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3月11日(水)

 夜、児玉さんが手でアクセルとブレーキを操る車に乗って、宿泊するホテルに向かっていた。国道の脇には造船所の灯りを反射させた海があり、海には大きな船がいくつも停泊していた。

 昼に尾道に着き、それから啓文社各店を案内していただいた。
 啓文社は、私が「良いだろうな」と想像していた以上に、素晴らしい書店で、それは店頭だけでなく、レンタルやCDショップ、あるいはネットカフェ、リサイクル本などの複合書店として新しいかたちを追求しているのが見えたからだ。これはもしかするとナショナルチェーンにはできないことを啓文社がやろうとしているのではないか、と思ったりもした。

 人生のなかで、この瞬間はおそらく一生心に残るだろうと思うときがあるけれど、私はこの児玉さんと一緒に車に乗ってホテルに向かっている時間がそうであることを確信していた。私はこれから何度もこの日のことを思い出すだろう。

 素晴らしい一日が、今、終わろうとしていた。

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