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有川 浩さん 写真

第68回:有川 浩さん

自衛隊三部作と呼ばれるデビュー作からの三作、「本の雑誌」が選ぶ2006年度上半期エンターテインメント第一位に輝いた『図書館戦争』。ミリタリー&ラブな要素をたっぷり盛り込んだ有川浩さんの作風は、どんな読書道から生まれたのか? ラストにショックを受けて10年間も引きずったといういわくつきのファンタジーをはじめ、数々の思い出の本が登場します。

(2007年6月29日更新)

【ラブコメが好き!】

――小さい頃からお話を作るのが好きだったそうですが、やはり本も相当読まれていたのでは。

有川 : いろんな種類の本が、無造作に転がっている家だったんです。親の本棚も手の届くところにありましたし、セールスマンが「お子さんにこれはいかがですか」と売り込みに来る、世界の童話シリーズの薄い本が100冊入っているボックスとか。親はそれを買うわりには「読め」とは言わずにほったらかしでした。小学校に上がったら子供向けの百科事典も買ってくるのだけれど、それも「読め」と強要されたことがない。…そうすると、勝手に探し出して読むようになりました。ただ、同じ環境で育ったからといって、きょうだいも本好きになったというわけではないですね。

――記憶に残っている本は。

有川 : セールスマンを追い返せずに買わされてしまったのであろう絵本の詰め合わせボックスは面白かったですね。でもタイトルは覚えていないんです。次から次へと読んでいました。

――自分でお話を作っていたのは。

有川 : 保育園くらい。字をかけるようになったらもうやっていたようです。

――空想が好きだったんでしょうか。

有川 : 小さい頃はあまり戦闘的ではなくボーッとした子供だったんです(笑)。

――特に好きなジャンルはあったんでしょうか。お話が好き、とか、動物記のようなノンフィクションが好きとか…。

有川 : 乱読でした。『シートン動物記』『ファーブル昆虫記』も読みましたし、児童文学ではワイルダーの『大草原の小さな家』シリーズや『赤毛のアン』『あしながおじさん』、佐藤さとるの『誰も知らない小さな国』、わたりむつこの『はなはなみんみ物語』…。児童文学は単なるラブコメとして読んでいましたね。

ジョニーベアー イエローストーンの子グマ シートン動物記 1
『ジョニーベアー シートン動物記 1』
アーネスト・T.シートン (著)
福音館書店
945円(税込)
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ファーブル昆虫記 完訳 第1巻(上)
『ファーブル昆虫記 完訳 第1巻(上)』
ジャン=アンリ・ファーブル (著)
集英社
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大草原の小さな家
『大草原の小さな家』
ローラ・インガルス・ワイルダー (著)
福音館書店
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赤毛のアン
『赤毛のアン』
L.M. モンゴメリー (著)
講談社
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あしながおじさん
『あしながおじさん』
J.ウェブスター (著)
福音館書店
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誰も知らない小さな国
『誰も知らない小さな国』
佐藤さとる (著)
講談社
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はなはなみんみ物語
『はなはなみんみ物語』
わたりむつこ (著)
リブリオ出版
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――『図書館戦争』シリーズはラブコメ要素たっぷりですが、そんな小さな頃からラブコメ好きだったんですね!

有川 : 大人がその本で何を子供に気づかせたかったのかは知りませんが、私にとってはワイルダーはローラとアルマンゾが結婚するくだりでドキドキしましたし、『だれも知らない小さな国』も、「ぼく」が流された靴を拾ってあげた女の子と結局結婚するところなど、恋愛を感じさせる部分が好きで。『はなはなみんみ物語』は、小人の話で、大戦争で生き残り肩身をよせて細々暮らしている小人の家族が、他に仲間がいないと旅に出る話。三部作それぞれ戦争の傷のようなものが描かれるのですが、すみません、それでさえ私の中ではラブコメで、みんみとゆたのカップルが好きでした、みたいな(笑)。

――なぜそこまでラブ要素が好きだったのでしょうね。ご自身で書くものもちょっとはその要素が入っていたり?

有川 : ちょっとどころじゃない(笑)。子供の頃は有名な童話の焼き直しが多く、ただ文章を書くことで満足していたんですよね。なぜラブコメが好きなのかは、赤い色が好きな人が、自分がなぜ赤が好きなのか理由が分からないのと同じだと思います。

――当時書かれたものは、残っているんですか。

有川 : 今残っていたら火をつけます(笑)。

【児童文学の後は…】

星へ行く船
『星へ行く船』
新井素子(著)
集英社
460円(税込)
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――児童文学を読んでいたのが小学校時代。

有川 : そうですね。図鑑やことわざ辞典も読んだし、そうかと思えば父親の本棚から『サイボーグ009』や新谷かおるのシリーズものを読んでいましたね。浦沢直樹の『パイナップルARMY』を読んだのが中学生の時ですから、中学女子としては渋い読書傾向でした。とにかく、面白いものであれば、漫画であろうが何であろうが読んでいたんです。それで、小学校6年から中学になるくらいの間に、コバルト文庫で新井素子さんが『星に行く船』のシリーズを開始されたんです。当時どれくらい人気があったかというと、それはもうすごい人気があって。私もハマって、そこからコバルトのシリーズにいきました。児童文学からいきなりライトノベルに移ったんです。まあ、当時はライトノベルという言葉はありませんでしたが。

――新井素子さんは爆発的な人気でしたよね。

有川 : だから大人が推奨するような、ちゃんとした文学というものを全然読んでいないんです。児童文学を卒業する頃にライトノベルが見つかって、そっちの方向ばかりいってしまって。太宰治といったら教科書に載っていた『走れメロス』をかろうじて読んだぐらい。しかも意味がわからんこの男は、とか思っていました。

――コバルトでは他に何を?

有川 : 久美沙織さんの『丘の家のミッキー』シリーズや、『なんて素敵にジャパネスク』『なぎさボーイ』…。

丘の家のミッキー(1)
『丘の家のミッキー(1)』
久美沙織(著)
集英社
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なんて素敵にジャパネスク
『なんて素敵にジャパネスク』
氷室 冴子(著)
集英社
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なぎさボーイ
『なぎさボーイ』
氷室冴子(著)
集英社
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多恵子ガール
『多恵子ガール』
氷室冴子(著)
集英社
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――氷室冴子さん。『なぎさボーイ』と『多恵子ガール』はまさにラブでしたよね。

有川 : あれはすごいもどかしい話でした。あと、一回一人の作家にハマると総ナメにしないと気がすまないので、新井素子さんは中学1年くらいで『…絶句』とかも読んでいます。頑張ったものです(笑)。あとは、高校生になると、ソノラマ系を読む友達が出てきて、笹本祐一さんの『妖精作戦』とかも読みましたね。あとは、私たちの時代の読書好きな友だちみんなが読んだのは田中芳樹さんの「銀英伝(『銀河英雄伝説』)」。これを読むのが通過儀礼のようなものでした。

…絶句(上)
『…絶句(上)』
新井素子(著)
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妖精作戦
『妖精作戦』
笹本 祐一 (著)
朝日ソノラマ
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銀河英雄伝説(1)
『銀河英雄伝説(1)』
田中芳樹(著)
東京創元社
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【10年間もひきずった作品】

――田中芳樹さんも著書が多いですよね。それも総ナメに?

有川 : 当時は「銀英伝」が完結するかどうかくらいだったのかな。8巻でネタバレをくらって泣きました。

――泣いた?

有川 : すでに読んでいるだろうと思いこんだ人からポロッと8巻のエピソードを知らされて、うわー、それ知りたくなかった! とショックだったことがあるんです。いくら名作の域に入っている作品とはいえ、何がどうショックだったかここで言ってしまうのは、これから読む人にとって凶悪なことになるので(笑)言いません。

――そういえば『妖精作戦』でもショックを受けたんですよね?

レインツリーの国
『レインツリーの国』
有川浩(著)
新潮社
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有川 : 当時ファンの間ではかなりの議論がわいたのではないでしょうかね。私はあの結末を飲み込むのに10年かかりました。それに対してのオマージュが、『レインツリーの国』になっているんです。

――作品内で、主人公たちが語り合う本が『フェアリーゲーム』ですね。

有川 : それはまんま『妖精作戦』からきているタイトルで、私としてはオマージュのつもりなんです。

――10年もひきずったというのは。

有川 : あの当時『妖精作戦』にハマっていた学生にとっては、ものすごいカルチャーショックだったんですね。明るく楽しいジェットッコースタームービーのノリで人気を獲得したものなのに、最後に主人公の学生たちが力尽きてしまう感じで。もう笹本さんの本は絶対に読まない、という人もいたらしい。私も最後の二巻は怖くて開けないくらいにトラウマになりました。そこまで心にひっかかったものって、他にはないですね。

――相当な痛手ですね…。

有川 : でもこの作品がきっかけで旦那とつきあって結婚したりもしました。

――おおおおっ。

有川 : 同じ本を読んでいたことがきっかけで。

【ライトノベル卒業】

ここはグリーン・ウッド(1)
『ここはグリーン・ウッド(1)』
那州雪絵(作)
白泉社
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動物のお医者さん (1)
『動物のお医者さん (1)』
佐々木倫子(作)
白泉社
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――さて、高校生時代に他に読んだものは。

有川 : ソノラマ系が多かったですね。斉藤英一朗さんの『ハイスピード・ジェシー』などをおぼろげながら覚えています。あとはその頃に、今ライトノベルと呼ばれているジャンルのレーベルが続々立ち上がって、そちらも読みました。ライトノベルって楽しむためだけにすべての力を注いでいるというジャンルであって、面白いものがほしい世代にとっては、それがすごく心地よかったんです。お母さんに「漫画ばっかり読むんじゃありません!」と言われながらも漫画を読むかのように、ライトノベルを読んでいました(笑)。まあ、うちの親はそんなことは言いませんでしたが。

――そういえば、漫画は読みませんでした?

有川 : 読みました。『ここはグリーン・ウッド』など白泉社の有名なところはおさえてありますね。『動物のお医者さん』とか。川原泉も大好きでした。

――そして、卒業して…。そういえば、ずっと高知にいらしたのですか。

有川 : ずっと高知で、大学に進学する時に関西に行きました。高校を卒業すると、感性が少年少女から離れていくんですよね。そうすると、欲しいものが少年少女のために書かれているライトノベルからも微妙にずれていく。その当時のライトノベルは、できたばかりのジャンルだったので、大人になっていく読者の受け皿というのがなかったんです。なので無理矢理ライトノベルにしがみついているか、はじき出されるかのどちらかしかなくて。かといって大人の読む、いわゆる一般文芸にもライトノベル上がりの嗜好の本読みははじかれて、しばらくは読んで楽しめるものがなくなっちゃったなっていう状態でした。その頃に人づてに出会ったのが、恩田陸さんや宮部みゆきさん。

――おお。お好きな作品は何でしょう。

有川 : 恩田さんは最初にたまたま出会ったのが『光の帝国』で、相変わらず気に入った作家は全部読んでいたので、『六番目の小夜子』まで戻って、かなり長い間楽しませていただきましたし、今でも『夜のピクニック』などで、楽しませていただいています。宮部みゆきさんは友人が『レベル7』がすごく面白いというので読んだら、一気読みで。そこから他のものも読みました。

光の帝国 常野物語
『光の帝国 常野物語』
恩田陸(著)
集英社
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六番目の小夜子
『六番目の小夜子』
恩田陸(著)
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夜のピクニック
『夜のピクニック』
恩田陸(著)
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レベル7
『レベル7』
宮部みゆき(著)
新潮社
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【ライトノベル再び】

――ちなみに、その頃ご自身では書いてました? 

有川 : 学生までは続けていました。社会人になってからは時間がなくて…。

――プロの作家になりたいとは思わなかったのですか。

塩の街 Wish on my precious
『塩の街 Wish on my precious』
有川浩 (著)
メディアワークス
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有川 : プロになりたいという夢はあったのですけれど、新人賞でもギリギリのところまで残るけれどその上に行けない、という状態が何回かあったんです。それで、ああ、私はここまでなんだな、と。上の段に指数本でひっかかってぶらさがっているだけで、上にはあがれない人間なんだと思っていたんです。社会人になってからは書く時間が減って遠ざかり、結婚して退職してヒマになって、時間ができたので書きたくなって書いたのが、『塩の街』です。

――電撃ゲーム小説大賞を受賞したデビュー作。

有川 : 以前途中まで書いてほうってあったのを書き上げて旦那に見せたら、「これをどこかに送ったらいいんじゃない」「送るなら電撃がいいよ」って。電撃ならデビューしたらとりあえず第二作目をすぐ書かせてくれるから…みたいな。

――詳しい!

有川 : 大人が真面目にライトノベルを読んでいるから、そのへんの推測はきっちりしてますよね。

――有川さんご自身は、その頃はライトノベルは読んでいなかったのですか。

有川 : コバルトとかソノラマ、つまりはライトノベルの作家になりたくて、でもギリギリのところまで手がかかるのに上に行けなくて、自分の手の届かないところだなと思ったら、読んだら未練になるので一回離れてしまっていたんです。諦めようとしても未練が生まれてきちゃうのが辛かったんですね。なので『塩の街』を書いた頃には、「ライトノベル」という言葉すら知らなかった。デビューしてからは読むようになりましたけれど。

――旦那さんはずっと、ライトノベルを読んでいたんですね。

有川 : 旦那は無差別な本読み。司馬遼太郎の歴史小説の総ナメから、技術書から思想書からビジネス書から何でもありで、その「なんでも」の中にライトノベルも入っていたんです。私が昔に書いたもの、趣味でちょっと書いたものなども読んでもらっていたんですけれど、私は手が届かないと思っていたのに「君はいつかプロになるよ」とずっと言っていました。大賞をいただいでデビューした時も、「ホラ、言った通りになっただろ」と、なぜか私よりもずっと、私が作家になると信じていました。

【深い軍隊知識】

――デビュー当初から有川作品にはミリタリー要素たっぷりですか、軍隊との出会いって…。

有川 : 初期体験としては漫画かな。『ファントム無頼』『パイナップルARMY』『エリア88』あたりですかね。それから、平成ガメラシリーズは、自衛隊を非常に格好よく描いて作品で、すごく影響を受けていますね。『塩の街』も、私は怪獣モノだと言っているんですが、怪獣を処置するのは現実的に考えて自衛隊だろう、と。そして調べることである程度の知識はたまっていく。あとは新谷かおるさんの戦闘機漫画が好きだったので、航空基地祭に行って実物を見たりもしていました。

ファントム無頼(1)
『ファントム無頼(1)』
新谷かおる (著)
小学館
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パイナップルARMY Operation(1)
『パイナップルARMY Operation(1)』
工藤かずや(作)
浦沢直樹(画)
小学館
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エリア88 (1)
『エリア88 (1)』
新谷かおる (著)
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――基地祭ですか。

有川 : 戦闘機を飛ばすんです。メインはブルーインパルスになるんですけれど、私はその前に行われる戦闘機の展示飛行にすごく燃えるタイプの人間でした(笑)。

――軍の組織にしろ航空機の機能にしろ、しくみを理解して作品に活かすのって、大変な作業ですよね。

有川 : まず、訳が分からないなりに何冊か資料を読む。そうしたらなんとなく分かってくるんです。詰め込んで詰め込んで、どこをバッサリ切るか、という。私の場合は膨大に詰め込んで、膨大に捨てるんです。

――資料というのは、そんなにたくさんあるんですか。

空の中
『空の中』
有川浩 (著)
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図書館戦争
『図書館戦争』
有川浩 (著)
メディアワークス
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有川 : 例えば『空の中』だったら、まずYS-11の開発関係の本から始まって、ボーイングとかエアバス、コンコルドの資料まで読む。これで何となく雰囲気を掴んで「スワローテイル」の開発に関する部分数ページに生かす。そんな感じですね。自衛隊に関しては『航空自衛隊パーフェクトガイド』という本もすごく便利です。

――巻末の参考文献を見ると、ああ、こんな本があるのか、と思いますね。『空の中』では宮崎弥太郎さんの本も挙がっている。高知の川漁師の方なんですね。

有川 : 高知では知る人ぞ知る人です。宮崎さんの、『Be-pal』の連載をまとめた本を読んで、自分の故郷である高知を舞台にしたいと思ったんです。それで、高知の沖に演習空域はないか調べて(笑)。あと資料としては、旦那が図書館で借りてくる本の中から、「これ参考になるよ」と言われたものを読んだり。そんな感じです。

――旦那さんが図書館によく行かれるんですね。そうでなかったら旦那さんが図書館で「図書館の自由に関する宣言」を見かけることもなく、それを有川さんに伝えることもなく、『図書館戦争』が生まれることもなかった。

有川 : 生まれなかったですね。

――それにしても『図書館戦争』シリーズも、図書館の軍隊組織をよくあれだけ緻密に構成しているなと思います。

有川 : 後から思ってもみなかった展開になった時に困るので、隙間をあけながらの設定なんです。隙間をあけるというのが難しいといえば難しい。組織図も完全に決めてしまうと、エピソードが広がりにくくなってしまうので。大枠のところをもっともらしく決めるんです。私はイージーな価値観でエンターテインメントを書きたいなと思っているので、ほどほどにもっともらしく、でいいと思っています。

――以前から「ほどほどにアクチュアル」とおっしゃられている。

有川 : ガチガチにアクチュアルが好きならば別のお店にどうぞ、うちでは商ってませんので誠にあいすみません、ということです。

――ところで作家になってからは、読む時間はありますか。

有川 : 同期でデビューした人の本はなるべく読むようにしています。それから電撃でいうと先輩に当たる川上稔さんや壁井ユカコさんや。ただ、やっぱり楽しみのために本を読む時間は減ってしまっていますね。

【あの人気シリーズがいよいよ…】

塩の街
『塩の街』
有川浩 (著)
メディアワークス
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クジラの彼
『クジラの彼』
有川浩 (著)
角川書店
1,470円(税込)
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――さて、新刊ですが、デビュー作『塩の街』が新たに単行本で刊行されましたね。

有川 : 雑誌で書かせていただいた短編三本に書き下ろし一本加えて、『塩の街』の後日談みたいなものを加えた一冊になっています。本編もちょっと変えてあります。

――四編も加わって、豪華版ですね。そして『図書館戦争』シリーズは、四巻で完結すると聞いているのですが…。

有川 : 秋以降、年内には四巻目にあたる『図書館革命』が出ます。このシリーズはこれで一応、キリのよいところで締めにしようかと。

――寂しいではないですかー。

有川 : 単行本の読者層を見てみると、小学生の方からお年寄りまで読んでくださっている。学生さんなんかは単行本を買い続けるのは大変だと思いますし…。

――ただラブコメ集『クジラの彼』には過去の作品のスピンアウトものも入っていますよね。そういう形でまた郁たちの様子が分かる可能性も…?

有川 : 可能性はあるかもしれません。

(了)

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