第26回

 一日明けて(7/1)、「FIインタビュー」。
 相手は、「第一回ライオン健康プリンセス・コンテスト」で7万人(公称)の中から選ばれ、「Ban16」のイメージソング「I Love あのコ・夏のMaki」(歌の中で自己紹介する変わった歌だった)でデビュー目前の江戸真樹('70年12月26日生まれ、和歌山県出身)だ。

 この当時、バブル前夜の景気とおニャン子を中心とした素人アイドルブームの影響で、年間300回以上、オーディションやコンテストが開催されていた(つまり平均するとほぼ毎日、日本のどこかでコンテストが開かれていたことになる!?)。「ライオン健康プリンセス・コンテスト」もそんなブームの中、新設されたものの一つ。その結果を伝える小さな記事を見つけたオレは、(これだったら、イケそうだ)とばかりにライオンの広報から事務所を教えてもらい、アポを取ったのだった。

 江戸真樹の初対面の印象は、とっても華奢で弱々しい小動物を思わせた。元気一杯だった一昨日の田中律子とは、対極にいるようなタイプ。"応援したくなる"というよりも"守ってあげたい"と思わずにはいられなくなるキャラクターだった。
(こんなコを芸能界に入れちゃって大丈夫なのか?)
 思わずそんな心配をしてしまった。

 コンテストへの応募動機を訊くと、
「最初はすごく軽い気持ち(で応募した)だったんです。本当にまさか、選ばれるなんて思ってもみなかったから、父にも母にも、友達にも内緒で申し込んだんです」
「選ばれた瞬間の気分は?」
「ほとんどあきらめて、泣いてましたね。選ばれたことを両親に言ったら、父も母もあきらめたみたいです。(笑)しょうがないって......」
 
 まるで、江戸時代に好色な殿様に目をつけられて、泣く泣く腰元にさせられた娘と話しているような気分になった。本心なのだろうが、どうみても芸能界に向いているとは思えない。ここまでは、誌面にも載っているやり取りだが、載せられなかったやり取りもあった。インタビューの閉めとして、
「最後に今一番やりたいことは?」
 と訊いたところ、返ってきた答えは、
「お家に帰りたい」
 だった...。
 
 取材が終わって、マネージャーと江戸真樹が帰った後、インタビュアーの吉岡平さんが本当に心配そうな顔をしながら言った。
「大丈夫ですかねえ。自殺とかしなければいいんですけど」
 日本中で岡田有希子の飛び降りに感化された若者の自殺が多発し、社会問題になっていた。

 さらに一日明けて(7/3)、「ここはこう撮れ特訓セミナー」の撮影、その翌日(7/4)は10月号用の「BUBLLE SISTERS」の撮影と続く。なぜ来月分まで撮っているかというと、8月のお盆進行を控えていたからだ。出版界には、年末進行、GW進行、お盆進行の"三大進行"呼ばれる取次や印刷所の休み(出版社も休むが)の影響で、進行が3日から一週間、場合によっては10日くらい早くなる時期がある(最近では、ハッピーマンデーで三連休が増えたため、三大進行とは関係なく入校を速めなければならない月も増えた)。週刊誌だったら、合併号を出して凌げるのだが、月刊誌はそうもいかない。毎月25日発売の「投稿写真」進行上、もっとも影響を受けるのがこのお盆進行で、しかも7月末には、どんな理由があろうとも社員全員絶対強制参加行かなかったらさあ大変の社員旅行があった(一泊二日とはいえ、忙しい中の二日間は大きい)。要は、「やれることは早めにやっておく」ということだ。