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4月6日(月)

告白
『告白』
湊 かなえ
双葉社
1,512円(税込)
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 2003年に本屋大賞の設立を発表したとき、顔見知りの営業マンから「なんか手伝うことあったら協力するよ」と有難い申し出をいただいた。東京創元社の営業マンは、本屋大賞設立のチラシを持って、私が行けない地方の書店さんを廻ってくれたし、双葉社のOさんからはとにかく告知をしようと、ネット担当のHさんを紹介していただいた。

 そのHさんこそが、目黒考二が『本の雑誌風雲録』で「もし本多健治に話をしなければ、その『本の雑誌』は楽しいおはなしで終わっていたかもしれない。当時、『漫画アクション』の若き編集者で、やたらに好奇心の旺盛な青年だった」と書く本多さんなのであった。編集実務に精通していた本多さんが、目黒さんと椎名さんの尻を叩いたからこそ「本の雑誌」は夢物語で終わらず、創刊されたのであるという。

 私は緊張して本多さんにお会いした。職人のような風貌の本多さんは、おそらく30年近く前に目黒さんや椎名さんにした表情と同じように「面白そうだね、こういうことはどんどんやっていかないと」と言って協力を申し出てくれた。具体的には双葉社が加盟している s-book.netという書店注文用ホームページにバナーを張ってくれたのだ。ここは毎日書店さんが注文する際に見るホームページだから絶大な効果があった。

 それから毎年発表会の招待状を送ったのだが、本多さんはいらっしゃることはなかった。どういう理由からなのかわからなかったが、私はいつも発表会に誰かが足りないと思っていた。

 そうこうしているうちに本多さんは定年を迎えていた。

★   ★   ★

 2009年3月上旬、二次投票を集計すると双葉社の『告白』湊かなえ著が本屋大賞に内定した。その連絡を双葉社にすると翌日営業仲間だったOさんから携帯に電話があった。

「本多がね、役員になっているのよ。だからもうこの受賞はうれしいはずだから、今年こそ出席してくれると思う。招待状を忘れずに送ってね」

 私は翌日、感謝の気持ちを添えて招待状を送った。

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 この日行われた本屋大賞の発表会では、私はあっちこっち走り回っていた。特に用があるわけでもないのだが気になるところをチェックする係なのだから仕方ない。

 やっと一段落ついて受付に戻ると、ちょうどその時会場から出てこられたのが本多さんだった。きちんと顔を合わすのはそれこそ2003年以来だから6年半ぶりだ。私は思わず手を出して握手を求めると、本多さんは一瞬ポカンとされたが、私だと思い出すと、強く手を握り返してくれた。うれしかった。泣きたいくらいうれしかった。本屋大賞は、私にとってかけがえないものになろうとしている。

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