第84回

 ロケから帰ると地獄の年末進行が待っていた。とはいうものの、これで3回目、しかも前の2回と比べると担当ページは7割ほどになっており、慣れもあってだいぶ楽に切り抜けることができた。
 その油断がタタったのか、大災難に見舞われた。
 その年の会社の忘年会と本の雑誌の忘年会が同じ日だったので、四谷にホテルを取っておいて、会社の忘年会が終わるや一度会社に戻って、会社に置いてある自転車で新宿の池林房で行われている本の雑誌の忘年会に向かった。しこたま酒を飲み、お土産のワインを片手に、いい気分で裏道を自転車で四谷に向かって走っていたら、何がどうなったのか全く分からないが、突然天地がひっくり返った。酔いのせいで受け身も取れず、顔面からアスファルトに突っ込んだ。
 ガツン!!
 口の部分をしこたま打ちつけたので、押さえながら何とか立ち上がった。口の中に異物感、吐き出してみると折れた前歯だった。それから、口の中に血がたまり出す。あわてて押さえたが、指の隙間から滝のように血が流れ出す。
 しばらく、道路の脇で休み、自転車を押しながらホテルにたどり着いた。
 不思議なことにお土産のワインは割れもせず、無事だった。
 次の日は、撮影だったので、朝起きると医者にもいかず、コンビニでマスクを買って集合場所に向かった。昼飯のソバが食いづらかった。
 撮影が終わって、会社の近くの病院へ。看護婦さんが、「今日の受け付けは終了です」というので、マスクを外してみせると(それは大変!!)とばかりに治療室に通してくれた。
 傷の治療が済んだら今度は歯だ。幸い歯医者はまだやっていた。
「根元は残っているので、かぶせる形で直せますけど。グラグラになってるのでそれが安定してからですね」
 結局、年明けの7月まで、前歯は復活しなかった。