第58回

 4月号のキャスティングは楽勝だった。「FIインタビュー」は、トラック島のロケ写真の事後相乗りの形で持ち込まれた岡谷章子('69年6月8日生まれ、東京出身)に決まり、「アイシミュ」は、他のイベントの時に顔を合わせ名刺交換していたピュアコーポレーションのN社長が、「ザ・シュガー」の取材で来社した際に、姫乃樹リカ('71年10月6日生まれ、大分出身)を連れて、「投稿写真」編集部に立ち寄ってくれたので、その場で決まってしまった。芸能担当になってから、こんなに簡単に決まってしまったのは後にも先にもこの時だけだ。

 4月号では、例の無茶が功を奏した志賀真理子の相談室「一緒にBe Afflicted!」が始まった。タイトルは、人生経験のそんなにない十代の女のコが相談に答えるのはいくらなんでも無理があるので、"一緒に悩もう!"くらいのスタンスでとつけた。ただ、「悩む」に当たる英単語でピシッとくるものがなく、それならばあまり馴染みのない単語を使ってしまえ!! とつけた(今考えると、誤用に近いのでDon't Worryくらいにしておけばよかったと思っている)。一回目なので、相談の投稿をすべて作らなくてはならず、逆にずいぶん悩まされたのを覚えている(オレ自身があまり悩まないヒトなもので...)。志賀真理子は、どんな相談にも本当に親身になって、一生懸命に答えを考えてくれて、根っから優しいコなんだなぁとシミジミ感心してしまった。
 
 こんな感じで4月号は淡々と進んでいった。入社してそろそろ一年、ゴールデンウィーク進行にお盆進行、そして地獄の年末進行も何とかこなし、興味のなかったジャンルの芸能担当になって半年が経過、努力よりも運の力でそこそこのアイドルにも出てもらえるようになり、その他の長く担当しているコーナーはルーティン的にこなす技を会得して、いい意味でも悪い意味でも慣れてきた頃だった。

 そんな余裕を見抜かれたのか、編集長からある課題を申し渡された。それは、「ミーハーカンパニー」(読者から送られてきたアイドルへの思い入れたっぷりの応援文を採点する「糸井重里の萬流コピー塾」ようなコーナー)や「TVトリップ」(昔放映されたテレビのお宝映像の画撮写真を林明美(吉岡平)と2人で解説しつつ対談するコーナー)のライターである野々村文宏が、突然辞めたいと言い出したので(担当ではなかったので、詳しいことは分からないが、「ミーハーカンパニー」は1月号でリニューアルしたにもかかわらず、そのまま打ち切りに、3月号の「TVトリップ」の対談は林明美が一人でやっていた)、「TVトリップ」の対談相手を5月号に間に合うように至急探せと言われたのだ(ちなみに「TVトリップ」は編集長の担当だった)。
 これには困った。テレビのアニメや特撮ものなら大好きなので、そっちの線なら心当たりも浮かびそうだったが(一応、泉麻人の連絡先が手帳に書いてあるので候補として考えていたようだ)、アイドル関係もとなると何度も書いているように、それまで全く興味がなかったため、適当な人物の名が浮かんでこない。小一時間、ウンウンとうなっていたが馬鹿の考えなんとやらで、時間つぶしにしかならなかった。仕方なく何かの参考にならないかと「マスコミ電話帳」を眺めていて、目に飛び込んできたのが"大映テレビ"。
(そうだ。「大映テレビの研究」の竹内さんはどうだろう?)
 恐る恐るその名を編集長に告げてみる。
「いいんじゃないか。でも、毎回大阪まで行くわけにはいかないから、他の用事で月に一回くらい上京してるのか、ちゃんと確認しろよ」
 相変わらず、経費にはうるさい編集長だった(笑)。

 竹内さんの連絡先をどうやって調べたのかはよく覚えていない(多分、「大映テレビの研究」の版元の大阪書籍(当時)に訊いたのだと思う)が、電話をすると対談の件も上京の件もクリアであっさりと決まってしまった。
 この縁(?)で、本来は編集長が担当のこのコーナーの対談に2回に1回位立ち会うようになった。本筋の「TVトリップ」の対談には詳しいわけでないので、口の挟みようはなかったが、対談後の雑談には加えさせてもらった。いろいろな話をしたのだが、残念ながら、ほとんど忘れてしまった。ただ、一つだけ覚えている話がある。
「宗教の話なんやけど、僕の友達に宗教がメッチャ嫌いな奴がおってね。ある時、なんかの新興宗教に誘われたらしいいんや。そんな奴やから、もちろん断ったんやけど、その相手が『ウチに入れば何でも願い事が叶いますよ』って言うから、そいつは『だったら山口百恵と結婚させてくれ』と無茶を承知で言い放ったら、相手は涼しい顔で『させてあげます』と答えたそうなんや。『ほんまやな、絶対に山口百恵と結婚できるんやな』って、奴もできるわけないと思って、ほらみたことか!! とバカにしてやるつもりでその宗教に入ったんや」
 できるといって誘う方も誘う方だが、できないと知っていて入る方も入る方だ。
「しばらくして、偶然街でそいつに会ったんで、『どうや、山口百恵と結婚できそうか』って聞いたら、そいつすっごい真面目な顔で『お前、何のこと言ってるんや』て言うんや。僕はそれ以上突っ込むのが怖くなってそいつと別れたんやけど、結果はみんな知ってる通りで、もちろんそいつは山口百恵と結婚できなかったワケやけど、もうそんなん関係ないって感じやったわ」(一部、関西弁がおかしいかもしれません)
 なんの宗教だったのかは、あえて聞かなかった。ただひたすら怖い話だと思った。内容からすると'70年代後半の話のようだが、くしくもこれを聞いた'87年は、後に未曾有のテロを巻き起こすオウム真理教が、渋谷に設立された年でもあった。