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4月23日(金)

「うにょー!」
 常に声のでかいぐっさん浜本が、いつも以上に大声を上げたのは、夜7時のことだった。

 その時間になると注文や問い合わせの電話もぐっと減り、社内は静かになっている。それぞれ集中してデスクワークに勤しみ、キーボードを叩く音しかしていないため、全員浜本の大声に驚き、顔を上げた。注目を一同に集めた浜本は、席を立つと校長先生のように手を後ろに組み、胸を迫り出して話し始めた。

「皆様にご報告があります。ただいま調査しましたところ、なんと『本の雑誌』2010年5月号は、35周年記念号でした」

 そうかあ、じゃあまた記念特大号を作らないと......。
 うん? 2010年5月号?!

 な、な、なんと今店頭に並んでいる「本の雑誌」が、創刊35周年の号だったのである。後の祭りだ。オーマイガーッ!

「どうするんですか?」
 私が聞くと、浜本はウィンクしながら答えた。
「通過点ですから」
 まるでイチローのように涼しげな表情で話すと、すかさず氷結・松村が
「いいんじゃないですか」
と承諾する。
 特大号を作るとなれば一番大変になるのは編集の松村だ。

 そのとき事務の浜田がぽつりと漏らす。
「40周年はさすがにないんじゃない......」
 確かに5年後に「本の雑誌」があるとは限らない。もう○周年記念号は作れないのかもしれない。

 それらのやりとりをまるでムンクの叫びのような顔で見つめていたのは、新人編集者・宮里である。
 まさかこんな大事なことを社員全員が忘れ、しかもそれを平然と受け流している会社に就職したなんて......。
 声には出していないがその表情が訴えていた。

 そういえば宮里は本の雑誌社に入る前は、サイのマークの晶文社に勤めており、晶文社は先日も創立50周年フェアなど大々的にやっていたのだ。

「いろんな会社があるんだな よしつぐ」

 しかも35周年に気づいた時点で、すでに次の「本の雑誌」2010年6月号は校了しており、もはやどうすることもできない。どうなる本の雑誌、どうする本の雑誌。その結果は今後の紙面に注目なのである。

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