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2月24日(木)

 とある書店さんを訪問すると、「見て見て」と注文短冊を渡される。それは20数枚の文庫の注文短冊で、何かと思ったらすべて品切れで戻って来た短冊だった。

「こんなに品切れなんですか?」と驚いて訊ねると、「そうじゃないんだよ、これ、うちのお店が注文した本じゃないの」と不思議なことを言う。

 注文短冊とは、書店さんが出版社に注文する際の、いわば注文書だ。
 書店さん以外に誰が注文をするのだろう。

「取次店がさ、うちの名前を使って勝手に注文しているんだよ。これは品切れだったから注文短冊が戻って来ているけど、この何倍も勝手に本が送られて来ているんだ。まったく必要がない本ばかりだから、みんな返品しているけど......」

 意味がわからないのであった。
 書店さんが欲しいと思わない本を、取次店が勝手に出版社へ注文する。その注文は書店さんの名前で出ているのだから出版社は売れているのかと思って当然出荷する。ところが書店さんは不要だから返品をする。ちなみに返品には手数料がかかる。

「ほら、3月が取次店の決算だから......」

 もっと意味がわからないのであった。決算だからって勝手に注文をしていいのか?

 そういえば私の親友シモザワは、建築商社に勤めているのであった。取次店と似たような職種であるので、お店を後にし、早速電話で尋ねてみる。

「工務店や業者が必要としない商品を決算だからといって勝手に納品することがあるか?」
「あるわけないだろうが。そんなことが許されるなら、俺は仕事しないよ」

 そりゃあ、そうだ。私だって勝手に書店さんに納品できるなら何もわざわざ毎日歩きまわる必要はないのだ。

 どの業界も魑魅魍魎としているのは当然なのだが、それにしてもこのような異様な商習慣が、おそらく毎年決算時に繰り返されているのは、その根底に本は返品できるからという甘えがあるからだと思う。

 しかしそれにしたって、片方では返品率の改善を叫びながら、自社の決算のためなら返品率が上がろうが、架空の注文短冊を作っているのである。不思議で、不毛だ。

 別の書店さんでその話をしたら「うちはそういう商品を引き取らずに戻しているよ。だってさ、それって書店で考えたらお客さんのカバンに無理矢理本を突っ込んで、代金を払えっていっているようなもんでしょう」と本気で怒っていた。

 何よりも、本が本として扱われていない、あまりに悲しい現実が、この架空注文にある。

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