作家の読書道 第168回:早見和真さん

デビュー作『ひゃくはち』がいきなり映画化されて注目を浴び、さらに昨年は『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞、最新作『95』も注目される早見和真さん。高校時代は名門野球部で練習に励んでいた少年が、なぜ作家を志すことになったのか、またそのデビューの意外な経緯とは? ご自身の本棚の“一軍”に並んでいる愛読とは? 波瀾万丈の来し方と読書が交錯します。

その1「本屋さんが好きだった」 (1/7)

  • 大どろぼうホッツェンプロッツ (偕成社文庫 (2007))
  • 『大どろぼうホッツェンプロッツ (偕成社文庫 (2007))』
    オトフリート=プロイスラー
    偕成社
    648円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし
  • 『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』
    レオ・レオニ
    好学社
    1,572円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • 大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる (偕成社文庫 (2008))
  • 『大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる (偕成社文庫 (2008))』
    オトフリート=プロイスラー
    偕成社
    648円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • 大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる (偕成社文庫 (2009))
  • 『大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる (偕成社文庫 (2009))』
    オトフリート=プロイスラー
    偕成社
    648円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • それいけズッコケ三人組 (ポプラ社文庫―ズッコケ文庫)
  • 『それいけズッコケ三人組 (ポプラ社文庫―ズッコケ文庫)』
    那須 正幹
    ポプラ社
    648円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • 新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)
  • 『新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)』
    J.R.R. トールキン
    評論社
    756円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • 十和田南へ殺意の旅 (廣済堂文庫)
  • 『十和田南へ殺意の旅 (廣済堂文庫)』
    西村京太郎
    廣済堂出版
    669円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

――早見さんは神奈川県のご出身ですよね。

早見:そうです。田園都市線沿線に住んでました。たまプラーザの有隣堂の話もあとで出てくると思います。

――おお、分かりました。ではまず、幼い頃の読書の記憶といいますと。

早見:ちっちゃい頃、すごく本読みだったんですよ。幼稚園に入る前くらいから、たくさん読んでいました。なにを読んでいたのかはあまり思い出せないんですが、「小さなおばけ」シリーズは好きでした。「おばけのアッチ」の本と「おばけのコッチ」の本と「おばけのソッチ」の本があって、僕は「コッチ」が好きでした。

――幼稚園に入る前から文字が読めたんですか。

早見:文字を読めるようになったのは、はやかったらしいです。両親ともに本読みで、本だけは買い与えてくれた思い出があります。本屋さんも好きだったんですよね。街の本屋に行くことが多かったんですけれど、「いっぱい本が買える」という象徴的な場所が、たまプラーザの有隣堂だったんです。僕、すぐに「冒険」に出てしまう子供で、幼稚園の年長か小学校1年生くらいの時に、お年玉を持ってバスに乗りたまプラーザの有隣堂に一人で行ったんです。まわりが大騒ぎになりました。そこで買った本は明確に憶えていて、『大どろぼうホッツェンプロッツ』でした。まだ読むにははやかったはずだけど、絵に惹かれたんでしょうね。

――帽子をかぶってひげを生やしたホッツェンプロッツの顔が表紙ですよね。懐かしい。

早見:そうです。ホッツェンプロッツと、その時にお袋に殴られたことは僕の記憶のなかで完全にリンクしています。もう、ぼっこぼこでした。

――相当心配されたんでしょうね。それにしても小さい頃からそんなに本屋さんと本が好きだったんですね。

早見:本屋っていう場所が本当に好きでした。絵本も好きで、僕、小学校1年生くらいの時に、自分で絵本を描いているんですよ。幼馴染みにひとみちゃんっていうお姉ちゃんがいて、ひとみちゃんのお母さんにプレゼントしたんです。主人公の男の子が赤い風船を持っているんだけれど、手から離れて空に飛んでいく。そうすると、空には鳥がいたり、風が吹いていたりして、その赤い風船君は孤独で苦しむんです。その時に白い風船君がいっぱい集まってきて「僕たちが守ってあげるよ」と言い、巨大な鳥になるという話でした。「すごい話じゃん!」って今でも思うんですけど、その数年後に僕、『スイミー』に出会うんですよね、教科書で。当時は本当に「パクられた!」って怒っていたのを覚えてます(笑)。

――ひとりぼっちの小さな魚のスイミーが、自分とは違う色の小さい魚たちと集まって......という話ですものね。でも断然むこうのほうが古くないですか(笑)。

早見:そうそう。古いんです(笑)。でも、僕はパクってないですよ!

――でも赤い風船の話もいい話ですね。なぜひとみちゃんのお母さんにプレゼントしたんでしょうか。

早見:ひとみちゃんのお母さんだけが俺にお年玉とかをくれたので、そのお返しで(笑)。その絵本はぜひもう一度見てみたいんですけどね。

――将来絵本作家になりたいって思ったりしていたんでしょうか。

早見:その頃から、「小説家になりたい」と言っていたらしいです。でも、その後くらいに野球に出合うんですよね。同じ横浜市内なんですけれど引越しをしたら、小学校の文化が劇的に変わったんです。たとえば小1の僕が本を読んでいると「ハヤちゃん、なんで本なんか読んでるの」とからかわれるような文化圏に突入したんです。野球やサッカーをやっている人たちと、小説とか物語を読むことの親和性が本当に薄くて、いつからか僕の中で本を読むことは恥ずかしいことになっていってしまうんですね。
でも、隠れては読んでいるんですよ。ホッツェンプロッツの続篇の『大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる』『大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる』とか、『ズッコケ三人組み』なんかはその頃読んでいるはずだし。小3くらいから『指輪物語』も読み始めて、それも全部読みました。けれど誰かに見つかったら嫌だから、図書室にも行けなかったです。
そうやって小5くらいまでは隠れて本を読んでいました。それから、小6の頃からは本当に野球に熱中しはじめたことと、受験勉強をするようになったことで本から離れてしまって。高3くらいまで、本がすごく遠いものになりました。中学校で読んだ本なんて2冊だけです。中学の図書室に行ってたまには何か読もうとした時に、本から離れてかなり経っていたので何を読んだらいいのか分からず、たまたま西村京太郎さんの『十和田南へ殺意の旅』というのを読んだんです。

――トラベルミステリーですね。

早見:そうです。それがもう面白くて。やっぱり自分でも知ってる西村京太郎さんっていう人はすごいんだなあって思いました(笑)。もう一冊はシドニィ・シェルダンです。

――"超訳"がいっぱい出ていましたよね。

早見:馬鹿売れしていましたよね。うろ覚えですが、『真夜中は別の顔』か何かを読みました。西村京太郎さんで再び読書に目覚めかけた僕は、クラスの読書家の子に「なにを読んだらいいのかな」と聞いて、シドニィ・シェルダンを貸してもらったんです。面白かったんですけれど、でもそこから読書にハマるということはなくて、やっぱり野球に一生懸命でした。中学校を卒業して高校に入って、より野球がコアな環境になっていきます。寮生活で。

» その2「野球部の先輩が読んでいた本」へ

プロフィール

早見和真 (はやみ・かずまさ)
1977年、神奈川県生まれ。2008年、『ひゃくはち』で作家デビュー。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。
14年、『ぼくたちの家族』が映画化。15年、『イノセント・デイズ』が第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞した。
  他著に『スリーピング・ブッダ』『東京ドーン』『6 シックス』『ポンチョに夜明けの風はらませて』などがある。