眺めたい時に。お洒落したいなーという気分にさせてくれます。あとはジョージ朝倉とか。最近注目してるのはヤマシタトモコと野口ともこですかね。 それと最近ちょっと病気の歴史に興味がでてきて、「癌の歴史」とか「病気の社会史」「感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア」などを読んでます。癌は古い歴史を持つ病気なんですよね。ひと時代前ですら、結構しんじられない治療方法が試されていたりして。今現在よしとされている治療法も、いずれは「こんなに野蛮なことがまかりとおっていたのか」となる日がくるのかもしれないとわくわくして読んでます。ペストやコレラの歴史は近代以降の公衆衛生史や屠畜場の衛生対策の歴史とリンクしていくのでとても気になります。

――1日のサイクルは決まっていますか。読書の時間などは。

内澤:本は電車の中で読む習慣がついていたので、東京に住んでから電車に乗る時間がすくなくて困っています。一応寝る前と、昼風呂で。毎日ではないけれど長風呂するんで。意外と濡らさないで読めるものですよね。生活原稿の締め切りがつまってくると、規則的ともいえないので...。ヨガとバレエだけは通うようにしていますけれど。

――おや。『身体のいいなり』でヨガを始めたことは書かれていましたが、バレエは初耳です。

内澤:先々週くらいに始めたばかりですから。ヨガもだんだん上級になってくると、通いたいクラスが少なくなるんです。恵比寿とか青山まで行かなくちゃいけない。それで、知り合いが格安のバレエ教室を教えてくれたんです。平日の午前中は行き放題っていう。さっそく身体中が痛くなりましたよ。すっごく汗もかく。ヨガとはまた質の違うエクササイズです。気持ちいいくらいなんにもできませんから、面白くて。

――最後に、今後の予定を教えてください。

内澤:岩波書店の月刊『世界』で連載していた、豚を自分で飼って食べるまでをイラストルポにした『飼い喰い』を十二月上旬までに単行本にしよう、頑張ろう、と言っているところです。あとはミシマ社から犬の本を出そうとしていて。タイの犬食など、犬を食べる話を含めて、いろいろ考察をしたいんですが、タイに行ったらベトナムにも行きたくなっちゃって。『世界屠畜紀行』の続きもまだ取材が全部終わっていないし。ゲラ片手に海外取材をこなすしかありません。まあ最近はどこでもネットがつながってますから。家の中よりもホテルやカフェの方が仕事がはかどるので、どうにかなるでしょう、たぶん......。

(了)