
作家の読書道 第138回:畑野智美さん
2010年に地方都市のファミレスを舞台に人間模様を描く『国道沿いのファミレス』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー、二作目の『夏のバスプール』がフレッシュな青春小説として評判を呼び、三作目、図書館に勤務する人々の群像劇『海の見える街』は吉川英治文学新人賞の候補に。今大注目の新人作家、畑野智美さんは一体どんな人? 読書遍歴はもちろん、作家になるまでの経緯、そして最新作についてもおうかがいしました。
その2「高校の授業で運命の出合い」 (2/6)
- 『人間・失格―たとえばぼくが死んだら (幻冬舎文庫)』
- 野島 伸司
- 幻冬舎
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- 『人間失格 (集英社文庫)』
- 太宰 治
- 集英社
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- 『天使の卵―エンジェルス・エッグ (集英社文庫)』
- 村山 由佳
- 集英社
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- 『きらきらひかる (新潮文庫)』
- 江國 香織
- 新潮社
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- 『晩年の子供 (講談社文庫)』
- 山田 詠美
- 講談社
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――さて、中学生以降の読書生活はいかがでしたか。
畑野:『別冊マーガレット』を読みだしました。いくえみ綾さんがすごく好きでした。授業中にコバルト文庫を読んで先生に没収されたこともあったし、隣の席の女の子に「よく本を読んでいるね」と言われこともあったので、わりと読書はしていたと思うんですけれど、何を読んでいたのかな...。中学2年か3年の時には野島伸司脚本のドラマ『人間・失格』がすごく流行って、それで先生が「太宰治の『人間失格』も読むといいですよー」と言うので読みました。ドラマと本はまったく内容は違うんですけれど。その時は太宰を読んでもあまり意味が分かっていなかったと思います。中高一貫の学校に行ったんですが、その現代国語の先生にはずっとお世話になりました。先生が薦めてくれた本はよく読みました。それで、高校生の時に、後々あれは運命的だったと私が勝手に言い張っていることが起きるんです。
――運命的とは、いったい...?
畑野:先生が授業中に、村山由佳さんの『天使の卵』を薦めてくれたんです。「小説すばる新人賞を獲った作品で...」と聞いて、私もその賞がほしい、となぜか思ったんです。
――後に畑野さんが小説すばる新人賞を受賞する布石がそこに!その頃もう小説は書いていたんですか。
畑野:小学校の頃から学芸会で張り切るタイプだったので、中学校に入った時は演劇をやりたいと思っていたんです。でもうちの学校は運動系が盛んで、文科系も吹奏楽部や技術工作部は盛んでしたが映研や演劇部はすごく地味で。見学に行ったらちょっと気持ち悪い先輩が「入部したいの?」って追いかけてきたので「忘れてください!」と言って逃げたので、中学生の時はそういう活動が何もできなかったんです。でもなにかしらやりたくて、小説なら一人でもできる、ということで書きはじめました。子供の頃のお人形遊びの延長で、ルーズリーフにひどいものを書いていました。そういう頃に村山さんの本を知って。『天使の卵』の単行本って最初の数ページが村山さんのグラビアなんですよ。著者近影という感じではなくて、場所も海辺みたいなところで本当に"グラビア"なんです。『クリーミィマミ』を観て育った世代ですからアイドル的なものに憧れがあって、これはいい! と思ったんですよね。とんでもない勘違いです。相変わらず作文も書けなくて、修学旅行の感想文を書いて出したら「こういうことじゃない」と言われていました。建造物を観て何を学んだか、ということを書かなくちゃいけなかったのに、友達とみんなで楽しかった、みたいなことを書いたんです。
――村山さんの本を知ってから、読書傾向も変わりましたか。
畑野:村山さんの本を図書室で借りて読んで、もう、「ちょー面白い!」と思いました。コバルト文庫から太宰にいく前に、やはりもうひとつ経由がほしかったんですよね。村山さんの本がすごくよかったと司書の先生に言ったら、江國香織さんの『きらきらひかる』を薦められて、これもものすごく衝撃を受けました。小説ってこんなに面白いんだ、と思いました。その頃ちょうど、教科書に山田詠美さんの「ひよこの眼」という短編が載っていたんです(※『晩年の子供』所収)。男の子と女の子の話で、その男の子の眼が諦観の眼をしているというような内容で。読んで隣の席の子とキャーキャー言っていたんです。うちの学校は進学校だったので教科書も入試に出ない部分は飛ばしていたんですが、私たちがあまりに騒ぐのでじゃあ授業でやるか、ということになりました。それからも司書の人に教えてもらってよしもとばななさんを読んだり、よく図書室に来る男の子に筒井康隆が面白いと言われて読んだり...。思春期的な衝動に小説がばしっと合ったんでしょうね。村山さんや江國さんの本は全部読みました。他には『リング』がすごく流行っていましたね。映画が公開された頃です。誰を誘って観に行くとか、誰に誘われたとか、そういうことを言ってギャーギャー騒いでいました。あと、国語のテストに一度、村上春樹さんの文章が出たことがあったんです。今年のセンター試験に小林秀雄の文章が出て話題になっていましたが、普段はそういう難しい評論ばかり出題に使われていたんです。そのなかで村上さんの文章の一部が出てきたら、なんだこの読みやすい文章は!となりますよね。そこから『ノルウェイの森』などを読んで鬱々とするようになるという。
――その頃ご自身が書いていたのは、どういう小説だったのでしょうか。
畑野:今思うと『夏のバスプール』に似た話でした。自分は女子のヒエラルキーでいうと一番下ではないけれども華やかな子たちを眺めている側だったし、少女漫画っぽい青春を送ることはできないと思っていました。運動部にも憧れていましたし。その憧れを小説にしていました。そう思うと、自分って、あの頃と全然変わっていませんね...。
- 『リング (角川ホラー文庫)』
- 鈴木 光司
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- 『ノルウェイの森 上 (講談社文庫)』
- 村上 春樹
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- 『夏のバスプール』
- 畑野 智美
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