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11月8日(月)

「落ちるのは簡単なのよ」

 ほとんどの先生が自分の仕事をしているフリをしながら、私と女性教師のやり取りに注目しているのがわかった。入学して2ヶ月が過ぎた高校生活。私が1週間ぶりに学校に顔を出すと、すぐ職員室に呼び出されたのだった。

 入学試験の結果を前に、女性教師は私の目を覗き込んでくる。

「杉江くん! あなたはやればできる子なの。ね、ここで落ちて言ったらどんどん落ちて、ヘタらした留年だってありえるのよ。今が肝心よ」

 そう言った先生は3年後、残したほうが学校に悪影響がでるといって、私を卒業させてくれたのだが。

 私が学校に行かなくなったのには特に理由はない。強いて挙げるならば、学校より楽しいことがたくさんあったからだろう。

 それにしても学校の先生が言うことのほとんどが嘘ばっかりだったのに、この先生が言った「落ちるのは簡単なのよ」は本当だった。

 学校に行かなくなって、いや行っても教科書を開くことがなく、当然のように成績は急降下した。入学時はおそらくトップから10番ぐらいだったのに、3年時には518人中、510番になっていた。私の後ろは試験を受けていない奴......という噂だった。

 窓際の席から私はいつも空を見ていた。そして考えていた。

「落ちるの、本当に簡単だったなあ。これから何しようかなあ」

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「サカつく」がやめられない。
 だから何も手につかない。

 とりあえずニンテンドーDSをカバンに入れるのはやめよう。

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