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7月14日(木)

 発行人の浜本が夏休みでハワイに行っており、なんだか社内は気の抜けた空気が流れ、いつもなら遅くまでいる浜田も松村も定時でさっさと上がっていくのであった。

 気づいたら編集部の宮里と私だけになっており、そういえば宮里も入社して1年以上が経ち、いろいろ不満を抱えていたりする頃だろう。こんなときこそ中間管理職の私がガス抜きしてやらなければならないと、酒に誘ってみたのであった。

 実は私、会社に人間と酒を飲むのが嫌いである。なぜなら会社を出た瞬間に仕事のことを忘れたいというのが第一、そして第二に元来のカラマレ体質が社内酒で発揮されると面倒くさいのである。事務の浜田なんか酒を飲むたびにからんで来て「あんたいつも偉そうに言っているけどさ」なんて言いながら、口で開けたビールの王冠をピュッと飛ばしてくるのである。

 だからほとんど会社の人間と酒を飲みに行くこともなく、また宮里と二人で酒を飲むのも始めてのことである。宮里はふたつ返事で「いいっすね」と答え、パソコンの電源を切ると、二人で十号通りを歩き、「男の台所おやじ」の暖簾をくぐったのであった。

 さーて、誘ったのは私であるから、ここは私が勘定を持たなければいけない。宮里はかなりの酒飲みと聞いているので、ビールなんて薄い酒を飲ませていてはいけないと、すぐ焼酎のボトルを入れたのであった。「飲め、飲め、大いに飲め」と言いつつ、ほとんど割らずに氷だけ浮かべて焼酎を宮里に差し出すと、「いいっすね」と口をすぼめてキューッと喉を鳴らした。

 しばらくそうやって飲んでいたのだが、一向に宮里の愚痴は始まらない。始まらないどころか、つまみにのばす箸とグラスはしゅっちゅう空になり、私は彼の焼酎を用意するのに忙しい。そうして気づいたら、ボトルが空いているではないか。

「もう1本、行きますか?」

 笑う宮里の腕を引っ張り、私はお勘定をお願いしたのであった。

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