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10月18日(月)

 とある書店さんを訪問すると、私の前に年配の同業営業マンがいて、書店員さんに声をかけているところだった。

「いつもお世話になっています。◯◯出版ですが、××書のご担当の方いらっしゃいますでしょうか?」

 それはもっともふつうな声をかけ方だったが、声をかけた相手がそのジャンルの担当者だったらしく「担当は私ですが」と返事をしたあと、忙しそうに新刊を並べ続けていた。

 年配の営業マンは、手に持った新刊案内を渡そうとしているのだが、書店員さんは気にかける様子もなく、自分の仕事をしている。よくある光景なのだが、私は先週末会った、父親との会話を思い出していた。それは父親の知人が、会社で管理部門から営業に回され、長年勤めた会社を辞めてしまったという話だった。

「自分からやめるように仕向けるリストラだよ。ずっと社内で働いていた人に、営業なんてできるわけないんだ」

 その言葉を聞いて私は思わずそんなことないよと反論しようと思ったが、言葉を飲み込んだ。確かに営業は苦しいかもしれない。でも......。

 結局、その年配の営業マンは、無視された格好のまま、新刊案内を渡せずにお店を後にした。

 書店さんにとって必要な営業マンは、おそらく売れている本を出している出版社の営業マンとこれから売れそうな本を出す営業マンなのだ。

 それ以外の営業マンは仕事の邪魔でしかなく、まあ本当にそのとおりなんだけれど、だからこそ邪魔にならないように何か情報を持って行きたいと考えている。

 自社の本がなかなか売れないのなら、他社の本で売れている本を紹介したり、ほかのお店の面白いフェアなど、ベストセラーを作れないなら、そうやって自分に付加価値をつけ、少しづつ関係性を深めていくしかないだろう。

 そういう私だって、先程背中を丸めて去っていった営業マンと変わらない日々を過ごしているのだが。

 いつか売れる本を出すぞ! そう思いながら、サッカーのビデオを見たり、本を読んだり、あるいは子どもと遊んで必死に毎晩気分転換している。気分転換に失敗したら、私も父親の友だちのように営業をやめているかもしれない。

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