11月9日(火)
- 『二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)』
- 西村 賢太
- 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 473円(税込)
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カーテン越しの太陽の光の強さによって、私はまた寝坊してしまったことに気づいた。しかし頭がぼうっとし、身体全体がだるく、布団から抜け出すことができない。昨夜も3時まで「サカつく」をやってしまったのだ。
時計を見ると、遅刻ギリギリの時間だった。遅刻や欠席は一度すると際限がなくなる。壁は思ったよりもずーっと低くて薄いのだ。
意を決して立ち上がり、居間を覗くと、いつもは私が着替させている息子と娘はとっくに食卓について朝食をとっていた。いくら食べても腹が減る年頃の娘は、お茶碗のご飯を一気にかき込むと私に向かって口を開いた。
「パパ、ゲームやりすぎ!」
妻も追い打ちをかけるように叱責してきた。
「昨日コタツつけっぱなしだったよ。いい加減にしてよ。もうゲームは一日1時間! お姉ちゃん、パパのDS、あんたの鍵のかかる机にしまって。鍵はママが預かるから。やりたいときは言って。でも1時間よ」
娘や息子のゲームやテレビも時間制限がないのに......。
もはや父親としての威厳も何もないのだが、廃人寸前となってしまった私の暮らしを考えると、妻の申し出はありがたいように思えた。私は素直にDSとカセットを渡した。
★ ★ ★
電車に乗って、久しぶりに本を開こうとしたのが、思わずDSのように縦に開きそうになってしまった。活字がまるでサッカー選手のように動き、しばらく落ち着かなかったのだが、やはりゲームとは違う脳が刺激されるらしくあっという間に物語に没頭しだす。
読んでいたのは文庫化された『二度はゆけぬ町の地図』西村賢太(角川文庫)である。当然単行本のときに読んでおり再読になるのが、この誰にでも思い当たる喜怒哀楽を、思い切りデフォルメしたかのように描かれる私小説は何度読んでも面白く、特に自身の暴行騒動によって留置所に入れられた際の「春は青いバスに乗って」は傑作中の傑作だと思う。
この手の警察逮捕ものは、悪ぶる書き手の匂いがプンプンとするものなのだが、西村賢太の筆致はその細部に渡るまでの観察眼が冴え渡り、そこでの暮らしぶりだけでなく精神面まで事細かに描写し、その手の嫌な匂いはまったくしないのだ。
そうしてやっと自由の身になった彼を待ち受ける、もうひとつの世界。ため息がでるほど素晴らしい小説だ。
こういう作家が今存在していることがどれほどありがたいことか。帯に「デビュー作『どうで死ぬ身の一踊り』が『本の雑誌』が選ぶ文庫ベストテン2009で1位!」と大きく書かれていることを誇りに思ってしまったが......話の内容は彼女を罵倒し、母親に金を無心し、酒と性にまみれ、まったくどうしようもない暮らしなのである。
★ ★ ★
営業は埼玉。
随分長い間お世話になっている書店員さんがまもなく退職するとのことで淋しい気持ちでいっぱいになるが、こちらも随分お世話になっている浦和のK書店のSさんといろんな話をして回復する。
帯に推薦文も書かれている北与野の書楽さんでは、『早雲の軍配者』富樫倫太郎(中央公論新社)が月に十数冊売れるロングセラーになっているとか。単行本でこうやって売れるのは、ありがたいというか、うれしいというか、勇気がでる。
時計を見ると、遅刻ギリギリの時間だった。遅刻や欠席は一度すると際限がなくなる。壁は思ったよりもずーっと低くて薄いのだ。
意を決して立ち上がり、居間を覗くと、いつもは私が着替させている息子と娘はとっくに食卓について朝食をとっていた。いくら食べても腹が減る年頃の娘は、お茶碗のご飯を一気にかき込むと私に向かって口を開いた。
「パパ、ゲームやりすぎ!」
妻も追い打ちをかけるように叱責してきた。
「昨日コタツつけっぱなしだったよ。いい加減にしてよ。もうゲームは一日1時間! お姉ちゃん、パパのDS、あんたの鍵のかかる机にしまって。鍵はママが預かるから。やりたいときは言って。でも1時間よ」
娘や息子のゲームやテレビも時間制限がないのに......。
もはや父親としての威厳も何もないのだが、廃人寸前となってしまった私の暮らしを考えると、妻の申し出はありがたいように思えた。私は素直にDSとカセットを渡した。
★ ★ ★
電車に乗って、久しぶりに本を開こうとしたのが、思わずDSのように縦に開きそうになってしまった。活字がまるでサッカー選手のように動き、しばらく落ち着かなかったのだが、やはりゲームとは違う脳が刺激されるらしくあっという間に物語に没頭しだす。
読んでいたのは文庫化された『二度はゆけぬ町の地図』西村賢太(角川文庫)である。当然単行本のときに読んでおり再読になるのが、この誰にでも思い当たる喜怒哀楽を、思い切りデフォルメしたかのように描かれる私小説は何度読んでも面白く、特に自身の暴行騒動によって留置所に入れられた際の「春は青いバスに乗って」は傑作中の傑作だと思う。
この手の警察逮捕ものは、悪ぶる書き手の匂いがプンプンとするものなのだが、西村賢太の筆致はその細部に渡るまでの観察眼が冴え渡り、そこでの暮らしぶりだけでなく精神面まで事細かに描写し、その手の嫌な匂いはまったくしないのだ。
そうしてやっと自由の身になった彼を待ち受ける、もうひとつの世界。ため息がでるほど素晴らしい小説だ。
こういう作家が今存在していることがどれほどありがたいことか。帯に「デビュー作『どうで死ぬ身の一踊り』が『本の雑誌』が選ぶ文庫ベストテン2009で1位!」と大きく書かれていることを誇りに思ってしまったが......話の内容は彼女を罵倒し、母親に金を無心し、酒と性にまみれ、まったくどうしようもない暮らしなのである。
★ ★ ★
営業は埼玉。
随分長い間お世話になっている書店員さんがまもなく退職するとのことで淋しい気持ちでいっぱいになるが、こちらも随分お世話になっている浦和のK書店のSさんといろんな話をして回復する。
帯に推薦文も書かれている北与野の書楽さんでは、『早雲の軍配者』富樫倫太郎(中央公論新社)が月に十数冊売れるロングセラーになっているとか。単行本でこうやって売れるのは、ありがたいというか、うれしいというか、勇気がでる。